RICE処置・主なケガの応急処置(後編)

主なケガの応急処置のポイント

1)捻挫

 捻挫は関節に生じるケガで、痛む部分に変形・異常音がないかどうかをみます。
 左右をくらべて変形がある、あるいは骨のふれ合うような音が感じられるようなら、脱臼・骨折が疑われます。
 関節がグラグラしているようでしたら、靭帯の完全断裂(捻挫の重度のもの)が考えられます。
 以上を手早く調べ、次にRICE処置に移ります。あとで腫れがくることを見越し、きつく締めすぎないようにすることがコツです。寝る時は患部を心臓より高くすることも重要です。患部をもむことは厳禁です。これは腫れを増悪させるだけで治りを遅らせます。症状のひどい場合は、病院に連れて行きます。

2)突き指

 指が関節のところで明らかに横に曲がっていたり、上下にずれているような場合には脱臼です。まっすぐ指先の方向へ引っぱってみると整復できることがあります。
 痛みがひどい時は骨折の可能性もありますので、そのまますぐに病院に連れて行きます。時間がたつと整復が難しくなります。 腫れのひどい場合も固定の必要がありますので、病院に連れて行ってください。
 冷却は冷たい水、できれば氷水の入った洗面器に指を入れて冷やすとよいでしょう。

捻挫と突き指

3)骨折

 まず変形・異常音がないかどうかをみます。極端な変形や皮膚を破って骨が飛び出している場合(開放骨折)は重症ですので、そのままにして直ちに救急車を呼んでください。すぐに整形外科医に診せる必要があります。
 それ以外の骨折では、骨折部が安定していればすぐにRICE処置を行います。
 骨折部がグラグラしているようでしたら、骨折部がずれないように一時的な固定が必要です。

固定方法(下図)

 あり合わせのものを副木として使って、あれば包帯・三角巾、なければタオル・幅広の紐などで骨折部がずれないように固定します。ただし循環障害を生じる可能性があるので、きつく締めすぎないでください。
 方法は骨折部をはさんで上下二関節にわたって固定することがポイントです。
 下腿骨の骨折では、足関節と膝関節を含んで足部から大腿まで固定します。

 RICE処置は、できる範囲で行います。手荒く扱うと、神経・血管を傷つけたり、痛みを増悪させますので、注意しながら扱います。固定に自信のない時、手に負えない時は、とにかくそっとして救護の手を待つことです。

骨折の固定方法

4)脱臼

 捻挫よりさらに程度がひどく、関節より骨が完全にずれた状態を言います。
 起こしやすいのは肩、肘、手指などです(下図)。
 じっとしていても痛み(自発痛)、動かしても痛みます(運動痛)。痛みと変形が主な症状で、素人でもわかりやすいものです。
 関節がはずれて異常な位置にあるので関節の動きは悪く、痛みがひどく自分で動かすことができません。これを「ばね様固定」と言い、直ちに整復が必要です。

肩・肘関節脱臼

整復の原則

 関節の長軸方向(まっすぐの方向)に徐々に牽引を加えるように引っ張ります。指などでは容易に整復されますが、肩・肘では痛みが激しい時は骨折も合併していることもあり、かえって症状を増悪させますので無理にやらないでください。あくまで愛護的に行い、整復できなければそのまますぐに病院に連れて行きます。

 RICE処置は受傷後できる範囲で行います。
 時間がたつと整復が難しくなりますので放置してはいけません。必ず当日中に整形外科医に診せるようにしてください。整復できたとしても骨折を伴っていることがあり、必ずX線診断を受けておきます。
 整復後の固定も重要です。固定が不十分ですと、その後脱臼を繰り返すことがあります(下図)。

肩関節脱臼の整復後の固定

5)打撲・切り傷

 打撲は打突により上下肢に最も起りやすいケガです。すり傷や切り傷などがあるときは消毒し、ガーゼなどでキズを保護します(傷口が汚れていたら水で洗いきれいにする)。その後に直ちにRICE処置を開始します。感染の恐れがあり、傷口の処置が必要な時や痛みがひどく骨折などの可能性のある場合は医師に診せてください。

