さすがに5月になると、一気に緑の季節を迎えました。不安定な天気が続いた今春の日々が嘘の様です。全日本剣道演武大会の行われた4日間は何年振りかの好天気に恵まれ、全国から参加された方々は満足して帰られたことでしょう。そしてゴールデンウィークを中心とした一連の剣道行事も無事に終えることができた事、ご同慶の至りです。
第58回の歴史を持つ年度初めのこの大会は、それぞれの剣連が力を試す機会です。特に高校生・大学生に出番を与えた男子だけの総力戦となって2年目の大会であり内容的にも期待されました。「昭和の日」の大阪市中央体育館には従来にも増す観客が集まりました。昨年は決勝戦が大阪府と京都府で争われ、兵庫県が3位に入るなど、地元勢が活躍しましたが、今回は様変わりとなりました。
まず前年優勝の大阪府が緒戦で愛知県と対戦、難敵ではありましたが、引き分け続きの展開となり、愛知県の中堅が挙げた一本勝ちの星を返すことができず、1敗6引き分けで敗退の憂き目を見ました。戦前柔道の高専大会で、1人が勝ったらあと皆が引き分け狙いで勝つのだ、と冗談混じりの話を耳にしたことがありますが、剣道大会でこんな結果が起こるとは予想しませんでした。
一方の京都府も佐賀県と対戦、点の取り合いで接戦を演じましたが、4―3と敗れ、緒戦で姿を消しました。
終始相手を寄せ付け無かったのは東京都で、準決勝戦の北海道、決勝戦の福岡県との対戦で、いずれにも勝ち星を与えず、5―0と完勝して、余裕のある2年振りの優勝を飾りました。
東京都が唯一接戦を演じたのは4回戦熊本県との対戦で、先鋒・次鋒の高校生・大学生がいずれも熊本県が勝ち、面白くなったと思いきや、このあと5名の対戦、いずれも東京都が勝って、5―2と熊本県を退けています。
こんな事で、今年は東京都が横綱相撲の形で完勝しました。次回は地元府県などの奮起を期待します。今大会、高校生・大学生の試合では、勝負にこだわっての消極的な試合ぶりが目立ち、内容的にもう一踏ん張りが欲しいと感じました。
演武大会への申込者は3,408名、昨年より200名ほど増えました。この大会、称号を持った剣道高段者が全国から集まる行事ですが、大会運営はスムーズに進められ、何よりも天気に恵まれた4日間でした。皆さんが演武を楽しみ、仲間との久闊を叙すことができて、良い思い出を持って帰られたことでしょう。運営に当たられた京都府剣連の皆さんのお骨折りも報いられたと思います。
さて演武大会は5月2日の各種武道・杖道・居合道の演武から始まります。正式の開始式は3日の剣道演武に先立って行われます。開始式の前には平安神宮の神前で武徳祭が行われ、剣道界の安寧と発展、大会の成功を祈願します。終了後参列者は、この日だけ開けてもらう、旧会津藩邸から移築した南側の武徳殿正門を通って開始式に臨みます。
開始式では毎年京都府知事、京都市長の祝辞を、代理の方から頂戴します。また京都府剣連伊吹 文明会長から歓迎のご挨拶があります。この中で伊吹会長は、現在の世相の中、剣道を通じて日本人の伝統を重んじ、精神の健全化を進めるために、剣道人が役割を果たすことを期待されました。かつて文部科学大臣として、懸案の教育基本法の改正を実現され、中学校体育での武道必修化の道を開かれた伊吹さんのご挨拶は重みがありました。このあと錬士の演武から大会が進められます。
正門を入ると武徳殿建立百年記念として建てられた
筆者揮毫による「武徳薫千戴」の石碑が見える
ここで明治28年に始まり、106回を数えるこの大会の沿革を改めて記しておきます。大日本武徳会が発足してから毎年行われた演武大会は、各種武術を網羅して毎年回を重ね、大東亜戦争中も続けられましたが、昭和19年を以って中断せざるを得ませんでした。その後の敗戦、連合国軍による占領行政により、武道は圧迫を受けましたが、昭和27年の講和条約の発効により、日本は主権を回復し、全剣連も発足し、剣道の演武を披露する「京都大会」として復活しました。
そして年々盛大に実施されてきましたので、この大会こそが明治以来、武徳殿を舞台として行われてきた、演武大会を受け継ぐ大会と位置付けてしかるべきということで、平成4年より回数も継承、通算しての大会と呼称することにして現在に至ったものです。明治以来の歴史を辱めない大会として、剣道界として立派に育てて行きたいものです。
大会中には演武以外の種々の行事が行われます。3日には前日の演武を終えた杖道・居合道の八段審査に続いて称号審査があり、範士が選ばれます。また杖道委員会も開催されます。
4日には全剣連相談役を招いての懇談会が行われます。また全国から剣士が参集する機会を捉らえての各校の同窓会が集中するのもこの日です。大会最終日の5日には八段昇段の同期会が各所で開かれている様です。
これら親睦行事と別に毎年全日本武道具協同組合の協力を得て行われる、武道具製作実演で、今年は面の製作が披露されました。剣道の文化面で大きな要素である武道具ですが、その実際に目を向けることを忘れずにいたいものです。武徳殿南側のテントで行われるこの事業には、もう少し周知を図る努力が必要と思います。
全武協の協力による武道具製作実演(筆者写す)
演武大会参加者による朝稽古会は大会の大きな行事です。その盛況ぶりは写真で御覧ください。武道センターがもっと広ければ良かったと痛感するひとときです。
溢れんばかりの武道センター朝稽古風景(筆者写す)
今年の大会の最終日、八段・範士の演武に、年配者が例年を上回る多数参加して頂いたのが目立ちました。生涯剣道の実践の成果を示して頂いたこと、有り難く感じました。
演武大会に並行して行われる各道高段者の審査に7千名に近い人が挑戦されるということは、剣道人が向上の証しを得ようとするエネルギーの表れと言うべきもので、驚くべき数に心強く感じます。 称号・段位制度は、剣道文化の重要な柱で、その運営は剣道界として大事に改善していくべきものです。今回の結果は記事で御覧頂きますが、まず順調に終えることができたと見ます。剣道七段の合格率が高かったことは、それだけの受審者のレベルが示されたのでしょう。剣道八段21名、居合道八段7名、杖道八段3名の方々、また京都、名古屋を合わせた剣道七段合格の323名、剣道六段406名の方々に祝意を表し、今後の精進をお願いします。
また称号を得られた方、特に範士の認定を得られた方にお慶びを申し上げます。不成功に終わった方々の捲土重来を期待します。
服部 敏幸前会長の逝去後空席となっていた学剣連会長に、元全剣連副会長西村 守正氏の就任が決まりました。
中学校体育に武道必修化が決まっている現在、学剣連の活動に期待される所は、大きいものがあります。新会長の下充実した活動が期待されます。
演武大会進行のアナウンスに自ら当たられるのが、京都府剣連居合道八段森田 忠彦さん、剣道七段音川 勝さんです。その朗々たる声は、演武大会を引き立てる大事な要素になっています。
会 長 武安 義光