全剣連役員の任期はこの6月末をもって満了し、6月19日の評議員会・理事会で7月からの役員が改選され、今後2年の新しい顔触れが決まります。内容はこの号の「剣窓」には間に合いませんので、ホームページでご承知ください。
全剣連の事業は、4月からの年度を区切りとして行われ、すでに15年度事業計画により進んでいます。本年度の方向の変化はありませんが、担当の変更のほか新しい人材も参加して、気分一新しての仕事が進められます。そして2年の任期を通じての業務の企画が取り上げられ、新たな前進がはじめまることでしょう。詳細は8月号以後に譲り、まずこれまでの2年間を総括します。
この2年を顧みますと、自画自賛と言われましょうが、担当役員以下がそれぞれの分野で頑張り、かつてない実績を収めた期と言って良いと思います。
まずはなかなか動かしにくい普及・教育分野での研究作業が積み上げられ、「指導法」「剣道形」における講習資料が纏められたこと、初級者教育の基礎になる「木刀による剣道基本技稽古法」が成案を得たこと、また「審判員講習」に役立つ「運営要領の手引き」の完成など、いくつもの指導用資料の完成があったことは大きな成果と言えましょう。作成段階で得られた知見とともに、今後の教育・指導のために大きく役立つ基盤を築いたことになります。
また重点としてきた審判技術向上は、基幹講師要員の養成が着実に進み、地方にも及びつつあります。社会体育指導員養成も前進しつつあり、新年度は科目の整理と、受講料の引き下げを行いました。教材の整備が進んだ次の期は、普及・教育の充実に取り組むことを重点に、前進が始まることを確信しています。
一方の業務の柱である審査関係は制度、運営の合理化とあいまって、審査の質の向上に向かって歩み始めており、次期には、これまで手を付けることが遅れていた、各剣連に委任している五段以下の審査の充実に目を向ける段階に入りましょう。
海外への剣道の普及も軌道に乗っており、7月の英国グラスゴーにおける世界剣道選手権大会にその実績が示されましょう。
居合道、杖道の普及も順調に進んでおり、杖道では懸案であった、制定杖道の解説書の見直しが進んだことは心強いものがあります。昨年来展開された全剣連設立50周年記念事業で取り上げた、記念大会、記念行事はそれぞれ順調に終えることができました。全国の功労者への感謝の意の表明、また実績ある大会、稽古会などへの表彰を行ったことは、各関係団体の大会への記念杯の贈呈とともに、これまでの各位のご努力に謝意を表し、また僅かながら報いさせて戴けたものと思います。
さらにこのたびの記念行事において前進のきっかけを掴んだものに、剣道文化への取り組みがあります。記念行事として行った講演会、ビデオの作成のほか、これから具体化が進む映像を中心とした博物館、過去の剣道功労者の顕彰のための「殿堂」の設立が挙げられますが、3年がかりの「剣道の歴史」、担当役員以下が取り組んだ「全剣連五十年史」、「剣窓」の歴史の集大成といえる「剣窓スペシヤル」など今後に残る出版物を具体化できたことは何よりと思っています。また広報関係では記念号を刊行した「剣窓」の充実のほか、年間240万にのぼるアクセスがあった、新しいメディアとなったホームページによる情報提供の充実も見落とせません。
顧みるとこの2年間質量ともに、多くの仕事をこなしてきたのですが、これは執行部の幹部以下熱心に取り組んで戴いた役員、専門委員の各位のご努力と、仕事を支えた事務局職員の尽力の結果であり、さらに各剣連、関係団体の皆さんのご協力によるものと存じます。しかしできなかったこと、先送りされたものもあります。
出直しとなる道場建設計画もその一つですが、特に単年度を越えた長期見通しに基づく、基本方針の立案、これに基づく改革、充実策への取り組みは、次の期の執行部によって推進さるべき最大の課題であると思います。