打撲・切り傷

6)肉離れ

 急激な外力によって筋肉の一部あるいは筋肉をおおっている筋膜が切れたものと考えられています。一般には大腿部後側の膝を曲げる筋肉(ハムストリング)に生じることが多く、剣道ではアキレス腱につながっているふくらはぎ(下腿三頭筋)にもよく生じます。
 その他、大腿部前面(大腿四頭筋)、大腿部内側(内転筋)にも起こります。
 肉離れを起こすと急激な痛みを生じ、時に断裂音もあります。押すと痛む(圧痛)、その筋肉に力を入れて反対側に抵抗を加えると痛む(抵抗痛)、運動痛といった痛みが主となります。
 受傷部位を中心に直ちにRICE処置を開始します。痛みは通常1~2週ぐらいで軽快しますが、その後のリハビリテーションが重要です。治療が不十分ですと再発を繰り返したり、痛みが残存し慢性化するので、肉離れといって軽く考えず、整形外科医を受診したほうがよいでしょう。

肉離れが起こりやすい場所とRICE処置

7)アキレス腱断裂(下図)

 ふくらはぎ(下腿三頭筋)の筋肉は腱となってかかとの骨に付いています。この腱をアキレス腱といいます。
 剣道では踏み切る時の蹴り足(左足)に生じやすく、切れた瞬間は棒でなぐられたような、人に蹴られたような痛みを感じることが多いようです。触ってみると、腱の張りがなくなって圧痛があります。前述したふくらはぎの肉離れはもう少し上のほうですので、間違えないでください。
 アキレス腱がゆるみ、断裂部が寄せ合わされるように、足関節は伸ばした状態(底屈位)にしてください。副木があればこの位置で固定します。
 RICE処置は固定の際にできる範囲で行います。足関節捻挫と同様に足は挙上した位置で寝かせます。
 できればケガをした当日、遅くとも翌日には整形外科医の診察を受けます。肉離れと間違えて見逃されることもありますので、正しく診断してもらい適切な治療が必要となります。

アキレス腱断裂

8)膝関節痛

 膝の腫れ、グラグラと不安定な感じ、運動制限、激痛などがあるときには、直ちに整形外科医に診せます。
 RICE処置は冷却・挙上等できる範囲で行います。
 膝の故障は、いったん起こると体重がかかる関節なので治りにくく注意が必要です。大きく分けてケガによるものと、使いすぎによるもの(成長痛を含む)とがあります。靭帯損傷・半月損傷などは前者で急激な痛みが、ジャンパー膝・オスグッド病などは後者にあたり慢性の痛みが特徴です。
 靭帯損傷・半月損傷などは手術が必要になることもありますので痛みや腫れが引かない時、不安定感などが続く場合は、整形外科医の診察を受けましょう。

おわりに

 RICE処置の主目的は腫れを防ぐということです。いったん腫れが起こると吸収されるまで時間がかかり、ひいては完治も遅れます。適切なRICE処置とケガの応急処置を行えば、その後の治療も良好な経過をたどります。是非このRICE処置・ケガの応急処置を正しく覚えて実践してください。

高幣 民雄(たてやま整形外科クリニック院長)

参考文献
1)中嶋寛之:スポーツのケガ+疲れ 主婦の友社
2)日本整形外科学会編:スポーツ医へのかかり方 ブックハウス・HD
3)高幣民雄 他:臨床スポーツ医学;スポーツ医学におけるプライマリケア 文光堂

剣道医学救急ハンドブック(2014/10発行)」より抜粋

ページトップへ

  • 全日本剣道連盟公式Facebookページ
  • 全日本剣道連盟公式Twitterページ
  • 全日本剣道連盟公式Youtubeチャンネル