全剣連新会長挨拶

All Japan Kendo Federation New president's Message.

全日本剣道連盟 会 長 張 富士夫 Fujio CHO

全日本剣道連盟 張 富士夫会長

この度ははからずも武安会長の後を承け、全日本剣道連盟の会長に就任致すことになりました。私は学校卒業後愛知県の会社に入社し製造現場で20年以上、またその後アメリカの現場で10年以上過ごしていたものですから上京の機会も少なく、これまで全剣連には何の貢献もできず会長を務める資格はないと思っておりました。しかし理事の皆様のご推挙を受け、大変恐縮ながらお受けした次第であります。

全剣連はこれまで多くの皆様の大変なご努力、ご尽力の結果、とても強固な組織となっているようにお見受けいたします。とりわけ武安前会長の永年にわたるリーダーシップの下で、ここまで全剣連を発展させてこられた理事会の皆様には深い敬意の念を覚えます。私がこれからどれだけ全剣連の発展に貢献できるかはわかりませんが、少しでも多くお役に立ちたいと願っております。

思えば終戦直後に北京から引揚げ、混乱した時代の中で教育も満足に受けられず、将来も考えられない幼少時代でしたが、15歳で剣道に出会ってから大きく生き方が変わりました。大学、就職をはじめ人生の大切な節目は剣道なしでは語れません。これまで育てていただいた先生、先輩、友人の皆様に対しての感謝の念は、年齢を重ねるほど益々強くなる一方です。それだけに、剣道に対する自分なりの貢献ができないかという思いは以前からございましたので、これから皆様のご指導を得ながら一生懸命頑張っていこうと思っております。

身体を鍛え少々のことにはへこたれない強い人間を育てること、これは他のスポーツと同様でありますが、剣道はそれに加えて精神面の修養、心の鍛錬が求められます。「剣道の四戒」といわれる驚懼疑惑もそうですが、自分の心と向き合い外の動きに冷静に対処する所謂“不動心”を養うこと、そのために稽古を重ねるのだというのが私の思いであります。さらに真剣による立合いが原点であるが故に、相手を敬い、そのための礼の心、礼の作法が大変重要な意味を持っていると思います。したがって剣道は単なるスポーツというよりは禅にも共通する心のあり方も養うもので、日本固有の文化の色彩も多分に有していると思います。

日頃の厳しい稽古により心の鍛錬を受けた若者が社会へ出た時、どれだけきちんと身を処することができるかは大変大きなことであります。剣道の稽古で体得した「努力は必ず報われるという信念」「何事にも慌てず冷静に判断し処置すること」「相手を常に敬う礼の気持」は実社会でもそのまま通じます。私は世の中を道場と見做し何の違和感もありませんでした。多分剣道愛好家の読者の皆様にもご賛同いただけるのではないでしょうか。

近年中学校で剣道や柔道の授業が必修化されたことは大変嬉しいことであります。我が国の精神文化の影響を強く残している“武道”を一人でも多くの若者に知ってもらうことは、国の将来にも係わる大切なことであります。道場での厳しい稽古を通じて、一回りも二回りも大きな人間になっていただきたいと思います。先生や先輩に対する礼の心、敬う心、友人を大切にする心、他人への思いやり等々、数え上げればきりがありませんが、これらを身に備えた若者が一人でも多く出てくれることを心から願っております。

全剣連としてやる事はたくさんあると思います。できる限り現地現物で勉強し、多くの方々に直接お会いし、ご意見を伺ったり、アドバイスをいただいたりしたいと思っておりますので、ご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げ、新任のご挨拶とさせていただきます。

この記事は、月刊「剣窓」2013年9月号の記事を再掲載しています。

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