梅雨を前にした初夏の好季節も過ぎていきます。京都の華々しい行事が過ぎると剣道界は研修・講習の蓄積の時期に入り、また各剣道団体では前年度の締めくくりを行い、人事の季節に入ります。
学校や団体では新人を迎えて、陣容を整える活気ある時期でもありましょう。不況に見舞われた経済界でも景気は底を打った気配があり、少しずつ上昇気流が見えそうです。しっかりと剣道の錬成を進めるとともに、新年度の仕事に取り組んで行きましょう。
前年度の事業報告は6月10日の評議員会・理事会で、収支決算とともに承認を受け締めくくられました。ここで簡単に振り返ります。
大会などについては事業計画に沿っておおむね順調に行いました。普及面では重点を置いたのが指導力の強化であり、注目して頂きたいのは、指導法の講師要員の研修を取り上げ、全国から選抜した範士・教士の参加を求めて2回実施したことです。これはすでに先行している審判法の講師要員の研修に習ったものです。指導法は内容が広く難しい分野ですが、主催者側も苦心して講習方法を工夫し、本年度に入って行った第3回研修会では、効果を挙げる目途を得たように思います。こうして基幹人員の能力を充実させつつ、全国各地での講習の充実を図ることで、全国的に効果を高めていくことを目指す方針で、活動を本年度に引き継ぎました。
講習の効果を挙げる上では教材の充実が欠かせません。これについては講習会資料の充実を進めてきましたが、前年度には、『剣道指導要領』が改訂出版された他、昨年度に入って取り組んだ『剣道授業の展開』が慨成し、本年度に入って出版・販売され、時宜に適した内容と好評を博しています。
こうして各地での講習事業充実の基盤ができつつあり、全国のレベルアップを進めるための道筋が見えてきたように思います。
審査分野では、全体の流れとして少子化の影響があり、初段取得者の減少傾向が進んでいますが、全剣連が行う六段以上の受審者の増加傾向が続いています。審査内容については基準に基づき、向上しつつあることが感じられます。
また不公平感を拭い切れなかった六段以上を受審する60歳以上の修業年限を半分にする特典は、新年度よりの廃止を決めました。
強化分野では第14回世界選手権大会(14WKC)出場候補選手の強化訓練のほか、25歳以下の若手剣士を2年にわたり訓練する選抜特別訓練講習会―いわゆる骨太剣士養成計画は第2期を終え、38名が終了、効果を挙げました。
社会体育指導員養成事業は各級を順調に進めましたが、武道専門大学の学生を対象として進めることとし、国際武道大学生を対象として初級講習を試行しました。
国際関係では14WKCの準備を進めた他、専門家の派遣指導に力を入れ、費用の負担を工夫しながら、前年より倍増の30回の派遣を行いました。
広報活動では頒布品販売サービスの充実を図り、インターネットのオンラインショップシステムの充実を進めました。
情報処理関係では、全日本剣道選手権大会の特設サイトを設けるなどホームページによる情報発信機能の充実を進めました。また各剣連への登録者管理システムの導入への支援を行い、4剣連で導入され、通算42都道府県が導入済みになりました。加盟団体でのホームページの開設は2県で行われました。
表彰事業は前年に続いて実施しましたが、全国の90歳、七段以上の高段者216名に対し、敬老の日に祝意を表しました。
居合道・杖道においてもそれぞれ審査方法の改善、普及活動の充実が進められました。
さて以上の前年度事業は支援部門の分野においてもそれぞれ充実して行われ、成果を収めた1年と言えると感じています。
前年度の収支を見ますと、収入の大宗を占める登録料は、予算に比し5百万円の減を、段位審査料の1千万円増で補い、この年にずれ込んだ高段者名簿の収入増などもあって、予算を2千万円上回る6億3百万円の収入を挙げ、支出増を補い、予算での赤字4千6百万円を1千9百万円ほど減少させる2千7百万円の赤字にとどめることができ、まずまずの決算を行うことができました。内容は本誌記事をご覧ください。
