ウォーミング・アップとクーリング・ダウン―ウォーミング・アップ(準備運動)で障害の予防/クーリング・ダウン(整理運動)で疲労の回復―

Question

子どもが剣道をはじめたのをきっかけに、自分もはじめました。しかし今まで運動らしい運動をしてこなかったので、激しい稽古で怪我をすることが心配です。怪我を予防するために、準備運動と整理運動をしっかりやろうと思っています。今後の参考のために、準備運動と整理運動についての基本的な事柄について教えてください。 (50歳女性)

Answer

稽古の前には必ずウォーミング・アップを!

剣道着に着替えていきなり稽古や試合をはじめることは大変危険なことです。その意気込みはすばらしいと思いますが、筋肉も神経も体温もまだ運動をする体勢が整っていないときに、いきなり面をつけて、切り返し、掛かり稽古や試合など激しい運動をすると、捻挫や骨折、アキレス腱断裂などのスポーツ傷害を起こします。さらに、急激な変化を嫌がる心臓に大きな負担をかけることによって、最悪の場合は心臓発作を起こすことさえもあります。また、ウォーミング・アップなしに稽古をしても、自分の意思どおりに身体を動かすことは出来ません。稽古をする前には、まず運動と関連する筋や神経系そして循環器系などの諸機能にエンジンをかけ、全身の準備をする必要があります。

ウォーミング・アップの効果

ウォーミング・アップは、以下のようなさまざまな効果がもたらされます。

① 筋肉の反応を早める
② 柔軟性を高める
③ 呼吸・循環器系の機能を高める

安全に楽しく剣道を行うためには、稽古や試合の前に十分な時間を取ってウォーミング・アップをすることに心がけましょう。

剣道に必要なウォーミング・アップとは?

ウォーミング・アップの目的は、身体の諸機能を安静の状態から運動をする状態に導くことです。したがって、あまり激しい運動は必要ありません。ストレッチ体操、一般的な体操、そして剣道に用いられる動き(関連運動)として素振りや足さばきなどを実施するとよいでしょう。しかし、冬の寒いときや、仕事で疲れた後で剣道を行うときには、普段より多めにウォーミング・アップをすることが大切です。

稽古後にはクーリング・ダウンを!

ウォーミング・アップと同様に重要なのが、稽古や試合後のクーリング・ダウンです。これは主に心臓に関係があり、激しい運動を急にやめた後の心臓への負担を軽くする効果があります。心臓はできるだけゆっくり時間をかけて、元の状態に戻す必要があります。また、剣道で使った筋肉の手入れをすることもクーリング・ダウンの目的です。激しい運動で使った筋肉は熱を持ち、疲れがたまっている状態です。軽度の運動により、少しでも早く疲労物質である血中乳酸を除去することが、疲労の回復や傷害の予防につながります。しばらく稽古を休んでいたとき、暑中稽古や寒稽古、合宿など普段より激しい内容の稽古の後、疲労感が強いときなどには、入念にクーリング・ダウンを行うことが大切です。

どのくらいやればいいのか?

稽古をするときは、必ずウォーミング・アップではじめて、クーリング・ダウンをして終わることを習慣にすることが重要です。

ウォーミング・アップは、時間的には10分から15分程度で、ストレッチ体操などの伸展(柔軟性)運動と体の関節の曲げ伸ばしや回旋などの中程度の運動を組み合わせて行います。5分程度の歩行やゆっくりしたジョギングなども有効です。

クーリング・ダウンでは、激しい運動で疲れた体を元の状態に戻すために十分な時間をかけましょう。肩・背中・腰・肘・膝・アキレス腱などのストレッチ体操やゆっくりした歩行、関節の曲げ伸ばしなどを、15分から20分程度時間を取ることが望ましいでしょう。

ウォーミング・アップは、一般的によく行われています。しかし、クーリング・ダウンは体育館や道場の後片付けや使用時間の制限のために十分に行われていない場合が多いようです。さまざまな人たちが集まって行われる稽古会などでは、ウォーミング・アップとクーリング・ダウンが個人に任されているところも少なくありません。特に普段、運動量の少ない方や高齢者の方は、稽古中の傷害の予防や疲労を残さないためにも、心がけてウォーミング・アップとクーリング・ダウンに十分な時間をかけることが必要です。

面倒くさがらないで、十分に時間をとってウォーミング・アップとクーリング・ダウンを行いましょう。

横山 直也(横浜国立大学教育人間科学部教授)

剣道医学Q&A(2014/12発行)」より抜粋

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