熱中症

ポイント

熱中症ポイント

熱中症とは

 熱中症は、暑い日に激しい運動をしたときになりやすい病態です。
 からだは、汗をかいたり、皮膚から熱を放散させることで、体温が上がりすぎないように調節をしています。この調節がうまく働かないと、体に熱がたまって体温が上昇します。ときには死に至ることがあるので、要注意です。
 特に我が国は、年々高温多湿になってきており、節電のために空調温度が高めに設定されていることもあいまって、熱中症が起こりやすくなっています。
 剣道は、室内で剣道着、袴、剣道具をつけて行うため、室内スポーツの中ではもっとも熱中症を起こしやすいことが知られています。
 指導者は熱中症を未然に防ぐことに留意するとともに、万が一、起こった場合には適切な処置を取ることが求められています。

熱中症の病型

4つに大別されます。

  1. 熱失神:めまい、立ちくらみ、唇のしびれなどがみられます。ひどいと失神をします。体温調節のために皮膚の血管が拡がり、脳の血流が低下するために起こります。
  2. 熱疲労:1)頭痛、2)吐き気、おう吐、3)脱力感、倦怠感、などがみられます。面紐がきつくないのに頭痛を感じたら、要注意です。発汗による脱水と皮膚血管の拡張による循環不全の状態です。
  3. 熱けいれん:足、腕、腹部などに痛みを伴う筋肉のけいれんが起こります。水分だけを補給すると、血液の塩分濃度が急激に低下しまい、けいれんが起こります。
  4. 熱射病:1)言動がおかしい、2)意識がもうろうとしたり、意識がなくなる、3)体温が38度以上に上昇する、などの症状がみられます。高体温によって中枢機能に異常を来すばかりでなく、心臓、肺、腎臓、肝臓などの全身の臓器の障害を起こし、血液が固まりやすくなります。死の危険がある緊急事態ですので、一刻も早い対応が必要です。

熱中症を疑ったら(図1)

 まず、意識がしっかりしているか確認してください。
 意識の確認には、氏名や日時を質問するのが有効です。このほか、脈拍、体温、呼吸状態、顔色なども忘れずにチェックすることです。もしも血圧計が手元にあれば、血圧も測定してください。

熱中症を疑ったら(図1)

意識がある場合

  1. 安静:まず涼しいところに運んでください。そして、剣道具をはずし、袴の紐をゆるめ、頭を低くして寝かせます。また、手足をからだの中心に向かってマッサージをするのも有効です。
  2. 冷却:からだをうちわであおぎ、おでこ、くび、わきの下、足の付け根などを中心にアイスパックを当てて冷やします。
  3. 分補給:冷やしたスポーツドリンクを十分に補給してください。水だけを大量に補給すると、血液の中の塩分濃度が低下してしまい、熱けいれんの原因となってしまうので、要注意です。

意識がない場合(応答がにぶい、言動がおかしい場合も含む)

  1. 救急車を呼ぶ:緊急事態ですので、直ちに救急車を呼んでください。遅れると、危険な状態になります。
  2. 全身の冷却:冷たいタオルを全身にかけると、気化熱による熱放射を促進できます。タオルがなければ、口に水を含んで全身に吹きかけてもかまいません。さらに、おでこ、くび、わきの下、足の付け根などにアイスパックを当てて冷やしてください。

熱中症はどんなときに起こりやすいか?

  1. 時期:急に暑くなったときに起こりやすくなります。7~8月が一番多く、午前10~12時がもっとも起こりやすいとされています。
  2. 環境:湿度が高く、風通しの悪い場合、直射日光が差し込む場合です。
  3. 年齢:子供や高校生までの若い人に起こりやすいことがわかっています。
  4. 体調:からだが暑さに慣れておらず、体温調節能力が不十分のときが危険です。過労、睡眠不足、風邪、下痢などの場合には熱中症になりやすいので、指導者の配慮が必要です。また、太っている人は体温調節能力が低い場合があるので、注意が必要です。

熱中症を防ぐためには?

 日本体育協会から出ている「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」に「熱中症予防のための運動指針」が出ていますので、図2に示します。

図2 熱中症予防のための運動指針

  • 道場の温度と風通しには十分に注意をしてください。
  • 急に暑くなったときは、稽古量を少なめから徐々に増やしてください。
  • 稽古の前にはコップ1~2杯の水分を摂取してください。
  • 稽古は長時間続けず、面をはずして定期的な休息を取ってください。面をはずすことで、からだにたまった熱を逃がすことができます。
  • 稽古の合間には十分量の水分(1回に200ml前後を2~3回)を補給してください。水分補給はスポーツドリンクがよいでしょう。

 昔は、稽古中に水を飲まないことが美徳とされ、精神の鍛錬につながると考えられてきました。しかし、水分補給ができないまま稽古をすることは危険です。また、水分補給をした方が、かえってパフォーマンスが上がります。

熱中症になったら?

  • ただちに涼しいところに運び、防具を外して袴の紐をゆるめ、頭を低くして寝かせてください。
  • 首の周囲や太ももの付け根などを、氷を包んだタオルやアイスパックなどで冷やしてください。
  • 水分補給をスポーツドリンクで行ってください。
  • 38度以上の熱があるとき、意識がもうろうとしたり、意識がないときは危険です。「名前、日時、場所が言えるか?」の質問で意識状態がわかります。
  • 少しでも意識がおかしいときは、からだを冷やしながら、ただちに救急車で病院に搬送してください。

宮坂 信之(東京医科歯科大学名誉教授)

参考文献 スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック 日本体育協会

剣道医学救急ハンドブック(2014/10発行)」より抜粋

ページトップへ

  • 全日本剣道連盟公式Facebookページ
  • 全日本剣道連盟公式Twitterページ
  • 全日本剣道連盟公式Youtubeチャンネル