ようやく陽春の季節を迎えました。今年は桜の開花が早かったのですが、その後春寒といえる気候が続いたため、盛りが例年になく長く続きました。九段坂、千鳥ケ淵、北の丸公園、靖国通りの花が一斉に咲きそろっての見頃が続き、人々を楽しませてくれました。良いことがありそうな新年度を迎えました。
事業の方は、東西の中央講習会で幕を開け、全日本選抜剣道八段優勝大会から、大阪での全日本都道府県対抗剣道優勝大会、全国の剣豪が集う京都武徳殿での全日本剣道演武大会、審査会と例年のように続きます。立派な内容だったと言えるようにこれらの行事を終えたいものです。
かねて出版を急いでいた、中学校体育正課教育用参考書、『剣道授業の展開』も出来上がり、配付・販売を始めました。普及活動を充実させ、剣道界の元気を全国に示しましよう。
新年度の口火を切る剣道中央講習会は、4月4.5の両日、東は夢の島の東京スポーツ文化館、西は神戸市立中央体育館で開催、各剣連・関係団体から派遣された、講師要員が参加して実施されました。集まる者は東は70名、西は56名、それぞれ各剣連で指導の中心となる人材で、おおむね半数が剣道八段を持つ実力者です。科目は指導法・審判法・日本剣道形を行い、この他に現地の消防関係者による救急法の実習が加わります。
講習生はそれぞれ熱心に受講され、講師の尽力とともに効果は上がったと見ます。しかし剣道界での指導力を一段と高めることが要請されている現在、このままで良いのかという懸念を拭い去ることができません。中学校体育での武道必修化の流れの中で、剣道の普及を図って行くために、各層の指導力を向上していくことが、剣道界に強く求められています。
この講習会の歴史は昭和41年にさかのぼります。内容への要請は時代とともに変化しています。当初は全剣連が集約した知見を、全国に伝達するのが主な目的で、参加者が得た知見を地方で伝達する役割を期待し、伝達講習会と呼ばれてきました。
しかし今やそのような時代でなく、この講習会は地方の人材による指導力を高め、各地、津々浦々の指導者の能力を高めるための講習を担う幹部を養うことを目的とすべきです。
このためには参加する講習生も、何か変わったところを聞いて帰るといった消極的勉強の態度を超えて、もっと積極的に取り組んでもらうことが必要ですし、主催者側も進め方の改善を図っていくことが必要だと感じます。何よりも伝達講習会から脱皮して行きたいものです。
何回も予告しましたが、ようやく出版されたこの図書は、中学校武道の必修化を踏まえた指導資料として急いで纏められたものです。体裁はA4判・本文107ページ、定価600円でお分けします。内容と特色を以下列挙します。
① 教育基本法、学習指導要領、学習指導要領解説「保健体育編」(いずれも抜粋、要約)があり、剣道における学習内容を分かりやすく図式化しています。
② 授業の事例については「剣道具使用の場合」と「剣道具のない場合」について、それぞれ分けて示しています。
③ 1.2年生については、予想される学校での授業の実態を踏まえ、最大13時間で指導できる内容にしてあります。
④ 展開例の中で例示される「指導上の留意点」のところでは、担当教師と指導協力者に分けて示されています。
⑤ 展開例の後に、生徒が誤り易いところの指導法を「つまずきと指導」として掲げてあります。
⑥ 剣道具のない指導の場合は、『木刀による剣道基本技稽古法』を活用しての指導法を、豊富に写真を取り入れて示しています。
⑦ 主な図表・資料については、コピーにより、拡大して授業に活用できるよう配慮してあります。
⑧ 生徒の興味・関心を高め、学習を楽しくするために、学習カード、学習ノートなどの資料も入れてあります。
以上のようなことですが、この資料が広く活用され、内容ある教育が全国各地で行われるようになることを念願します。
第57回という歴史を持つこの大会、ゴールデンウィークの始まりとなる4月29日に、例年のように大阪市中央体育館で開催されます。今年から高校生・大学生をメンバーに加え、男子だけの優勝大会として都道府県の総力で覇権を争う大会となります。フレッシュな剣士から、ベテランの高段者までの、異なった年代と職業の剣士の組み合わせによる総力戦は、剣道の特色である生涯修錬の実を見せる魅力ある試合の展開を期待できます。
またこの大会の発足に伴い、家庭婦人大会から改変される、7月の全日本都道府県対抗女子剣道優勝大会と相俟って、各都道府県剣連の下での剣道の実力向上に大きな役割を果たす大会になることを確信し、期待しております。その第一陣といえるこの大会に多くの方が応援、観戦に来場されるようお勧めいただく事をお願いします。
演武大会への参加者はここ数年わずかに増加を続けており、本年の参加者は各種武道を併せて、3,289名になりました。種目別では居合道が微減のほかは、各種目とも増加していることは喜ばしい限りです。剣道では最終日の教士八段の立合いは増加しており、範士の方も減ることなく続いているのは何よりです。また七段の立合いのうち、5月3日に出場を希望する方が増加していることは、八段受審の方が日程を繰合わせ、休みを有効に使おうとする風潮の現れかと見ています。
ともあれ明治28年にはじまり、回を重ねて第105回を迎え、剣道行事の中で最も歴史ある大会が、文化的にも意義あるものとして立派に開催されるようお互い努力したいと思います。
連休の中の大会には審査会も連携して行われます。連休後の名古屋での剣道七・六段の審査会への受審者を併せると、6千6百名の方が挑戦されることになります。
今年から制度の変更があり、60歳以上の方の、受審のため必要とされる前段取得からの修業年限を半分にするという特典が廃止しされました。この変更による受審者の減少が予想されていました。剣道六段では京都・名古屋併せて、2,622名で、前年比219名の増加、剣道七段は合計が2,314名で、前年比146名の減少になりました。前年の七段審査で特典を利用し受審された人が166名でしたから、おおむね相当数の減少ということになります。六段の場合の特典利用者は、併せて74名でしたからこれは飲み込まれた事になります。
注目される剣道八段の受審者は、5月1.2日の合計で1,466名で前年比7名の増加です。特典を利用して昨年受審した人の数は、109名ありましたが、今回はその減少要因を埋めて増加したこととなり、八段取得への熱意の高さが感じられます。
剣道八段受審での異変は、受審日の選択で2日目が46名増え、一日目が39名減ったことです。演武大会での七段演武で3日の立ち会い希望が増加したとお知らせしましたが、5月2日・3日と続けて仕事をしようとする風潮と重なって見えます。
なお特典利用者が多い居合道での八段受審者は前年より23名減って150名、昨年の特典活用者42名を埋めていません。
ともあれ多数の受審者のご健闘を祈りますが、審査員を含む実施者側も、実行には万全を期します。
3月号のこの欄で、放送された寒稽古の番組を取り上げ紹介しました水戸東武館ですが、昭和35年、国内の社会経済情勢治まらぬ中で始められたこの大会、連綿と続いて本年第50回大会が茨城県武道館で3月29日開催されました。全国から集まった432チームの少年剣士が元気一杯技を競った意義ある大会となりました。
会場を埋めつくした少年剣士たち(筆者写す)
会 長 武安 義光