アンチ・ドーピング委員会コラム_13

ドーピング違反の特殊性

去る5月29日から3日間の第16回世界剣道選手権大会は、日本の個人、団体戦全ての完全制覇で幕を閉じましたが、ドーピング検査は12名の選手について実施され、全員シロ、即ち陰性でした。しかし、全員が力戦奮闘し汗を出しきったため、検体である最低90ミリリットルの尿の採取に長時間を要し、終了したのは、2日目3日目共に午後9時頃だったとのことです。

他方、最近WADA(世界ドーピング防止機構)がドイツの通信社から得た情報によると、国際陸上競技連盟に属する5,000名の選手の血液検査の結果から陽性の疑いがもたれ、WADAの独立調査委員会により精査されることになったと報じられています。

従って剣道界は、世界のスポーツ界において例外的にクリーンな競技団体のようです。

刑事犯罪との差

1.故意も過失も同罪

例えば、全日本選手権大会等の出場選手が、試合の数日前から風邪気味だったため、知らずに「ルル」や「ベンザブロック」等の普通の風邪薬を飲んで出場し検査されると、ドーピング違反として負けになり、原則として2年間の資格停止になります(〝うっかりドーピング〟という...禁止医薬品の商品名は、日本学生陸上競技連合のホームページで見られます)。

しかし刑法では、故意犯と過失犯とは扱いが大きく異なります。例えば殺人罪は、故意犯であり、死刑又は無期、若しくは5年以上の懲役となりますが、過失致死罪は50万円以下の罰金になるに過ぎません。

2.捜査非協力

またドーピング検査を拒否したら、ドーピング違反と同罪になります(日本アンチ・ドーピング機構の防止規程2条3項)が、刑事法上では容疑者には黙秘権があり(憲法38条1項)、取調べを拒否しただけでは有罪判決を受けることはありません。

このように、ドーピング違反に対する制裁は、懲役等に処されない反面、違反の認定が概括的になされています。

アンチ・ドーピング委員会 委員 弁護士 片岡 義夫

この記事は、月刊「剣窓」2015年11月号の記事を再掲載しています。

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