2006年1月号

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年頭所感

平成18年「年頭所感」―社会での剣道の役割を果たそう―

takeyasu2006.jpg 財団法人全日本剣道連盟会長
武安義光

皆さん明けましておめでとうございます。剣友の皆さんが、健康で新年を迎えられることを何よりも念願しています。

幸いこの年は日本経済の立ち直りも顕著であり、国内政治も昨年の総選挙の結果安定した状況で迎えられること何よりです。しかし考えられないような凶悪犯罪が続発し、民心も道義的面など心配される状況にあります。また国の財政は多大の赤字を累積、改善にはほど遠い有様です。さらに地球環境問題の深刻化は避けられそうもありません。これらはいずれも国民の負担の増大として跳ね返ってくることは確実です。近隣諸国の急速な成長もあり、日本の世界における経済競争力も楽観できません。このような内外の情勢を切り抜けていくため昨年の繰り返しになりますが、日本人が精神的にも、肉体的にもしっかりしたものになって行かねばなりません。そこで決まり文句である、剣道の果すべき役割が大きいことを改めて強調いたします。

剣道を取り巻く情勢でいつも出る話は少子化による参入者の減少です。確かに対応していかねばならぬ問題ではありますが、私は剣道界以外の方に話す時は、関係者の努力で少子化の状況下対応にかなりの成果が上がっていると説明します。全剣連はこの状況への対応は指導者養成など正攻法で進んでいますが、関係剣連と協力して現場での活動の支援方策を講じていきます。

今後増える定年を迎える団塊世代の方や、主婦に、剣道具を着けての本格的剣道でなく、竹刀や木刀だけでできる剣道形や居合などの教室を開き、余暇利用の趣味と体力維持のためやって貰おうとのお話しもありましたが、確かに少し発想を変えての方法も必要かと思います。

さて昨年の事業を振り返りますと、指導、教育を重点としてきた数年の準備のあと事業基盤での前進を感じます。たとえば講習事業では各剣連の取り組みを優先し、全剣連はこれを援助する方向に軸足の重心を移しました。剣連によりまちまちでしょうが、逐次成果が上がるものと期待しています。すでに学校剣連で中・高の先生の講習をブロック単位で計画的に行うようになった実績が見られます。

指導者の育成では審判講習の講師要員の研修も軌道に乗って、各地で効果を挙げつつあります。全剣連の行う審査会の前には必ず審査員研修を行い、内容ある審査を行うよう準備しています。これまで大家と扱われていた方々が率先、努力されるようになったこの風潮が、全般の指導、教育に成果を生まない筈はありません。また10年を経た社会体育指導員認定講習では、昨年9月に第1回上級講習を行いました。43名の方が資格認定を受けられましたが、これまでの6千人を越す初・中級資格受有者とともに各地で活動され、剣道普及の一翼を担われることを念じます。

さて昨年は愛知万博の行事に参加、8月31日に万博ドームで剣道フェスティバルを実施し好評を博しました。私はこの成果は剣道の一般への普及のため活用できるものであり、全剣連がこの分野で価値あるものを作れたことを評価します。

剣道の海外普及は進んでいます。特記すべきことは去る11月28日に、香港剣連主催で第1回中国剣道選手権大会が開催されたことです。香港、マカオと既存の剣連の他に、本土から北京、上海、広州が参加、9チームで優勝を争いました。各地の人々の実に真面目な剣道への取り組みに好感を持ちました。広大な隣国である中国での剣道の胎動は喜ばしいことです。

さて昨年も触れましたが、江戸時代に武士の子弟に刀の操法を訓練するために考案された竹刀剣術ですが、明治に入り武士階級の消滅と軍事上の意義も無くなり、存立の基盤を失いました。しかしその後日本刀の操法、武士道の精神を残しつつ、剣道として再興しました。教育的価値も評価され内容も高度化して普及の道を歩み今日に至っています。

この日本文化の所産の価値を再認識し、お互い剣道の社会における役割を果して行く年としたいものです。

今月のまど

新年のご挨拶は巻頭言に譲ることにします。1月号の執筆にあたっているのは12月初旬、北の丸公園、九段坂、靖国神社の辺りを黄一色に彩った葉も散り、木枯らし吹く師走を迎えました。

