アンチ・ドーピング委員会コラム_08

血液ドーピング「採血検査」について

世界ドーピング防止機構の新規定が2015年から導入されます(WADA2015)。

血液検査の契機となったのは、1998年夏のツールドフランス(世界的な自転車プロロードレース)で、血液検査の結果、持久性を向上させるエリスロポエチン(EPO)の異常高値が自転車選手から多数発見され、大事件となったことです。この後、2002年のソルトレーク五輪では持久性競技者全員に血液検査が実施されました。このEPOの検出に加えて、新たに特殊な手法として、競技者生物学的パスポート(Biological Passport)の恒常化が明記されています。これは対象選手への複数回(1回10~20ml)の血液検査結果を一定期間に行い、これらの結果を総合的に判断することによって、違法行為の有無を判定する方法です。採血規定では肘の静脈から、3回まで針を刺すことができ、拒否した場合はドーピング違反とされます。重要なのは、①採血は採尿と異なり、医療従事者が行う医療行為であり、②稀に重篤な副作用があるので副作用などについての事前説明(インフォームドコンセント)が必要なことです。

採血に伴う副作用については、日本赤十字社がそのホームページで神経損傷について次のように述べています。「静脈採血では、筋膜上の皮神経(知覚神経)や肘部静脈上の皮神経を損傷することはあっても、正中神経など重大な神経を損傷することはない。しかし稀に穿刺針を深く刺入する事により筋膜を貫き正中神経を損傷することがある。刺入を繰り返すことや駆血を強く長時間行った場合にも神経障害が発生することがある。通常は2~4週間で軽快するが、稀に2カ月程度を要することがある」。

アンチ・ドーピング委員会では、世界剣道選手権大会を控えた剣道人に対する採血によるリスクについて大きな懸念をもっております。特に、剣道の場合、前腕、肘、手首、手指が競技能力に深く関与することから、このような神経損傷が起こった場合、選手は競技会で十分な能力を発揮することができなくなる可能性があります。また、この危険性を考えると、五輪実施以外の競技については、血液検査導入の必要性が低いのではないかと考えています。

アンチ・ドーピング委員会委員 朝日茂樹

この記事は、月刊「剣窓」2014年12月号の記事を再掲載しています。

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