庭の梅花も散り桜も待機していますが、時ならぬ雪の訪れなど、そばにいる春はなかなか来ません。しかし九段界隈が彩られるのも、もう少しの辛抱でしょう。いよいよ新年度・新学期を迎え、仕事や学業にと希望に満ちた新しい生活が始まります。この時期を逃さず、確実な一歩ずつを踏み締めて前進しましょう。
全剣連も3月9日に、評議員会・理事会を開き、新年度の事業計画・予算を決定し活動の体制を固めました。前回記したように、向かうべき基本方針は不変ですが、一つ一つの事業には新しい工夫が織り込まれています。
ここでは日程などの変更についてお知らせします。
まず大会ですが、秋の全日本女子剣道選手権大会が繰り下げられ、9月26日になります。これは北京市で行われる国際スポーツ団体連合の武術大会が9月上旬に開かれ、剣道も国際剣道連盟として参加することになり、日本からも女子選手が出場することを配慮しました。この大会は初めて開かれるもので、9月3・4日に13種目の一つとして剣道も参加します。実際の大会は格闘技を含む13団体の大会となる予定ですが、国際剣連として参加を決めており、旅費・交通費は開催地負担、役員・審判なども含め、120名が参加します。勝負を争う選手権大会というより、剣道の文化的特性を披露し、剣道の良さへの理解を深めてもらうよう内容を練り選手団を派遣します。
審査関係では11月の東京での六・七・八段審査の日程が逆になります。受審者の数、会場の広さを考慮して、日本武道館が使える水・木曜日に六・七段審査を充て、入れ替えて八段審査を東京武道館で、金・土の両日に行いますのでご注意ください。
国際事業として世界大会が開かれない年には、北本で外国人講習会、通称サマーセミナーが行われますが、本年は武術大会の運営を高めるために、6月下旬に成田市で審判員講習を行い、夏の講習会は中止します。
続いて期待される事業に触れます。「社会体育指導員養成事業」は本年度より上級資格者が取得後4年を経た資格更新講習が行われるようになりました、先日勝浦、大阪で行われた更新講習には、合計92名が参加し、それぞれ更新されました。開始以来15年を経たこの事業のサイクルは本年度で完成したわけで、事業として新たなステップを踏むことになります。次年度には上級資格の取得年齢の切り下げが検討されている他、剣道専門大学生の卒業予定者の資格取得のため特別講習を行うなど、制度運営の改善を進めます。また資格活用のための努力を粘り強く続けます。
普及活動では剣道への参入者を増やすための指導方策を検討し推進を図ります。また懸案であった「礼法」の手引書の作成を目指して準備を進めます。
学校教育関係では、中学校で取り上げる剣道授業普及のための諸施策の検討と推進を図ります。とくに中学校での武道必修化に備え、他の科目の先生が指導できるよう、それらの方を対象とした学校剣連の事業を援助し、講習会を全国的に展開します。
指導関係では、初級者への「木刀による剣道基本技稽古法」の指導に役立つ手引書を作成します。また級位審査への「木刀による剣道基本技稽古法」の導入を推進します。
このように普及関係では初心者・新規参入者への働きかけに軸足の重点を置いて進めようとしていることを読み取ってください。
さて試合・審判関係分野では現行規則体系の全般にわたる運用の適正化を進めることを目指し、審判能力、指導力の向上を図るための実践的研修を各層にわたり広げていきます。また全剣連に関係する大会の審判員や講習会の講師の選定方法をより適切に行う方法を検討し実行に移します。講習に当たっては、単に技術だけでなく、指導力を高めることに留意します。
国際関係では基本は日本で生れ育った剣道を正しく海外に普及することを目指します。分かりやすく指導することが大事ですが、ここで本筋を曲げてはなりません。よく他の分野で使われる国際化ということは剣道では禁句にすべきと思っています。ともかく剣道の普及を正しく行うため、海外から要請が多い専門家派遣、指導にはできるだけ応えていく方針です。
以上取り敢えず来年度の主要事項をお知らせしておきます。
