異常な気候が続いた夏も去り、実りの秋を迎えました。8月下旬からブラジル・サンパウロに出向きました。世界剣道選手権大会の一連の行事を済ませたあと、玉置 正ブラジル剣連前会長のご案内を受けて北上、赤道直下アマゾン地区を旅し、2週間ほど南半球に過ごして帰国しましたので、気候の変化をより身に染みて感じています。
さて3年ぶりの世界大会、苦杯を嘗めた前回の轍を踏まず、日本選手団は男女4種目とも制覇の結果を出してくれました。
初日の男子個人戦こそ思わぬ苦戦でしたが、堂々の試合ぶりで、日本の剣道の誇りを取り戻してくれたことは何よりと感じています。
さて世界大会の最終日、日本では4年振りの衆議院選挙がありました。結果はご承知のとおり、長く政権を保持してきた自民党の予想以上の惨敗、民主党の圧勝となりました。先月号で指摘しましたが、とかく当面のサービス合戦の様相が顕著だった選挙戦を終えて、新政権は長期的方策へ取り組みを忘れることなく、特に教育問題に、安心できる政策をとることを望みます。この選挙戦では何人かの剣道人議員が苦杯を喫せられました。再起されることを念じますが、新たな人材が加わって頂くことも望んでいます。
8月28日から3日間、ブラジル・サンパウロ市(正確には衛星都市のサンベルナルド市体育館)で開かれた世界剣道選手権大会には38国・地域から400名余の選手が参加して盛大に開かれました。前日の国際剣連総会で加盟が認められた中国・イスラエルも参加し活躍しました。まずは大会結果を見ます。
開会式のあとの試合は男子個人戦です。各国4名までの出場で、3名ずつ52組の予選リーグを行い、その勝者がトーナメント戦に進んで覇を競います。4ブロックでの勝者が準決勝戦に進みます。
予選の組み合わせの抽選では、有力選手が顔を合わせます。今回は第1試合場第10組で日本の寺本、米国の大将ヤン、韓国の金と有力選手が組合わされました。いきなりの実力者の顔合わせでしたが、さすがに寺本落ち着いて、両者を下し予選を通過しました。
ところが他の日本選手は振わず、中野貴裕が予選で、若生大輔、古澤庸臣がブロック決勝で韓国選手に敗れ、準決勝を韓国選手3名が占めるという、かつて無い苦戦となりましたのは、悪条件が有ったにせよ遺憾とするところでした。独り勝ち進んだ寺本は重圧の中、準決勝・決勝と韓国選手を下し、日本の連続優勝を守ったのは見事でした。
2日目の女子の試合は、日本勢が実力的には各国に差を付けており、その力を発揮すれば、心配は無いものと予想していました。個人戦では村山 千夏がやや不調で、韓国選手に疑問ある判定で敗れましたが、他の3選手は順調に勝ち進み、準決勝戦の3名を占めました。他の1名は地元ブラジルのタカシナ選手(日系人三世)が韓国選手を破って勝ち残り、満場の喝采を浴びました。決勝戦は日本選手同士の対戦となり、鷹見 由紀子が見事なメンを決め、庄島 幸恵を下し優勝しました。
団体戦はより順調に勝ち進み、決勝戦では韓国との対戦となりました。この結果4-1で韓国を下して日本が連続優勝しましたが、その試合ぶりには風格も感じられる余裕ある優勝でした。
今回は負けられない男子団体戦、選手も満を持しての出場、予選は難なく通過、トーナメントに入りました。イタリア・カナダを下して、準決勝戦で前回優勝の韓国戦に臨みます。先鋒正代 賢司、次鋒木和田 大起が積極的に戦って先制、優位に立ちます。中堅内村 良一不覚の離れ際のメンを許しましたが、副将高鍋 進、大将寺本、混戦でしたが優位に戦いつつ引き分けとなり、事実上の優勝戦である難敵を制しました。
決勝戦はブラジルを破った米国との対戦、この相手に前回予想外の敗戦を喫しています。この一戦に臨む選手の意気込みは高く、相手を寄せつけず中堅まで3者が勝って勝負を決め。副将引き分けのあと、寺本は個人戦予選で当たったヤンと再び対戦、メンとコテ2本を決めての貫禄勝ち、米国に1本も許さぬ立派な優勝を果たしました。
