Question
大学の剣道部で稽古を続けています。授業などの関係で剣道部の稽古に出席できないことが多くあります。稽古不足を補うために自分で体力トレーニングをやろうと思います。どのようなことに気をつけてトレーニングの計画を立てたらよいのか教えてください。(20歳男性)
Answer
体力トレーニングの必要性
剣道では技術が重視され、体力は軽視される傾向があります。しかし、高度な技能を獲得し、厳しい稽古や長い間の修行に耐え、ダイナミックな技を発現するためには、強靱な体力が必要です。科学的原理に基づいたさまざまな体力トレーニングは、剣道を行う上で必要な体力を獲得するために有効な手段です。
体力とは何か?
一般に体力とは、人間の生存と活動の基礎をなす身体的・精神的能力です。それは、ストレスに耐えて生命を維持していく『防衛体力』と、積極的に身体の運動を起こし・維持し・調整する『行動体力』に分類されています。剣道の稽古や試合では、素早い攻防の動作が連続して繰り返されます。それらの動きに俊敏に対応し、素早く力強く踏み込み、竹刀を正確に振るために、瞬発力、筋力、持久力、柔軟性などの体力要素が要求されます。
体力トレーニングの原理
最適なトレーニングを行うためには基本的な考え方を理解する必要があります。
- ①過負荷(オーバーロード)の原理:トレーニング効果を期待するためには、日常生活で行うような運動負荷では、ほとんど効果がありません。自分の能力より少しでも上回った負荷量が必要です。
- ②特異性の原理:一つのトレーニングで、すべての体力要素を高めることができるわけではありません。目的に応じた内容を選択することが重要です。
- ③トレーニング負荷の三要素:運動の強さ、運動の時間、運動の頻度、の3要素を目的に応じて組み合わせることが大切です。
体力トレーニングの原則
体力トレーニングを行う場合、次の6つの原則を踏まえて行うことが大切です。
- ①全面性の原則:心身の機能が全面的に調和を保って高められるようにすること。すべての体力的要素が含まれるように、内容を考えることが重要です。
- ②意識性の原則:トレーニングの目的や意義をよく理解し、積極的に行うこと。
- ③漸進性の原則:体力や技術の向上とともに運動負荷や技術レベルを徐々に高めること。
- ④反復性の原則:効果を上げるために、運動を繰り返し行うこと。
- ⑤個別性の原則:個人差(年齢、性別、体力水準、技術水準など)を考慮して、その人に適した運動を行うこと。
- ⑥視覚性の原則:写真、映画、模範演技などから、良い運動のイメージを得ること。
体力トレーニングの方法
- ①柔軟性のトレーニング:柔軟性とは、体の柔かさのことです。柔軟性は身体の運動をコントロールし、効率的な運動をするために必要な体力要素です。また、激しい稽古の後の筋や関節の疲労回復や障害予防および調整力を高めるためにも柔軟性のトレーニングは必要です。柔軟性を高めるためにストレッチ体操はとても効果的な運動です。
- ②敏捷性のトレーニング:敏捷性とは、身体を目的の方向に素早く巧みに動かす能力です。剣道においては、攻防の動作の中で瞬時に隙を見出し、正確に打突する動作が要求されます。刺激に対して素早く巧みに動作できる能力を高めることが重要です。
- ③筋力トレーニング:剣道では素早く身体を移動させる脚力、構えを安定させ、体当たりで崩されないための腹筋や背筋力、竹刀を保持し素早く力強く振るための腕の筋力などが必要です。筋力を高めるためには、バーベルやダンベルを利用して負荷をかけてトレーニングを行います。また、このような道具を使用しなくても、腕立て伏せや腹筋・背筋運動でも筋力を高めることが出来ます。素振り用の竹刀や木刀での素振りも効果的です。
- ④持久力トレーニング:持久力とは、運動を長く続けることのできる能力のことです。全身の持久力を高めるにはジョギングが適しています。また、筋の持久力は、腕立てふせや腹筋・背筋運動を繰り返して行うことで高めることが出来ます。剣道の伝統的な稽古方法である打ち込み稽古・掛かり稽古・切り返しなどは持久力を高める効果もあります。
横山 直也(横浜国立大学教育人間科学部教授)
「剣道医学Q&A(2014/12発行)」より抜粋