まず来年度は諸般の料金などの変更はなく、本年と同様に進めることになります。この度決定された予算の主体である一般会計収支予算は、事業活動収入5億7,453万円、事業活動支出5億8,371万円、差引920万円の赤字で、既存の積立金より補填する予算になっています。若干の減収の心配はありますが、節約と合理化を進め、必要な事業を推進する覚悟です。詳細は本誌の別記事でご承知ください。
また業務管理の適正化を図るため、「全剣連道場建設積立資産規程」「全剣連運営強化積立資産規程」を決定しました。
理事会で国際担当の佐藤 征夫常任理事から注意を喚起する発言がありました。国際剣連が3年ごとに行う、世界剣道選手権大会の開催地はこれまで三大陸持ち回りで3年ごとに行われてきました。しかしこれには開催地決定に無理があったことから、第16回(2015年)以後の大会開催地は、大陸持ち回りを取り止め、立候補制にすることが、昨年の総会で合意されています。先の話のようですが、立候補は来年の理事会までにして、2年後のイタリアでの大会時に決定することになります。日本が開催を希望する場合、早く方針を決める必要があると言う事です。
全剣連は国際剣連の事務局も兼ねている立場での発言だったのですが、当然日本は第16回開催を目指すべきという意志でおり、このことを理事会として確認しましたが、早急に具体案を発表することが必要です。
公益法人制度に対する国の方針により、既存の公益法人は平成20年12月以降、いわば暫定的といえる特例民法法人となり、新法による公益法人になるためには、5年以内に国の認定を受けて移行する必要があります。
全剣連では移行のための検討を「長期構想企画会議」(議長・加賀谷 誠一副会長)において昨年来進めてきており、次年度中に申請を出せることを目指しています。まだ成案を得る段階ではありませんが、全剣連として方針を固めるために、各剣連界や関係者と意見交換を行うことを考えています。
新制度で、会社における株主総会のような機能を持つことになる、評議員会の構成を定める「最初の評議員選任方法」の要領を決めておくことが取り敢えず必要になります。この要領を今回の理事会において承認を得ましたので、所管である文部科学省の担当部門と第一段の折衝を始めることにしております。
三名の功労あった方の訃報が伝えられました。お知らせしてご冥福を祈ります。
ワーナー・ゴードン氏[日本名―和名悟道](97歳)(剣道教士七段)3月4日逝去。戦前から剣道の修業をしておられました。昭和41年に米国の占領下の沖縄に琉球米国民生府教育局長として着任、剣道の振興に尽力されました。戦争で片足を失った義足の身で剣道に励まれ、昭和42年、国際剣連設立の準備段階で、日本武道館で行われた国際剣道大会には、琉球派遣団の1人として参加されました。個人試合で柳家小さん氏と対戦し名勝負を展開し満場を沸かせた姿が思い出されます。晩年地元剣連とは不仲だった様ですが、戦後の混乱期に剣道復興に尽力された功績に対し、平成12年に功労賞が贈られました。
羽賀忠利氏(92歳)剣道・居合道範士八段、3月7日逝去。戦前の国士舘専門学校卒業、戦後、剣道復活後静岡県警で指導に当り、退任後は地元にあって、剣道・居合道の指導、奨励に当たられ、海外でも積極的な活動されました。平成10年に剣道功労賞を受けられました。
渡邉謙輔氏(84歳)元全剣連常任理事・元顧問、3月5日逝去。渡邉さんは東大から古河鉱業に入られ、専務取締役に進まれました。全剣連で昭和62年に常任理事を務められましたが、関西の東亜ペイント(株)社長(現トウぺ)に就任されたため、一期で退任され顧問として14年にわたりご支援頂きました。旧制姫路高校出身の剣道人(教士七段)で、二刀を振るって稽古を続けられ、先日まで虎の門ジャパンエナジーでの朝稽古会でご一緒していました。旧制インターハイでの姫高チームのレギュラーメンバーで、たびたび優勝に貢献されました。仕事を離れ悠々たる剣道と人生を楽しんでおられました。筆まめな方で、昨年12月号の『剣窓』に、在仏好村 兼一氏の小説「伊藤一刀斎」を紹介して頂いております。
会 長 武安 義光