今回は、剣道界の国際的なアンチ・ドーピング活動について説明しましょう。国際剣道連盟(FIK)は、1年間の任期で検査対象選手(略称:RTP選手)を指名します。RTP選手とは剣道界のトップ選手で、剣道界にはドーピング違反がないことを世界に示すための非常に重要な存在です。2017年度は、日本4名、韓国2名、アメリカ、ドイツ、フランス、ブラジル各1名です。
RTP選手の指名を受けると、試合外検査(抜打ちのドーピング検査)を受ける可能性が生まれ、このために選手は携帯電話やパソコンから二つのことについて報告することが義務付けられます。一つは、3カ月ごとに毎日の居場所情報を提出することです。居場所情報というのは、その日の居住地・宿泊地・トレーニング場所や競技会などに関する情報のことで、変更があるとすぐに更新報告が必要です。もう一つは、自らが検査に対応できる60分の時間帯を指定することです。もし自分で指定した60分枠の時間・場所に居なかったり、居場所情報を期限までに提出しなかったり、更新しなかったりすると、RTP選手は警告を受けます。そして、このような警告を12ヶ月間で合計3回受けると、「アンチ・ドーピング規則違反」とみなされ、1〜2年間の資格停止になる可能性があります。
RTP選手が病気や怪我で治療を受けることが必要になり、その場合、世界アンチ・ドーピング機関(WADA)の禁止表で禁じられている薬物や方法を使わざるを得ないことがあるかもしれません。その際にはFIKに対してTUE(治療使用特例)申請書の提出が必要です。所定の手続きによりTUEが認められると、禁止物質、方法でも例外的に使用することができます。
このようにRTP選手は、世界トップクラスのアスリートであるとともに、世界のスポーツで求められているアンチ・ドーピングの義務を自らが果たすという重要な義務を負う選手でもあります。
アンチ・ドーピング委員会 委員長 宮坂 昌之
* この記事は、月刊「剣窓」2017年2月号の記事を再掲載しています。