コンピューターの誤作動を国中で心配した効果でしょうか、問題なく年を越して西紀2千年を迎えることができたのはご同慶の至りです。
全剣連も第44半期に残された事業の推進に遺憾なきを期していますが、その中でも3月末に米カリフォルニア・サンタクララで開催の、第11回世界剣道選手権大会の準備に、国際関係者は忙殺されています。また日本選手団の構成も固まり、大会に向かっての体制を整えつつあります。
一方例年どおり、新年度の事業に対し、各担当役員は、専門委員会での検討も加えつつ、改善事項や新しい事業の進め方などを固め、新年度への準備を進めています。
例年のとおり、2月上旬の常任理事会、各剣連の専務理事、理事長会議、中旬の剣道研究会、3月に入っての審議会などを経て、中旬の理事会・評議員会での方針、計画、予算の決定に持ち込みます。その間、各専門委員会、事務打ち合わせなどで、事務関係者はフル回転することはいうまでもありません。
また今年は3月下旬が、世界大会で取られるため、スケジュールが繰り上がり、例年にも増したて努力が必要です。事業遂行の間、いろいろの反省事項が出ますし、新しい構想も浮かびます。
しかし今までの例では、ややもすると時間切れになり、前例踏襲に落ち着いて、改善に行き着かない場合が多かったように思います。このような傾向は打破する努力が必要です。このためにはことの軽重に応じ、決められることは結論を出して実行に持ち込む。簡単に結論が出ないことは、検討計画を作って対処する。要は問題を有耶無耶にしておかない。行動に反映させることを、関係者に要望し、会議でも申し合わせることとしています。
そして執行部は評論家にはならないで前進して行きたく、これを新年の決意とします。
これまでの「剣窓」の綴りをひっくり返しましたら、平成10年2月号「まど」に初めて称号・段位制度の見直しを、項目として取り上げています。また同じ号に松永称号・段位委員長の現状報告もはじまり現在に至っています。2年前のことで、見直し作業が、委員会から外部に広がる段階に進んだことを反映しています。その後剣道界としての検討が進められ、成案を得て本年4月から実施に進むことになりました。新年度事業の準備のうち、この関連のものは特に留意して進め、円滑な実施を期待しております。
新規則では、審査を公正・妥当に行うため、まず称号と段位ごとに基準を設けますが、これに並んで審査員を重視し、学識者を含めた選考委員会によって選考を行うこととし、五段以下の審査を委託している各剣連においても、同様に行うことを規程しております。
審査に当たる審査員の質の向上と、その選考の合理化、透明化を併せて進めようとする、新しい制度の狙いの具体化の方策です。
そこで新年度早々に行う審査会の準備のため、3月までに委員会の人選なども行う必要が出てきます。また全剣連の行う審査会の要項も、準備を進めていますが、ここで年度はじめの全剣連の行う審査会について、例年と変る点を披露します。
京都での剣道六、七段審査では、学科、剣道形の審査で不合格になった場合、1回だけ1年以内に限り、敗者復活でその科目の再受審が認められます。また慣例として行われていた70才以上の方の、学科審査免除は今後行いません。
剣道、居合道、杖道の八段審査の科目の変更はありませんが、審査員の人数が10人に、合格の基準が7人の合意に変更になります。形(剣道のみ)、学科の審査における敗者復活はありませんが、それぞれの審査の前に講習を行います。なお剣道については実技審査の翌日に行います。この場合、学科審査の問題の事前発表はありません。
称号・段位審査のうち、受審資格が変更された錬士、教士の審査は、例年の5月には行わず、秋に繰り下げられます。
範士の審査は、新しい制度で最も重視しているものですが、審査員の数は10名、このうちには学識者を含めるよう定めており、8名の合意により合格とされます。また受審資格は、八段取得後8年となります。審査は各剣連から提出される各項目について記載した申請書と、全剣連の行う調査に基づく資料によって審査会において行われます。
また七段受有者についての特例は、規程には設けられていますが、条文に示されている厳格な基準があり、従来の功績まで加味する、七段範士とは全く異なった特例的なものであり、審査もその趣旨で行われることになりますことを申し添えておきます。
規程が成立したあとの昨年10月号のこの欄でも指摘しましたが、今回の見直し作業で、学科審査の在り方については、手を付けておらず、早急に検討を要する部分として残されています。そこで今後称号・段位委員会でとりあげることとなりますが、その際の検討における視点と問題点を考えて見ましょう。
まず剣道の称号・段位のうち、指導力、識見などを備えることを期待する称号審査と、技術的力量を問う段位審査とは、具備することが期待される知的要素が違っております。今後の称号審査においては、学科を重視する方針をすでに決めていますから、試験の方法、内容の検討に尽きます。ここでは技術的力量を評価する段位審査における学科について考えてみます。
段位審査の主体は実技能力を調べることを中心に考えられ、行われているのが実態でしょう。
このなかで知的要素を評価すべき学科試験は異質の科目で、実行上補完的のものとして扱われています。つまり学科でずば抜けて優秀なものでも、実技の成績不良を覆すものでないということです。段位審査の場合はこれでよいと感じます。
剣道人が剣道に関する知見をどの程度必要とし、しかも段位審査でどのような試験をして、これを評価する必要があるのかというのは難しい問題でもあります。しかしこれをまず検証し、最小限必要とされる内容に対し、それが実行でき、効果があげられるか、また現状とのように運営されているかを評価することが必要です。
そこで能力評価のための試験における原則をあげてみます。まずは繰り返しになりますが、つまりどんな知識が必要であろうか。つぎにそれを調べるのに試験で何を見ようとするか決めねばなりません。そして筆記試験の場合そのための出題を行いますが、とれだけできることを期待するのか、逆にどの程度のものを不合格にするのか、採点の容易さとも対応して、あらかじめ基準ができていなければなりません。
つぎに実行上の問題があります。それは学科試験で必要性が高くても、費用、試験を行うための設備、所要時間、所要の人手などのほか、特に大事なこととして、受審者の負担を考え、受審者の年齢、社会的地位なども考慮し、適切かつ実行可能の範囲を見極める必要があります。
さて現実の筆記試験はどのように行われ、どんな風に合否が決められているのか、改めて見直すことが必要ですが、適切に行われているとは言い難い状況にあることを心配しています。
実行面の問題においても、まずここ(「剣窓」平成12年2月号掲載)に掲げた写真を見て下さい。昨年秋の東京での剣道七段審査の学科試験の光景です。
これは多くの剣道愛好者には見慣れた光景かも知れません。しかしこれから一般の方はどんな印象を受けるでしょうか。
今回の称号・段位の見直しの大綱4に「受審者の立場への配慮を深める」と掲げています。学科試験の改善もこの方針も念頭において検討を行う必要があります。