オーバートレーニング症候群―休むことも稽古―

Question

最近、昇段を目指して毎日のように稽古をしています。稽古の疲れが次の日まで残ります。稽古にも集中できませんし、日頃の稽古量をこなすことができなくなっています。どうしたらよいでしょうか?(46歳男性)

Answer

まずは、稽古を休んで疲労回復に努めることが大切です。それでも症状が回復しない場合は、オーバートレーニング症候群(以下、オーバートレーニング)などが疑われますので、医療機関の受診をお勧めします。運動の能力は、稽古と休養のバランスが取れて初めて向上するものです。

オーバートレーニングとは?

オーバートレーニングは、主に稽古(トレーニング)と休養のアンバランスによって発症します。疲労が回復しないまま稽古を繰り返すことで疲労が蓄積し、容易には回復しない慢性疲労状態に陥ることをいいます。短い期間で数日、長ければ数ヶ月に及んで稽古ができなくなる重大なスポーツ障害です。

なぜ起こるのか?

剣道では、稽古の刺激(負荷)によって疲労が生じ、身体機能は一時的に低下しますが、稽古後の回復過程において適応が生じ、身体機能の向上が起こります。この身体機能の向上を超回復と呼びます(図1実線)。

稽古の負荷が大きければ(つまり、稽古をたくさんすれば)、超回復も大きいのですが、回復自体に時間がかかってしまい、回復が不完全のまま次の稽古を行うことになる場合があります。すると、図1の点線のように身体機能は低下してしまうのです。これが続くと、単純な疲労ではない生理学的(循環器系、ホルモンなどの内分泌系、神経系、免疫系など)な破綻が起こり、オーバートレーニングとなってしまうのです。稽古と回復(休養)のバランスをとりながら稽古を進める必要があるわけです。

図1 稽古と休養による体力の変化

症状

オーバートレーニングの兆候は人によってさまざまです。自覚症状としては、「日頃の稽古がこなせなくなった」、「疲れやすい」、「口が渇く」、「頭痛」、「風邪にかかりやすい」、「眠れない」、「起きられない」、「憂鬱感」、「無気力感」などがあります。また、女性特有なものとしては月経が遅れるなどの症状も含まれます。

ただし、これらの症状があらわれたとしても、オーバートレーニングとは限りません。というのは、例えば疲れやすかった理由が貧血と判明すれば、それはただの疾病なのです。

専門家の診断を

上記のような症状がしばらく続くようであれば、オーバートレーニングかどうか専門家の診断が必要となります。オーバートレーニングはスポーツ障害ですから、それに関する知識が豊富な医師の診断を仰ぐことをお勧めします。スポーツに関する障害を扱う専門医(スポーツドクター)が診察する「スポーツ外来」などを設置する病院もあります。そのような部署や医師がいない病院にかかる場合は、内科を受診します。

そこでさまざまな検査をし、明確な疾病が見つからなければ、オーバートレーニングが疑われることとなります。オーバートレーニングは、消去法で診断せざるを得ない現状にあります。

オーバートレーニングと診断されたら

処置は、①医師に指摘されたオーバートレーニングの誘因を除くこと、②一定期間の休養をとること、③徐々に稽古量を戻すこと、の3点です。難しいのは、いつから稽古を始めるかということです。焦って稽古を始めると、さらに症状が重くなって、余計に稽古復帰が延びかねません。全ての症状がなくなってから、稽古を始めることが目安となるでしょう。

剣道でオーバートレーニングにならないために

剣道愛好家には、「ケガしていても稽古で治す」というくらい稽古に厳しい考えを持っている人が少なくありません。しかし、学生などと比べると、仕事に多大なストレスを抱えながらの稽古は、心身ともに負担は少なくありません。「休むことも稽古」という考えをもって、稽古と休養のバランスを考慮しながら、稽古を進めていくことが必要となるでしょう。

小澤 聡(常磐大学人間科学部教育学科准教授)

剣道医学Q&A(2014/12発行)」より抜粋

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