我が国において、国際レベルの競技選手に対するアンチ・ドーピング(ドーピング防止)の啓発活動が組織的に行われるようになってから十数年経ちました。トップアスリートに対しては、アンチ・ドーピングに関する情報提供やサポートが積極的に行われています。さらに、教育現場においてもアンチ・ドーピング教育が導入されるようになりました。
平成25年度、文部科学省は高等学校で実施される新学習指導要領の体育理論に「オリンピックムーブメント」と合わせて「ドーピング」を盛り込みました。すなわち、高等学校の体育の座学において、オリンピックとアンチ・ドーピングの授業が行われるということになったのです。トップアスリートではなく一般の高校生に対する教育に、オリンピックとドーピングは直接的な関係は浅いように思えますが、オリンピックムーブメントにおいては、国際親善や世界平和への貢献を、アンチ・ドーピングの授業では単に禁止薬物や禁止行為などのドーピングの注意喚起ではなく、フェアプレイの精神を指導することが大きな狙いになっています。
日本アンチ・ドーピング機構(JADA)のホームページに掲載されている授業教材「アンチ・ドーピングを通じて考える--スポーツのフェアとは何か--」においては、フェアプレイについて、「自分を信じて最善の努力をし、懸命に勝利を目指そうとすること--Excellence」、「仲間を信じること--Friendship」、「対戦相手や仲間を尊敬すること--Respect」の三つで説明されています。このことからも読み取れるように、青少年期に学ぶべきアンチ・ドーピング教育は、禁止薬物の害やドーピング違反の罰則などのテクニカルな内容ではなく、アンチ・ドーピングから学べるフェアプレイの精神であることがわかります。また、アンチ・ドーピング教育は、薬物乱用防止教育にも繋がる教材としても期待されています。
既知の通り、剣道においてもドーピング検査が実施されています。剣道においてもアンチ・ドーピングの啓発活動は続けていく必要があります。青少年期に対する啓発には、アンチ・ドーピングを通じて正々堂々を学ぶという視点が求められています。
アンチ・ドーピング委員会 委員 齋藤 実
* この記事は、月刊「剣窓」2014年10月号の記事を再掲載しています。