合計7千人が挑戦された一連の審査会は全剣連にとっての大事業でもあります。無事に終えて関係者もまずホッとします。合否に明暗を分けた受審者の方々は、結果には納得戴いたでしょうか。不成功の方の捲土重来を念じます。

大型審査会の結果に見る

まず1千3百人を超す過去最多の人々が挑戦した剣道八段審査。87名の一次合格者は、二次審査で合格者15名に絞られました。ところが剣道形審査で3名が不合格、結局12名が合格を飾りました。厳しい形審査の結果は、竹刀での勝負に偏った修業への警鐘と受け止めるべきでしょう。

その12名の合格者のうち東日本の方はわずかに2名、著しい西高東低の結果になりました。

七段審査の受審者は、名古屋で948名、東京1,633名といずれも前年を上回る多数、しかし合格者は名古屋で合格率7%、東京の10%という厳しいものでしたが、審査の実態とかねて指摘され期待されている七段の権威を考えると妥当と言える結果と感じます。

さて六段審査は名古屋、東京とも10%を超えるまずまずの合格率でした。ここでお知らせしておくことは、別に第八審査会場を永田町衆議院道場に設け審査を行ったことです。受審を希望して申し込みがあった受審資格ある4名の国会議員の方の審査は、政務の関係また警備上の問題から、一般と一緒の受審をして戴くことは困難と判断し、別に審査会場を設けたものです。それぞれ内容ある演武と剣道形を披露され合格されました。

成績の上昇が見られた称号審査

秋の称号審査は各道の錬・教士について行われますが、5月の審査に比較して審査成績の向上が顕著でした。特に半日の筆記試験を行う教士審査において、5月には27%に及んだ不合格者が11%に減少しております。これは受審者が教士試験の内容を事前に理解し、所要の準備をされたことによるのであろうと試験委員が印象を述べていますが、喜ばしい結果であると言えます。

中国での剣道胎動-香港で第一回中国剣道選手権大会

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昨年6月に北京を訪れ、現地での剣道の活動に触れ、強い印象を受けました。
(「まど」8月号)。

現地の状況はさらに進み、第1回中国剣道選手権大会を11月27日に香港剣連主催で開催するとのことでお招きを受け末野教士(鹿児島)を帯同参上しました。

既に国際剣連に加盟している香港、マカオの他、北京、上海、広州からの参加があり、9チームでの優勝大会が鯉里門体育館で行われました。

歴史が浅い大陸チームはいずれも国際剣連規約に従って堂々と試合を行いました。結果は歴史も古く、陣容の揃った香港Aチームが、優勝しましたが、大陸のチームそれぞれ力一杯の試合を展開し、好印象を受けました。

また前日には三段以下の審査会、60名が参加しての親善稽古もあり、有意義な行事となりました。

中国大陸における剣道人口の増加は近年目覚しいものがあり、先発の小国を凌ぐものがあるようです。その活動には日本人駐在員が大きな役割を演じていますが、独自に活動しているグループもあるようで、今後の展開が期待される一方、日本の剣道界としても、その健全な発展のための援助を考えて行く必要性大なるものがあることを感じました。

平成17年を振り返る-全剣連・剣道界のニュース

①国体で岡山県四種目の完全優勝

5月の都道府県抵抗大会を連覇で飾った岡山県が、秋の国体でも目覚ましい活躍で、過去の記録で見られない完全優勝を遂げ、文句なく今年の全国47都道府県のトップの座を占めました。

②心技とも充実した試合に終始した東西対抗剣道大会

南国鹿児島で38年振りに開かれた大会は、試合時間を10分に延長して実施。その効果も現れて大会の趣旨と目的に合致した内容が披露されました。大会前後の運営が簡素に行われたことも大きな成果でした。

③愛知万博での剣道フェスティバル―剣道PRに新機軸を展開

8月31日に万博ドームで開催された催しは、剣道の紹介のための異色ある作品として、大方の関心を集めました。準備にまた実演に当たられた多くの方の努力を反映した出来栄えでした。この機会に初めて募集された「剣道ミュージック」に応募作品の中から優れた作品が入選しました。併せて作成された剣道アニメなど、この他いくつもの成果を残しました。

