今年は気候の動きが早く、桜花の季節はアッという間に過ぎ、緑の初夏を迎えています。京都の全日本剣道演武大会を中心としたいくつもの行事が展開され、延べ8千名もの剣道人が大会に、審査に取り組みました。そこでは剣道の楽しさ、厳しさとともに、美しさが表現され、日本で育てられた剣道文化の奥深さに打たれました。古都を舞台に繰り広げられる誇るべき文化的行事であることを実感させられた1週間でした。
全剣連で最も長い歴史を持つこの大会、4月29日に大阪市中央体育館で第57回大会が行われました。高校生・大学生を加え、男子だけの優勝大会としての都道府県の総力で覇権を争う大会として、フレッシュな剣士から、ベテランの高段者までの、異なった年代と職業の剣士の組み合わせによる大会は、予想どおり、生涯修錬の実を見せる多彩な試合が繰り広げられました。
試合は、先鋒高校生から次鋒大学生と続きます。前回までの女子選手の対戦とは勢いが違います。これに続く選手の対戦も盛り上がって、激しい角逐が展開されました。都道府県対抗を1回で開催する場合は、男女込みで行う方が総力戦としては適当でしょうが、男女を別にした大会の方が魅力的であることが実感されました。今年から夏の女子大会と併せて2試合での総力戦になります。
大将の年齢を50歳以上としたため八段剣士が14名出場され、試合に重みを加えました。また職業区分の変更から、刑務官が多数顔を見せ活躍しました。
さて試合では東京都・山梨県・神奈川県・三重県・京都府・大阪府・兵庫県・高知県がベスト8に勝ち残り、東北・中国・九州が脱落、4強には大都会を持つ都府県が勝ち残りました。
準決勝第1試合は、前回優勝の東京都と、覇権奪回を目指す大阪府との試合で、事実上の決勝戦とも見られました。先鋒から3試合引き分けの後、大阪府が頑張って、結局一本も許さず東京都を圧倒しました。第2試合は、兵庫県が先鋒・次鋒と連勝、優位に立ちましたが、京都府はジワジワと挽回、大将戦で逆転し決勝に陣を進めました。
決勝戦は先鋒・次鋒が一進一退のあと、中陣で大阪府が優位に立ち、そのまま3-1で2年振りの優勝を決めました。
多くの試合で白熱戦が展開され、見る人をして退屈させない大会だったと思います。そういえば観客の数も昨年より遥かに多かったことは何よりでした。
今年は各都道府県、チーム編成の準備に時間が取れなかったこともあったと思いますが、次回にはさらにすぐれたチームが編成され、魅力ある大会になることを確信します。
この大会の発足に伴い、全国家庭婦人剣道大会が改組され、高校生、大学生を先鋒、次鋒に据えての全日本都道府県対抗女子剣道優勝大会が発足しますが、ここでも内容ある試合が展開され。各都道府県剣道の実力向上に役割を果たす大会になることを期待しております。
回を重ねて第105回を迎えた歴史ある大会は、5月2日に各種武道の形・薙刀・杖道・居合道の演武に始まり、5月3日から3日間の剣道演武で幕を閉じました。大会での演武のほか、早朝の稽古会も盛大に行われました。
会期中は数えきれないほどの多くの出会いがあり、参加者もこれから1年の修行の源泉も蓄えられたことでしょう。剣道界最大の文化行事として、来年も充実した大会を持ちたいものです。
この大会のために京都府剣連で係員として尽力された方は延べ455名に上るとのことで、お骨折りに深謝いたします。
武道センターでの朝稽古の風景(筆者写す)
大会に連携して行われた3千5百名の方が挑戦された審査会も無事に終えることができました。
関心の高い剣道八段審査は5月1・2の両日にわたって行われ、それぞれ10名が合格されました。1日目の合格者には、剣道形で前回不合格になった2名が含まれ、新規合格は18名でした。全般的に緊迫した良い内容の立ち会いから合格者が選ばれた印象を受けました。5月3日の居合道八段審査では5名、杖道八段審査は3名が合格で、いずれも厳選された印象でした。
