北の丸、靖国神社周辺の桜花は例年に比べ見事で、剣道界の新年度を迎えての発展を期待させるものと受け止め、楽しみました。桜前線も北上を続け、今は北海道で見頃を迎えておりましょう。そして5月になりました。新年度の大きな行事を関西で迎えます。
称号・段位審査が、演武大会前の剣道六、七段審査で始まります。居合道、杖道八段、範士審査、大会後には剣道八段、範士審査が続きます。年配者への修業年限短縮が規則化されたこともあり、受審者は前年より増加しています。八段審査の審査員資格、審査員数、合格基準の変更があります。また剣道六、七段審査で剣道形、学科で不合格になった方に、1年以内、1回限りの再受審を認めています。八段審査の実技合格者の学科、剣道形(剣道のみ)審査には、講習を併せて行うなどの変更があります。
これらの措置は、受審者の負担を軽減しつつ、審査の合理化を図るもので、厳正な審査を行う姿勢に変更はありません。新制度の狙いは、あくまで公正に力量あるものを見出すことを通じ、受審者の励みになる審査を行うことで、この点審査員にも努力を要請しています。大勢の方が難関を突破されることを念願します。
さて新しい規則体系で重視している、称号の最高位である範士の審査が行われます。剣連推薦の候補者も出揃いました。今回は予備選考に代え、書類による予備評価を事前に各審査員に求め、全剣連はこれを整理し、必要により第三者の評価意見も求め、結果を審査会に提示して、最終審査を行うことにしました。無難な方ということでなく、優れた、権威ある範士が選ばれるとを念願しています。一方新規則12条の七段範士に、予想外に多数の推薦がありました。新規則のこの条文には、功績がある年配の七段の方の優遇という、これまでの思想は一切なく、あくまで特例であり、基準に基づき厳重に審査が行われることを申し添えておきます。
大会に移ります。5月3日の大阪市での都道府県剣道大会は、最強の剣連への栄冠を、総力で競う年度始めの歴史ある大会です。大阪府より返還される優勝兜をどこが獲得するか、内容ある大会となることを期待しております。
伝統の演武大会、101年を迎えた京都武徳殿で、昨年を上回る参加者を得て、伝統の行事として展開されます。今回は剣道八段の立ち会いをすべて拝見試合とするなど、運営に一部変更を加えます。
新年度の講習事業の始動の役割を持つ剣道中央講習会が、全国の各剣連から派遣の幹部受講者を集めて、東は東京・綾瀬の武道館、西は神戸市の中央体育館で、4月13日より3日の日程で行われました。それぞれ60名余の受講者は熱心、活発に受講、各地に戻っての今後の伝達講習の展開に期待が寄せられます。
思い出新たな京都大会から3年、世界大会は去る3月24日から3日間、米国西部太平洋岸、シリコン・バレーにあるサンタ・クララ市の大学体育館で開催されました。これまで最大の35の国と地域が参加した盛大な大会を、順調に終えることができました。大会を通じての印象として、世界各国が、日本が目指している剣道と同じ健全な方向を目指していることを印象づけられたことを挙げておきます。技量の巧拙はありますが、オリンピック大会でのメダル獲得だけを目指す、一般スポーツに見られる、試合至上の風潮は目立たず、総じて内容の良いまじめな試合が展開されました。さらに大会の場にこれだけの国の人々が集い、剣道を通じて交流を深めることができたのは、世界大会の大きな成果です。これまで全剣連が力を入れてきた指導の効果も挙がってきていると思います。その上に今後の世界剣道の発展に対する、日本の責任の重さも改めて感じさせられました。
当然といえばそれまでですが、日本選手は総じて立派な試合を展開、選手団として纏まって錬成を重ねた成果を発揮しました。一部には力を出しきれなかった者、取りこぼしの運の悪い星を落とした者もありましたが、選手団としての面目を十分発揮しました。以下いくつかの印象を掲げます。
(1)全般的の剣技の水準は上がっております。心配された女子の部も、予想された水準でしたが、真剣な試合ぶりで、今後の進歩が期待できましょう。
(2)審判員の技術は世界大会運営の泣き所といえます。しかし機会を求めて行ってきた講習効果もあり、目に余る欠点は表面化しない水準になりました。しかし各国選手の技術の向上は急速で、審判技術がついて行っていない傾向があ ります。今後どうやって各国の審判技術の向上を図るかが、世界剣道の進歩を図る上の課題として残されています。
(3)大会の運営はおおむね順調でした。今大会として踏み切ったことは、表彰に際して慣例となっていた、入賞者の国旗掲揚、国歌吹奏というオリンピック方式を取りやめたことです。これは剣道の独自性と大会の目的を示すという点、意味のあることだったと感じます。さて大会の設営、準備、運営に当たられた関係者の努力を多とするものですが、さらに日系人の奥さんなどを中心とした奉仕活動が活発だったことは印象的でした。
(4)感謝された剣道具修理サービス
組合から派遣を願い、大会期間中修理サービスをして戴きました。小手の穴の補修だけでも、200本も処理したとのこと、大いに感謝されました。
(5)3年後の第12回大会は、英国北部スコットランドのグラスゴー市で、2003年7月に開催されます。この際居合道の世界大会を開催したいという構想が、提案されています。しかし技術的また理念的の異議もあり、具体化は難しいと見ています。
(6)第13回大会の開催に日本は積極的姿勢を
6年後の世界大会はアジアの番になり、開催地を決める必要があります。台湾が開催希望を表明していますが、世界の剣道発展に責任を持つべき日本は、平成18年の第13回大会を日本での開催に、積極的態度で臨むべきと考えます。国際剣連総会でその意思を表明していますが、今後日本のどこで開催すべきか絞り込み、台湾との調整を経て、決定に持ち込むことが必要です。
(7)つぎの大会に備える準備が必要
3年はすぐ経ちます。選手団も次の大会にどんな体制で臨むべきか。準備が必要です。今回の大会に臨む選手団の体制決定は遅きに失した恨があります。大会への出場選手も念頭に、強化の励みにしてはと思います。
青年誌という領域の週刊雑誌「モーニング」に一昨年秋から、戦前の吉川英治原作の「宮本武蔵」を井上雄彦氏が漫画化して連載されているのをご存じでしょうか。これを纏めて出版した「バガボンド」がすでに5冊目まで講談社から出版、(4月中に6冊目がでます)これが人気を呼んで、600万部を超えるとされるブームを起こしているそうです。「バガボンド」は放浪者、漂泊者という意味で、第5巻は奈良で、宝蔵院流の槍術との戦い、まだ先は長いようです。宮本武蔵は、徳川政権の成立の時代に生き、無双の強さを持ちながら、剣の時代が過ぎ去って行き、武士が生き難い時代を歩んだ実在の人です。「現代の社会、グローバリゼーションなどによる変革が続き、既成の権威が崩れつつある時代で、頼れるのは自分自身のみという世相に生きている、若い人々が武蔵に引かれるのではないか」というのが「剣窓」編集委員の鴨志田恵一氏の見解です。
昭和30年はじめはラジオの時代、人気番組で少年を魅了した、「赤胴鈴之助」は多くの剣道愛好者を生み出しました。今回の宮本武蔵の「バガボンド」はどんな影響を剣道界に及ぼすでしょうか。