今回日本は4冠に戻りました。監督以下選手団の努力の成果を多としますが、お互い勝利を喜ぶのでなく、国際剣道での日本の役割を果たしたことに満足感を持つことにとどめて欲しいと思います。日本は強くあって、世界の剣道の先頭に立つべき責任と、各国からの期待もあり、今後もその内容の良否が問われます。韓国に勝ったといってもその差は紙一重です。今後一層の努力を要します。
さていつも問題となるのは審判です。国際剣連として審判能力向上には努力してきており、今回の松永 政美審判長も厳しく指導しました。全般的水準の向上は認められますが、今回も問題として残りました。一例として男子個人戦での古澤の敗北は、逆転となる判定ミスと見られますし、男子団体の準決勝で寺本は、勝機を見逃されています。今後も審判能力の向上と、審判員の評価に努力を要します。
大会運営については、主管のブラジル剣連の努力は成果があり、スムーズに進められました。また審判団も、日本からの参加者を含め立派に仕事をされました。多くの方の努力に支えられた立派な大会だったと思います。次回はイタリア北部のノヴァーラで開かれます。
大会前日の国際剣連理事会・総会でつぎの3年の役員が選出されました。会長、事務総長、欧州代表副会長の再任があり、副会長には、日本から松永 政美氏、米州ではカナダのロイ・アサ氏が退かれ、米国村上 一郎会長が、韓国は池 承龍氏が就任されました。理事では長く務められた英国ジョン・ハウェル氏が退かれ、代わってイタリア会長のモレッティ氏が就任、日本からは宮坂 昌之、真砂 威氏が留任、福本 修二氏が理事として残り、新たに豊島 正夫氏が入られました。
同じ総会で、大会開催地のブロック持ち回りを改め、16回大会からの立候補制が決まりました。6年後の第16回大会からの実施で、3年後の理事会・総会で決定されますが、今回は立候補の要件が採択されました。日本として開催に前向きに取り組む時期でないかと感じています。
9月12日の理事会で、一部役員の異動を行いました。世界大会審判長を務められた松永氏が、6月で退任された大久保 和政氏の後任として副会長に就任されました。また強化を担当してこられた井上 茂明氏が退かれ、浅野 修常任理事が強化担当理事となり、強化委員長も兼ねられます。
称号・段位委員会の委員長に審議員奥島 快男氏を煩わし、真砂 威常任理事は、剣道審査業務の主任として努力頂きます。
7月に決定した専門委員会の委員も、担当委員長のもとで纏められ、9月12日の理事会での決定を見ました。今期専門委員会は、委員の数を絞り、ややスリムにして機動的運営を図ります。
その他、秋の表彰の選考委員、その他の委員人事を決定しました。
懸案となっている新しい法人体制への移行問題の審議を、長期構想会議で行うことを、同じ日の理事会で決定しました。
この問題、単なる移行の検討なら事務的に済ますことが可能と思いますが、基本に立ち返り、法人としての全剣連の在り方についての検討、新しい時代への対応を含め、目的など寄付行為に盛り込むことの検討を行った上で、新法人として進むべきとの考え方に基づいたものです。
会議議長はすでに決定している加賀谷 誠一副会長が当たられ、審議の方法、メンバーなどは今後早急に決定します。
「敬老の日」を迎えますが、昨年に引き続き、この1年に90歳を迎えられた、剣道七段以上の受有の方に、全剣連として祝意を表し、ささやかな祝いの品をお送りします。
各剣連に照会して名簿の確定を進めていますが、範士3名を含め、80名の方にお贈りすることになりましょう。皆様健康に長寿を保たれることを念願します。
在仏40年の好村兼一剣道八段が、このたび広済堂創業60周年記念出版として、『伊藤一刀斎』上下二巻を上梓されました。合計900ページに及ぶ大作です。
帰国早々に頂戴して、目を通した程度ですが、『剣窓』の読者に、「剣豪による剣豪小説」を読んで頂くようお勧め致します。
会 長 武安 義光