剣道の海外への普及に伴い、日本の審査規則の変更の趣旨についての質問が全剣連に寄せられて来ます.各国の段位審査の基準とするため、国際剣連では日本の規則に準じた審査規則が決められていますが、これは従前の全剣連の規程を基としており、ここ何年間で改定が進んだ日本の規則、その運用と食い違うところが目立ちます。国際剣連の規則には強制力はありませんが、これに基づいて各国で付与された段位は、お互い尊重する慣例になっていますので、整合性を持たせることは望ましいのですが、なかなか追いつけません。そこで日本の制度について最近多く寄せられる質問に対する説明ぶりを纏めましたので、国内での参考ににもなろうと紹介します。
(1)九段審査はこれまで審査会の書類選考によっていたが、性格、基準が明確でなく、結果への信頼感に欠けるところが目立っていた。
(2)今回の規則立案に当たり、段位は「剣道の技術的力量」と性格づけたが、九段以上の場合、剣道の力量を適正に審査することは実際上困難であること、「奨励の手段として必要」という論に対しても、八段を取得した高段者は剣技について他人の評価を求めるより、自ら無限の目標に向かって努力すべきものであるとされた。
(3)そして剣道人は剣技を超えた、人格、識見、指導力を備えた人としての完成を目指し精進すべきものとし、これらを備えた範士を、称号・段位を通じての最高峰に位置するものと位置付けた。
(4)以上により新規則の体系においては、これまで範士の上位にあるとの慣例で審査されてきた九段制度の存在意義は乏しくなり、九、十段の審査は行わないこととされた。
(1)2000年に施行の新規則までの審査規程には、段位についての基準は全く示されず、それぞれの審査員の経験に基づく判断に任されていた。この際審査はなるべく多数で見るほどよいという考え方が支配的で、四~七段審査においては、7人で審査し、5人の合意で合格という、一見厳格な方法で長い間行われていた。
(2)新規則には、抽象的であっても各段位についての基準と、審査における着眼点が定められ、これに審査員の経験的判断を加えて、審査する方針を織り込んだ。審査員の受審者に対する利害関係、好み、同情といった要素を加味して判断することは当然禁じられる。
(3)新規則では審査員の選定を公正、厳格に行うことを重視しており、これらの条件を考慮して、審査員の数を減じて6人とし、4人の合意で合格させる、3分の2の率を採用して合理化を図った。
新規則で段位は「剣道の技術的力量」を示すものとされ、剣道人として必要な知識は、称号取得の条件として重視し、称号審査の際厳格に審査することになった。そこで形式に流れ、受審者の負担を増すのみで効果を挙げていなかった六、七段の学科試験は廃止することにした。なお各剣連に委任している五段以下においては、学科試験を行うこととしており、その適切化を進める。
熟練した審査員3人により一貫して見ることにし、審査の公平と質の向上を図ることにした。
第12回を数える新八段研修会は、さる5月27日から4日間東京武道館で、昨年秋とこの5月合格の新八段31名の参加を得て充実した内容で実施しました。また各剣連からの幹部七段を対象にする、中堅剣士講習会は第41回を昨年に続き奈良市中央体育館において、全国からの60人の七段剣士を集め、6月11日から15日まで実力向上のための厳しい講習が行われました。
7月4日から英国グラスゴーで開幕の第12回世界剣道選手権大会を控え男女出場選手は、6月に2回の強化合宿を終え、6月29日に出発します。日本の剣道界としてその健闘を祈りましょう。
「まど」はこの号で、192回を迎え満16年を終えたました。この間戴いた読者の方々のご声援に感謝します。
以下私事に亙ります。6月になると戦後南の島から日本に帰る船中が思い出されます。執筆中のこの頃船はバシー海峡を北上中で、夜には甲板上で南十字星に別れを惜しんでいました。その時期の占領下の日本の剣道界は大荒れで、大日本武徳会が解散に直面していました。それから57年、全剣連は50周年を終え、歴史も変遷を重ねました。剣道界で当時の世相を知る人も少なくなりました。