平成27年11月9日、WADA(世界アンチドーピング機構)の第三者委員会が「ロシアの陸上選手の間で禁止薬物の使用が横行している」と報告し、ロシアが国ぐるみでドーピング違反を行っているのではないかという、スポーツ界では大変ショッキングなニュースが流れた。
モスクワ検査所の責任者がWADAの検査をすり抜けるため、選手の1400点以上の検体(尿・血液)を破棄し、その代わりにお金をもらっていたらしい。今回、2012年のロンドンオリンピックの陸上競技女子800メートル金・銅メダリストや1500メートル金メダリストらをはじめ、コーチを含む10名がドーピング違反で処分された。
違反を犯した選手は「ドーピングしない選択はなかった」「ドーピングが悪いと分かっていながらも、断ることさえ出来なかった」と語っていている。どのような理由があったとしても処分を受けるのは自分自身であり、ある意味、選手たちは犠牲者といえるかもしれない。しかし、結果を出すために一生懸命、正々堂々と練習に取りくんでいる選手たちのことを思うと、怒りさえ覚え、大変残念としか言いようのない出来事である。
国ぐるみのドーピング問題はロシアだけではないとも言われている。WADAは「ロシアは氷山の一角でケニアや他の国にも深刻な問題がある」と指摘している。今後、スポーツ界でのドーピング検査は更に厳しくなっていくと考えられる。
2020年東京オリンピックを控えている日本では、ドーピング検査数を増やし、選手やコーチに対するアンチ・ドーピング教育・啓発活動が強化されることは必至である。オリンピック競技に限らず、WADAに加盟している剣道連盟においてもドーピング検査数を増やすことを勧められる可能性がある。
これまで剣道からドーピング陽性者は出ていない。これからも、うっかりドーピングも含めてドーピング違反ゼロであり続けられるように、当委員会は、アンチ・ドーピングについての情報を提供し啓発していきたい。
アンチ・ドーピング委員会 委員 門野 由紀子
* この記事は、月刊「剣窓」2016年02月号の記事を再掲載しています。