明けましておめでとうございます。このところの世相、不況、企業の利潤の減少、人員削減、学卒者の就職難など暗いニュース一色のように見られます。確かに米国に端を発した金融不況が、世界中からその影響が日本にも及びつつあり、それが予測しにくいこと、またこれまでの経済の好調からの変転で見通しについて悲観論が過大に扱われているとも見られます。
しかし振り返ると日本はこれまで経済の浮き沈みを何回も経験してきました。35年前のオイルショックの時は、石油供給の先行きが予測できない状況でした。
しかし日本は難局を突破し、対応の遅れた欧米諸国に対して、数年後には産業の競争力で優位に立った経験も持っています。今回の事態に対しての緊急に手当てを要する面への政府の対応はしっかりやって貰わねばなりませんが、日本の実力を踏まえ、過度に悲観的にならぬよう気をつけ、腰を据えた対応を取っていくことが何より大事と思います。
この経済危機の剣道界への影響については、現在予測困難ですが、かなりの苦労を必要とする覚悟はして置くべきでしょう。
この際剣道人は、まず地道に剣道を通じて心身を充実させるとともに、社会活動において国勢を支える人材となる決意が必要です。
この面での剣道人の活力は、先般の全日本剣道選手権大会での迫力ある試合に手応えを感じました。また挑戦する人々の秋の陣というべき一連の剣道八・七・六段審査には、全国から前年を上回る8千名もの人々が挑戦され、審査における受審者同士の演武の内容は、平素の修錬を思わせる気迫に満ちたものでした。年齢は最も若いもので29歳、最高齢は80歳に及んでいます。これらの社会人の気力・エネルギーが、剣道界を支えることは当然として、社会活動に発揮されるであろうことを確信しました。お互い剣道人は頑張っていきましょう。
さて剣道界に目を転じます。昨年は教育改革の一環として、中学校体育の科目に、武道が必修科目として行われる方針が決まったことは朗報でした。剣道界は関係団体で、それぞれの段階ごとに準備に遺憾なきを期すること、また教育界への働きかけと、連携を保つよう努力をすることの申し合わせました。全剣連としても文部科学省との接触を保つほか、教育の現状の把握、授業事例集の作成などに取り組んでいきます。
全剣連としては、各層を通じての剣道の指導の充実、そのための指導者の充実を図ることを事業の重点として掲げ、何年か努力を重ねてきました。その成果はようやく実を結び、活動に生かし得る段階に到達したと考えています。
その状況をいくつか挙げて見ましょう。講習における指導法のテキストはすでに整備され、昨年は30年前に作られた『幼少年指導要領』を全面改訂した手引書『剣道指導要領』が完成、広く指導書として利用されることになりました。
発足以来10年を越えた「社会体育指導員」養成事業により、各層の指導者の養成も全国的に進んでいます。6年前に作られた『木刀による剣道基本技稽古法』も、初級者の能力検定に組み込まれる段階に入りました。全剣連からの講師派遣による各剣連での講習事業も軌道に乗り、指導法を重点として展開されつつあります。また全国の中核的指導者を集めての研修会も、本年度から始められました。
ここで本年展開しようとしている施策を見ます。まず大会としてこれまでの全日本都道府県対抗剣道優勝大会と、全国家庭婦人剣道大会の組み替えを行い、前者を男子の大会、後者を全日本都道府県対抗女子剣道優勝大会に改め、両者に高校生・大学生の出場枠を設けて、それぞれの士気高揚を図ります。
つぎに初段の下の資格として存在する級位の審査は、各加盟団体に任されていますが、これを規則として整備し、初級者の剣道普及に役立たせます。
新年度もいくつもの事業に取り組みますが、柱となるのは『各層を通じての指導力増強による普及の進展』です。これらの施策の展開を、全剣連は本年もさらに充実させて、事業を進めて行こうとしております。本年もよろしくご支援、ご協力をお願いします。
