平成11年に現在の役員が選任されてから、早くも2年経ち改選期を迎えました。全剣連の仕事は各年度の事業計画、予算で、3月末を区切りとして進められますが、一方 新年は仕事への取り組みの心構えを新たにする時期とする社会の習慣があります。しかし単年度を越えて、2年区切りで事業に取り組む人材が選ばれるこの改選期は、さらに大事で、全剣連飛躍の機会とすることが望まれます。
そこでまずこの2年の全剣連の活動を振り返ります。総括すれば、事業のどの分野でも、活発に仕事が進められた充実した時期だったといえると思います。まもなく50年を迎える全剣連の歴史の中で、自画自賛かもしれませんが、胸を張れる2年だと思います。これもひとえに剣道を良くしようとの使命感を持ち、ボランティアとして尽力された、役員、専門委員の方々、また事業の推進に協力戴いた各剣連、また審議に参画して戴いた多くの方、さらには 活動を支えた事務局の面々の努力が実ったものであり、それぞれの方にお礼申し上げます。
剣道の内容に直結する分野から見れば、まずは平成9年に取り組んだ新しい称号・段位制度の策定を終え、昨年より実施段階に入って、1年の実績を収めたことが挙げられましょう。
次には、試合の内容を左右する 剣道界の審判技術の向上への取り組みに着手したことです。これは困難な長期的課題ですが、基幹となる審判講習を担当できる講師の研修に まず重点を置き、それを各剣連の段階に及ぼしていこうという考え方です。本年度に入り、鳥取、北海道での地域基幹要員の講習事業を試行し、それぞれ手応えを得ています。
全般にわたる普及・ 指導の効果を挙げていくことはさらに大切かつ広汎にわたる課題です。これにはまず指導者の養成への取り組みがあり、その柱としての社会体育指導員の認定事業を進めてきました。これは平成7年にスタートしていますが、この2年で軌道に乗り、ご報告しているように初級資格取得者が3千人を超え、すでに中級の資格認定にも取り組み本年度の初級、中級取得者、初級更新者の合計は1千人を越すことが予想される規模の事業に成長しました。そして 効果は全国各地に波及していくことが期待されています。
さて 初級者の基本技術の習得を容易ならしめる技術システムとしての剣道基本形(仮称)の策定に昨年来取り組んできましたが、概成を見るに至りました。その導入を進めることは、今後取り組むべき初級者の剣道修業を正しく進めるための有力な布石となるものと期待しています。
このほか強化訓練、中堅剣士養成講習など、ハイレベルの剣士を養成するための養成事業の充実、各種講習の効果を高めるための改善も行い、それぞれ成果を挙げています。
まずは性能、安全性につながる剣道用具においての、研究に基づく基準の作成、規格の制定があり、医学面での啓発資料の作成が進められました。
またIT利用分野の進展が業務能率の向上、省力化などで大きな成果を挙げています。称号・段位の証書の策定の迅速化、段位審査における組み合わせの作成の能率化、適正化、準備時間の短縮、発表の迅速化など目覚ましい進歩が行われました。また ホームページの作成によって地球規模といってもよい広汎な対象に対し、情報伝達が迅速化し、容易になったことは特筆に値しましょう。
このほか激増している海外諸国よりの要望にきめ細かく応え、また審判技術の講習の実施や、指導者の派遣などで効果を挙げている国際業務の充実も見逃せません。
さて事務局の体制も組み替えを行い、ピラミット型の組織から、グループ別のスタッフ体制に改めました。無用の管理を無くし、各人の能力を発揮していくのに適している体制で運営することを意図したもので、定着することにより能率向上を期待しています。また、事務局人事では新旧交代が進められました。この2年で、5人が退職、戦力の増強を図るため、職歴を持った5人が新たに加わりました。激増している事務を ほぼ同じ人員でこなしている実情は認めてやってよいことと思います。
最後に申し上げたいのは業務遂行の体制です。副会長自ら率先仕事に取り組まれたほか、長老も適時講師や審査などに活動して戴き、全剣連は総力体制で事業を推進し、仕事に汗を流してきた2年間でした。事業の実績にはこういった体制で生まれるものと考えられ、今後に引き継いでいくべきことと感じます。
6月18日の評議員会で選任される役員の顔触れは、原稿執筆段階では決まっておりません。今後の調整と審議を経て固まり、その内容は、滑り込みの速報で本誌に掲載しました。現段階での役員選任の考え方を述べます。
前にもこの欄で説明しましたが、役員の半数が地方の剣連から、また4人が関係組織からの推薦です。従って 役員はほとんど事前に決まっていることになりますし、会長の裁量の余地は理事の顔触れについては小さいのが実態です。各剣連からの推薦は 剣連の人事の都合による場合が多いので、全剣連の布陣を纏めるには、残りの枠の活用を図りつつ、苦心を重ねることになります。
さて今回決まった別項の顔触れはこういった条件の中で、全剣連事業の目的のため、仕事を積極的にやって行けるよう、指名理事と、専務理事、常任理事の選任を行ったものです。これまでの2年の実績以上のものをぜひ達成すべき実務中心の布陣を狙いました。
特色を挙げるならば、執行の中心である専務理事、常任理事はすべて60才台以下の方で固めたことです。それ以上の年配の方には、助言、指導という立場でご尽力戴くことを期待しています。このことは、21世紀の全剣連の若返りと、世代交代を具体化したものと見て戴いてよいと思います。
新しい顔触れでの担当や事業展開の方法については、就任の7月に入って早速理事会を持って協議し、固めていく予定です。何分のご支援、ご鞭撻を戴くようお願いします。
同じ日の会議で、前年度決算が承認されました。その数字は別項でご覧戴きますが、審査、登録の収入が、4分の3を占めている状況は例年と変わりません。称号・段位の新規則の施行に伴い、称号受審と合格者が予想を下回り、段位受審者、登録者の増加は上回りましたが 及ばず、予算より事業収入が下回りましたが、各費目での支出の削減もあり、予定の積立ても行って、若干の収支差額を計上できたのは何よりのことと感じています。
お2人の訃報をお伝えします。
ロシア剣連会長ヤコブレフ氏が、去る5月12日に脳内出血で、52才の年齢で急逝されました。同氏はモスクワ大学教授で歴史学者、ロマノフ王朝に関する英文の共著の本を戴いたことがあります。ソ連時代の難しい環境の中ではじまった剣連の面倒を長く見られ、何度か来日し、4月のボローニアでの欧州剣道選手権大会の際もお会いしました。ロシア剣道の発展を支えてこられた、ヤコブレフ氏の逝去を謹んでお悔やみ申し上げます。
元全剣連事務局長武藤英雄氏は、昭和55年から63年にわたり事務局長として尽力されました。戦前の武専卒業の剣豪で、事務的にも堪能、行事には各地を飛び回る活動的な方で、日本武道館の地下の穴蔵生活だった、前世代の事務局を支えられました。退職後まもなく脳梗塞で倒れられ、不自由な体で長く闘病に努められましたが、6月6日不帰の客となられました。ご冥福を祈ります。
第27回旧制高専剣道大会にて