評議員会において6月で任期満了になる役員全員の選任を行いました。
この2年は新しく仕事に取り組み、続けて仕事を発展させて貰いたい方がおられること、ブラジルでの14WKCを控えていることなどの事情で、執行部の異動は小規模のものになる前提での人事です。
主な異動は、大久保 和政・西村 守正両副会長が今期で退任されることです。新体制や理事の役職は、7月7日の新メンバーの理事会で決定されますが、それまでは現行体制で業務に当たります。
段位の下部に位置する級位の規則の見直しを進めて来ましたが、10日の前記の会議で了承を得ました。元来加盟団体にすべて委任して行われてきたもので、30年手付かずだったものを、称号・段位審査規則との整合性を重視しつつ、現状を踏まえた規則としました。主眼は「木刀による剣道基本技稽古法」を取り入れた実技を行うことです。運営はこれまでどおり加盟団体で実行することとしています。またこの規則による級位は三級までとし、それ以下は必要に応じ制定できる、いわば緩い規則です。
全剣連として重視している講習会が次々と開催されました。
まずは奈良市で毎年行われている第47回中堅剣士講習会です。これは強化活動の事業と位置付けており、将来性ある40歳代の七段剣士を各県剣連から推薦により参加を求め、5月20日から24日までの5日間奈良市中央体育館で錬成するものです。
本年は55名の参加を得て、熱心な講師のもとしっかり錬成を行いました。大いに効果が上がったのですが、残念なことは4つの剣連からの参加がなかったことです。昨今の経済・社会の情勢から参加しにくい事情もあることは分かりますが、みすみす剣連の剣道人材の育成のチャンスを放棄するのは望ましくありません。欠席された剣連には今後努力頂くことを要望します。
このあと5月30・31の両日東京・夢の島の「ぶんぶ」で指導法の講師要員研修会の第3回が行われました。全国から選ばれた28名の範士・八段教士に対する研修会は、事業報告で取り上げた新規事業ですが、内容も改善され、今後の効果を期待しています。
同じ日14WKCの審判員に対する講習会を行いました。グラスゴー、台北の大会前に行ったものに続く3回目で、会場も空港に近い成田市を毎回選んでいます。日本から出る審判員を含め、36名が集いしっかりした研修を行いました。講師のお話では、予想以上に技術レベルが上がっているとのことでした。
新設の鹿屋体育大学における剣道教育の基礎を固められ、九州剣連の会長も務められた谷口安則氏が5月19日に亡くなられました。谷口さんは福岡県ご出身、戦中に東京高師を出られました。剛剣で鳴り、7年前の日本武道館で行われた全剣連50周年記念大会で、若手高段者を相手として模範稽古で、見事な元立ちを務められたことが印象的でした。戦前派として重きをなした剣道家でした。ご冥福を祈ります。
もう一方剣道界最高齢の八段範士でおられた、石川政勝さんが5月29日に103歳の長寿を全うされ亡くなられました。石川さんは明治39年札幌市でお生まれになり、少年時代に剣道を始められ、長じて陸軍に入り修行され、昭和11年に大日本武徳会で錬士を取られました。陸軍大尉で終戦、戦後も剣道に励み、昭和45年に京都市で八段に合格、さらに昭和55年に範士を授与されました。北海道・名寄地区下川町に居住、地元のために尽くされ、町会議員、議長も務められました。銃剣道範士八段のほか、趣味の詩吟も八段をお持ちとのことです。社会人として長寿を保たれ、立派な人生を送られた剣道人石川政勝さんのご逝去を悼みます。
新聞から拾ったニュースを1つ披露します。5月29日の『産経』に、韓国での脱北者教育施設の模様が報道されていました。韓国では脱出者の韓国社会への適応を支援するため、安城市に教育施設「ハナウオン」を設け、12週間の教育を行っているとのことです。関心を引くのは、記事のなかに、女子生徒らが剣道の練習をしている写真が出ていたことです。韓国における剣道の広がりを感じました。
会 長 武安 義光