会 長 武安 義光
秋の大型審査が順調に進められ、剣道功労者表彰、剣道文化講演会も無事に終わりますと、全剣連執行部は少しホッとした気分になりますが、取りまとめを進める専門委員会が続き、来年度への準備に追われる気忙しい年の瀬になっています。
九段付近は銀杏(いちょう)が黄金色に道を彩っています。この時期、今や新聞もほとんど取り上げませんが、戦中派には忘れることができない12月8日を迎えます。繰り上げ卒業を目前にした67年前にこの日を迎えた時の衝撃は忘れることができません。大学の銀杏も今と同じく輝いていたかも知れません。思いを同じくする人も少なくなりましたが、心に留めて欲しい日です。
名古屋の七・六段に始まり、東京に舞台を変えて日本武道館、東京武道館と移って行われた剣道八・七・六段審査は、前年をさらに上回っての、8千名余が挑戦する大型なものになりました。東京武道館での剣道七・六段審査は1日で収めきれず、日程を半日に延ばして、それぞれ1日半の日程で行い、どうやら順調に終えることができました。
巻頭記事にも触れましたが、受審者の方々は、それぞれ真剣に難関に取り組まれ好感の持てる審査会を終えることができました。合格率はそれぞれ期待に反したかもしれませんが基準に基づく審査が行われたと見ています。
最終日には教士・錬士の称号の書類審査が行われました。意外であったのは錬士審査で、1割にもなる不合格者が出たことです。錬士の審査は、各剣連の推薦に基づいて行いますが、これに付けて出す小論文の内容が、予め出された出題に対するものに答案の内容がなっていなかったことによる不合格でした。
小論文は試験場で書くのでないわけですから、気をつけて扱えばこんな結果は出ないはずです。多数の不合格者が出たことは残念でした。
長年選択科目とされていた中学校体育における武道が、教育改革の一環として必修科目になる政府方針が決定、平成24年より実施されます。全剣連および各都道府県剣連は、この方針に協力するとともに、準備に万全を期することを申し合わせました。
全国家庭婦人剣道大会を女子の全日本都道府県対抗剣道優勝大会に改め、従来の全日本都道府県対抗剣道優勝大会を、男子の大会に再編成し、両者に高校生・大学生の出場枠を設けることにし、新年度から実施することになりました。
従来の『幼少年剣道指導要領』を全面改訂し、一般向きの指導手引書とした『剣道指導要領』が完成、出版されました。
全剣連55年記念行事として行った全国剣道人口調査の結果がまとまり、活動中の人員47万名となり、剣道総人口総数は166万名と推定されます。
正代選手、上段として25年ぶり優勝。全日本女子剣道選手権大会では坪田選手が村山選手の4連覇を阻み優勝しました。
これまで六段以上の受審に際し、60歳以上の者については、修業年限を半分にする優遇措置が講じられていましたが、現行の規則体系を貫いている考え方またその実態から、その必要はないと認め、来年度より廃止することになりました。
各加盟団体に委任されている五段以下の審査の方式について、全国的に整合性をとる必要が認められたので、所要事項について要望として取りまとめ、各団体に要望として伝達しました。
女子の試合時間を標準の5分に統一。また全日本女子剣道選手権大会の準決勝戦以後の試合時間を10分にするなど、主催大会における試合時間の調整を進めました。全日本剣道選手権大会の試合時間を4回戦(準々決勝)から10分にして行い、好結果を収めました。
七・六段の受審者の増加に対応し、東京武道館での審査をそれぞれ1日半かけて実施し、順調に審査を終えました。
三道の七段以上・90歳以上の長老剣士216名に対して、全剣連より祝意を表するとともに、記念品を贈呈しました。