④社会体育指導者認定事業10年を経て、上級講習に進む

平成7年に始められたこの事業、初級認定講習にはじまり、中級認定講習を経て、いよいよ上級認定を行う段階を迎え、8月に勝浦市で第1回講習会を実施しました。

⑤普及のための講習会―軸足を地方に移す方向に改めて実施

一般を対象にした各種講習会を、すべて各剣連の講習計画のもとに実行し、全剣連は必要に応じ講師派遣、助成金交付などで援助するという方向に改めて実施することになりました。17年度より実施に移し、効果を収めつつあります。

⑥若手対象の強化訓練計画を発足

これまでの強化訓練が、とかく試合のための強化に陥りがちの風潮にあったことを反省。地力ある剣士を長期的見地で養成していくためのプログラムを取り上げました。原則23歳までの若手剣士を全国各界から選抜、52名が参加して11月に第1回の特別訓練を行いました。俗称「骨太剣士養成計画」であり、同一メンバーで原則2年の訓練を行います。

⑦剣道殿堂第一期推戴者の選定を終える

11月に第二次9名の選定を終え、昨年実施の第一次と併せ、合計24名が推戴されました。現在の剣道形成に功績のあった方々の推戴のための第一期作業を終えました。

⑧中国本土での剣道の台頭

真空地帯の感があった中国大陸での剣道が、近年活発な広がりを見せています。さる11月に香港剣連主催で第1回中国剣道選手権大会が開催されました。

大陸各地で、剣道のグループが発足し、参加人員も拡大しつつある様子です。これには日本人経験者が指導にあたり援助していることが伝えられていますが、全剣連としても対応に取り組んでいきます。金儲けや売名の目的でない、正しい剣道の普及に留意する必要があります。

⑨高段審査への取り組み増勢

若手参入者の低迷に反し、中高年剣士の取り組みは熱心で、全剣連審査への申し込み数は、つぎつぎと記録を更新しています。実施者側は内容の適切、妥当化のため一層の努力を進めつつあります。

⑩初段取得者数前年と横ばい

少子化の進行など剣道への参入者の減少が心配され、各方面で対応に苦心しておられることでしょうが、前年の初段取得者数、おおむね前前年の水準は維持できる見通しです。

付・全剣連役員など六月に改選され、新しい顔触れも入り、業務に取り組んでいます。

昨年の物故者

剣道の発展にご功績のあった次の方々が亡くなられました。謹んでご冥福を祈ります。

吉田市太郎氏 剣道範士 (財)京都府剣連会長 16年12月31日 84歳(2月号まど)

村山慶佑氏 剣道範士(兵庫) 全剣連審議員 元常任理事 第9回世界剣道選手権大会日本選手団監督 1月26日 77歳

笹原 登氏 剣道範士(熊本)剣道功労賞受賞 2月18日 96歳

古村幸一郎氏 剣道範士 長野県剣道連盟会長 2月18日 91歳(4月号まど)

阿部三郎氏 剣道範士(東京)元全剣連審議員 4月20日 85歳

堀江幸夫氏 剣道範士 元徳島県剣道連盟会長 7月5日 85歳

湊谷喜代美氏 剣道教士 青森県剣道連盟会長 7月4日 75歳

山田庚児氏 剣道範士 新潟県剣道連盟会長 10月3日 83歳(11月号まど)

市川彦太郎氏 剣道範士 元埼玉県剣道連盟会長 元全剣連審議員 11月27日 85歳

昨年の「まど」の各月の主内容 

  1月号 大型審査会を顧る。

  2月号 年頭の新聞論調16年を振り返る。

  3月号 17年度の事業計画の構想

  4月号 17年度収支予算の骨格 普及活動の軸足を地方に移す

  5月号 社会体育講習会上級講習の骨子固まる。

  6月号 大阪・京都での一連の事業を振り返る。

  7月号 次期執行部へ申し送られる課題。役員改選などの会議手順の変更

  8月号 新執行部の発足 顧問・審議員などの決定

  9月号 新体制における事業発展普及活動の充実と効率化

10月号 剣道フェスティバルの成功 夏のいくつかの行事

11月号 充実した東西対抗剣道大会と試合時間制限の変更
      役員の業務担当と専門委員会委員の決定

12月号 充実した全日本剣道選手権大会。各種の表彰者の決定

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