最近、稽古が終わった翌日や翌々日に疲れが残るようになりました。食事では、どのようなことに気をつければよいでしょうか?(48歳男性)
疲労回復の栄養のポイントは、日頃から疲れにくい強靭な体をつくること、運動中の水分補給を適切に行うこと、そして運動後の飲食に気を配ることです。
疲れをすぐに癒してくれるような食べ物はありません。まずは日頃から栄養バランス良く食べて、疲労を溜めこみにくい強い体づくりをしましょう。そのためには「栄養フルコース型」の食事がお勧めです。これは①主食(ごはん、パン、めん類)、②おかず(肉、魚、卵、納豆や大豆などの大豆製品)、③野菜(なるべく色の濃い野菜を多めに)、④果物(なるべく甘酸っぱいかんきつ類)、⑤牛乳(牛乳やヨーグルトなどの乳製品)をそろえる食べ方です。体をあまり動かしていない日は①〜③を1日3回、④と⑤を1日1回摂りましょう。運動量の高い日は①〜③を毎食と、④と⑤を1日2、3回摂ります。そうすると、栄養を無理なくバランス良く摂ることができます。
脱水をすると、疲労感が強くなります。運動量が高い稽古やトレーニングの場合、運動の1時間ほど前から少しずつこまめに水やお茶(カフェインの少ない麦茶や番茶など)を摂ると、運動中の脱水の予防になります。運動中もなるべく水分補給を少量ずつまめに行いましょう。なかには、水分補給を意識しすぎて水分を摂りすぎる場合もあります。水分が多すぎるとトイレの回数が増えたり、体が重くなったり、稽古やトレーニングを集中して行う妨げになります。摂らなすぎも摂りすぎも良くありませんので、水分補給は適切に行いましょう。たくさん汗をかいた日は運動後から就寝までの間も、運動で失った水分を補うと、よりスムーズな疲労回復を実感できるでしょう。
運動の直後に栄養補給を行うと、運動で枯渇した体内のグリコーゲン(エネルギー源)の回復がスムーズになります。稽古やトレーニングの直後に糖質を多く含んだものを摂りましょう。
糖質を多く含む食べ物・飲み物はおにぎり(1個)、ロールパン(2個)、果汁100%ジュース(300ml)、バナナ(2本)などです。(かっこ内の分量は体重60kgの人が1時間程度運動量の高い稽古やトレーニングをした場合です)。摂るタイミングは、運動後なるべく速やかに、できるならば着替えの前ぐらいの運動直後がいいです。
疲労が強い日は、内臓も疲労をしています。油脂の多い食事は消化吸収に時間がかかり、内臓の負担を増してしまいます。運動後の日の食事は、低脂質でさっぱりとしたメニューにしましょう。揚げ物以外の和食、特に鍋料理は低脂質な上、タンパク質源である肉や魚、野菜、そして一緒に食べるごはんや鍋に入れる麺類で糖質をとることができ、とてもお勧めです。
成人剣士の場合、稽古の後に仲間内でお酒を交わす機会もあるでしょう。アルコール飲料は日頃のストレスを発散させ、疲れを癒すイメージがあるかもしれません。楽しいひと時は精神的に良い影響をもたらすことがありますが、アルコールの飲み方によっては疲労を増します。疲労回復を担う重要な臓器である肝臓は、アルコールが体内に入ると疲れを癒すよりもアルコールの解毒作業にとりかかります。自分の適量以上のアルコールを摂取したり、連日多量のアルコールを摂取する人は、疲労回復が十分に行われず、疲労が蓄積します。アルコールは、適量を適切な頻度で楽しみましょう。
稽古の後の第2道場の場合、アルコールを先に摂ると吸収が早くなります。稽古の後はまず水分を摂ります。飲食店についたら、おつまみを食べて胃の中にクッションを作りましょう。お酒を飲むときはチェイサー(水)も一緒にとるといいですね。そして最後のシメは軽めにしておくと、肥満予防や安眠につながります。
食事が摂りにくい試合の日や合宿の時にサプリメントを活用するのは賢い方法です。が、むやみにサプリメントを使用するのは栄養過多や余計な費用がかかり、お勧めできません。しかし時と場合によっては役立つ時があります。疲労が強くてなかなかとれないときはアミノ酸を活用してみてはいかがでしょうか。稽古の後に総合のアミノ酸を1回分摂り、先に述べた栄養補給を少ししてから着替えなどをして、落ち着いたら栄養バランスの良い食事をすると、普段よりも疲労回復がスムーズになります。
栄養ドリンクの多くには色々な生薬が入っており、価格によって品質も異なります。使用については良いとも悪いとも言い切れませんが、注意点が2つあります。試合や昇段審査など大切な時に初めての栄養ドリンクを使うのはやめましょう。緊張をしている時に初めてのものを試すと、体調不良につながりかねません。また、生薬や漢方の入った栄養ドリンクはドーピング禁止物質が入っている場合もありますので、その点も考慮した上で使用を検討してください。
疲労は溜めこまず、その日のうちになるべく解消することが大切です。疲労回復のための食事をとりつつ、風呂やストレッチなどの積極的休養と、良質の睡眠をとりましょう。疲れているからといって深酒をしたり、睡眠直前に飲食をすると安眠の妨害となります。カフェインの多く入った飲料なども疲労回復をうながしてくれるイメージがありますが、睡眠前に摂るとかえって睡眠を妨げる可能性があるので、注意をしてください。
山田 聡子(日本体育協会公認 スポーツ栄養士)
「剣道医学Q&A(2014/12発行)」より抜粋