長年剣道界の発展に尽くされた次の方々が昨年亡くなられました。謹んで哀悼の意を表します。
風見 敏氏 | 剣道範士 剣道功労賞受賞 | 02月12日 | 95歳 |
長島 末吉氏 | 剣道範士 元警視庁主席師範 剣道功労賞受賞 | 03月08日 | 83歳 |
大野 健雄氏 | 剣道範士 元全剣連顧問 元近畿管区警察局長 | 03月25日 | 92歳 |
吉本 實氏 | 全日本官公庁剣連会長 剣道功労賞受賞 | 04月02日 | 84歳 |
産賀 敏彦氏 | 岡山県剣連会長 岡山大学名誉教授 | 04月04日 | 74歳 |
和田 金次氏 | 剣道範士 元(財)千葉県剣連会長 元全剣連顧問 剣道功労賞受賞(09月号追悼文) | 07月02日 | 99歳 |
服部 敏幸氏 | 剣道範士 (財)全日本学校剣連会長 (株)講談社最高顧問 剣道功労賞受賞(10月号追悼文) | 08月20日 | 95歳 |
松本 良諄氏 | 剣道範士 剣道特別功労者 全剣連相談役 (財)大阪府剣連名誉会長 (12月号追悼文) | 10月31日 | 89歳 |
01月号 |
・大型審査会を終えて ・平成19年の剣道界を振り返る |
02月号 |
・年頭の新聞論調 ・審査に当たり留意すべき事項① |
03月号 |
・新年度事業計画への取り組み ・審査に当たり留意すべき事項② |
04月号 |
・中学校武道必修化への対応申し合わせ ・新年度事業計画・予算 ・映画「明日への遺言」 |
05月号 |
・全国剣道人口調査結果まとまる ・初夏の一連の審査会 |
06月号 |
・主な大会、審査会の結果 ・優勝兜と白手袋 |
07月号 |
・段位審査における60歳以上への修業年限の特例廃止 ・戦前の御前試合で活躍した二刀の名手を取り上げた図書 |
08月号 |
・剣道講師要員(指導法)研修会 ・社会体育指導員資格喪失者の復活 |
09月号 |
・学校剣連第50回記念大会と武道必修化に関する決議 ・全国家庭婦人剣道大会第25回で有終の美 |
10月号 |
・サンパウロで国際剣連理事会 ・中国剣連新加盟 ・全日本女子剣道選手権大会、坪田選手が村山選手の4連覇を阻み二度目の優勝 ・「敬老の日」に90歳以上の長老に全剣連として祝意 |
11月号 |
・全日本東西対抗大会好試合続く ・全日本剣道選手権大会特設ホームページ |
12月号 |
・全日本剣道選手権大会、上段選手25年振り優勝 ・全日本都道府県対抗剣道優勝大会、全国家庭婦人剣道大会の組み替え決まる ・剣道特別功労者松本良諄氏逝去 |
①11月末に箱根に行きましたが、途中乙女峠から見る雲ひとつない富士山の姿があまりに綺麗だったのでデジタルカメラに収めました。広報編集会議で正月号の表紙にどうかと押し売りをしました。新年の巻頭を飾らせて頂き何よりと存じています。
②スペースに余裕ができたので開戦の日の思い出を追加します。仲間が集って芝生で話し合っていると文学部にいた高校剣道部の親友が「俺はこれから映画を観に行く。アメリカ映画は禁止されるに違いない」といって近くの本郷座に『スミス都へ行く』(Mr.Smith Goes to Washington、1939年、監督フランク・キャプラ、主演ジェームズ・スチュワート)を見に行きました。予想通り翌日から差し止めになり鼻を高くしていました。戦後これを観ましたが、色恋のない民主主義映画でした。
この友人、翌年海軍予備学生になり、任官して「ウェーキ島」に駐在。飢えの中終戦まで生き延びましたが、現地での行動から戦犯容疑者となったらしく、炭鉱に姿を隠すなど大変苦労をした後、北海道で農業に従事。何年か前に癌で亡くなりました。戦争が多くの若者の運命を変えたこと言うまでもありません。
会 長 武安 義光