剣道六段は4月29日の西京極と5月17日の名古屋で行われ、合格者は120名と149名、合格率は10.5%と10.4%でした。
近年難関と見られている剣道七段審査ですが京都で72名、名古屋で112名、それぞれ8.2%と8.8%幸いおおむね均衡が取れた結果と見ています。合格された481名の方にお慶びを申し上げ。今後一層の研鑽を続けられることをお願いします。
明治村大会を引き継いで名古屋市で開催されるこの大会は7回目を数え、4月19日に、中村スポーツセンターで開催されました。八段取得後5年を経た円熟した剣士の中から選抜された32名の剣士により、内閣総理大臣杯の争奪が展開されました。
全国から選抜された実績あるベテランの八段剣士ですが、1回戦は勝負を意識して慎重に過ぎたのか、動きが堅く心配されました。しかし2回戦に入ってからは実力を発揮、さすが八段戦と見る者を納得させる勝負が展開されました。
1昨年優勝の船津 晋治(大阪)は鋭い攻撃で、前回準優勝の氏家 道男(東京)、芳賀 公(埼玉)を下して注目されましたが、3回戦で試合巧者の大城戸 功(愛媛)に敗れ、武運拙くという感じでした。
一方古川 和男(北海道)は好調に試合を進め、巧者豊村 東盛(東京)に二本勝ちし、一方のパートでは重松 隆(滋賀)が健闘難敵を下し、また前回、前々回と三位入賞と安定した実力の濱崎 満(東京)は順調に準決勝に進みました。
勝ち残った4強による対決では、古川が大城戸にコテを先取されながら、メン、コテを返して逆転勝ち、一方濱崎は重松を下し、決勝戦に進みます。
両者の対決、この日好調の古川がメンを先取優位に立ちましたが、濱崎メンを返し、さらに得意の妙技コテを決めて優勝、警視庁首席師範への昇進に花を添えました。
この大会試合時間はすべて10分で行いますが、各選手は時間に追われることなく力を発揮して、格調高い試合が展開されました。各選手の健闘に謝意を表しますとともに、玄人好みの試合ではありますが、もう一息大勢の方が観戦していただくことを希望します。
この団体はGAISFという略称で呼ばれる、103種のスポーツが加盟している国際的に認められている最大のスポーツ団体です。剣道も国際剣連として3年前に加盟したことはすでにお知らせしています。加盟は主に欧州諸国の希望を受けて行ったものですが、現在アンチドーピングの活動を重視していることもご存じと思います。
加盟にあたり「剣道」という名称で行っていますが、商標登録の効果があり、剣道の名が国際的に確立したことが挙げられます。
さてこの団体の中に武道グループがあり、このたび大会を来年秋に中国・北京市で開催されることが決まりました。13の種目の中剣道もこれに参加することになりますが、世界選手権大会のような勝利を争うものでなく、模範演武や個人試合などを通じて、各方面の理解を深めることを目指すものになりましょう。
武徳殿の南門は、5月3日の朝、平安神宮での武徳祭を終えた参加者が、武徳殿での開始式に移動するときだけ開いて貰っています。この門は幕末の会津藩邸のものを移築したと伝えられ、武徳殿への正門として設置されています。例年は弓道行事があり、通路にテントが張られて美観を損ねていました。本年は弓道行事が他で行われたため、正面から見た武徳殿の美観を望むことができました。記念写真を掲げていますが、荘重な偉容を想像して下さい。戦前の武専卒業生である相談役石原 忠美範士のお話では、在学中この正門が開いたところを見た覚えがないとのこと。よほどの場合の他は「開かずの門」だったようです。
「開かずの門」正面から望む武徳殿
会 長 武安 義光