AEDを含む一次救命処置(小児、成人対象)

1 市民が行うBLSアルゴリズム(小児、成人、図参照)

BLS:一次救命処置 Basic Life Support
CPR:心肺蘇生 Cardio Pulmonary Resuscitation
AED:自動体外式除細動器 Automated External Defibrillator
ECG:心電図 Electrocardiogram

市民が行うBLSアルゴリズム(小児、成人、図参照)

2 ポイント

1)実施者は貴方です。貴方は常日頃一次救命処置、心肺蘇生を行っていない人だと想定して、説明をしています。
 でも貴方が実施しないと、目の前の心肺停止者(傷病者)は必ず死亡します。勇気を持って実施してください。
2)対象・小児(概ね1歳から8歳)および成人(8歳以上)
3)小児で成人と異なるのは、
 ・救命処置初動(救助者が一人の場合、連絡が先か胸骨圧迫が先か)
 ・胸骨圧迫の方法(両腕、片腕)と深さ(5cmか胸壁の1/3か)
 ・AEDパッドの選択、の3点のみ。内容は文中で説明。
4)この内容は日本救急医療財団から発表された2015年ガイドラインのうち医療に関係していない、日頃から救命処置を行っていない市民に行ってほしい一次救命処置の内容に準拠し、アルゴリズムに従って記載しています。しかし、剣道を日常的に大人を含め子供たちに指導している体育指導者は医療従事者に準じた蘇生法の習得が要望されています。特に子供たちに対しては人工呼吸を含む蘇生法が推薦されていますので、是非講習を受けて人工呼吸もできるようになっていただきたいと思います。

3 一次救命処置、心肺蘇生の実施

①傷病者の発生、発見→安全確認

  • 誰か倒れている(倒れた)
  • 周りの安全確認(周囲の稽古をやめてもらう、試合中の場合は他の試合も中断してもらう)

  ↓

②意識はあるか(図A)→反応なし

  • 仰臥位(上向き)にする
  • 軽く肩をたたきながら、大きな声で呼びかける → 応答、目的のある動作無し → 意識無しと判断

図A 意識状態の観察と判断

  ↓

③応援要請:大きな声で、手を挙げて呼びかけ

誰か来て、皆さん手伝って

  • はじめに発見した人が主たる救助者となり全体を指揮
  • 自分より救命処置になれている人がいたら替わってもらう
  • それまではあなたががんばる

a.応援が2人以上の場合
 ・貴方は119番へ連絡して、
 ・貴方はAEDをもってきて(それぞれ別の人に指示、依頼)
 ・自分はすぐに呼吸確認、胸骨圧迫

b.応援が1人の場合
 ・119番へ連絡して、それからAEDをもってきてください
 ・自分はすぐに呼吸確認、胸骨圧迫

c.応援がいない、あなた一人だけ、年齢により異なる
 c-1:対象が概ね8歳以上
  ・まず119コール、
  ・次に近くにAEDがあるとわかっていればとりにいく
  ・AED使用し、すぐに胸骨圧迫開始
 c-2:対象が概ね1歳以上8歳未満
  ・呼吸停止確認後、
  ・2分間(5セット)心肺蘇生(1セット=胸骨圧迫30回+人工呼吸2回)を行った後、
  ・119コールし、AEDをとりに行く

  ↓

④呼吸をみる

  ↓

普段どおりの呼吸は?胸とお腹に注目(図B)

a.普段どおりの呼吸、正常な、規則的な呼吸をしているか、胸とお腹が普通に呼吸するように動いているか
b.死戦期呼吸(所謂あえぎ呼吸、心臓が止まっている時に見られる)は普段どおりの呼吸とは考えない
c.息をしているかどうかは10秒以内に判断する
d.呼吸があれば回復体位(図C)として救急隊を待つ。呼吸観察継続

図B 呼吸の確認 - 図C 回復体位

  ↓

⑤呼吸無しまたは死戦期呼吸→心肺停止を考え、胸骨圧迫をすぐに開始

呼吸の状態がわからないときも胸骨圧迫を開始する
a.場所:胸骨の下半分、おおよそ胸の真ん中(図D)
b.程度:強く、成人では少なくとも5cm、6㎝以上にならないようにする。小児では胸郭(胸の厚さ)の1/3程度押し下げるように圧迫
c.両腕をまっすぐに伸ばし、
 ・片手の手掌基部(手のひら付け根)を胸骨の下半分(胸の真ん中)におき、
 ・図Eのように真上から真下に、
 ・押し込むように圧迫
 ・小児では片腕でもよい
d.圧迫後は胸がもとの高さに戻るように緩める。この時手の位置がずれたり、次の圧迫が不十分にならないよう注意する
e.100〜120回/分程度のテンポで圧迫
 遅くならないように注意
f.30回胸骨圧迫後人工呼吸を行う

図D 胸骨圧迫の位置 - 図E 胸骨圧迫の姿勢

  ↓

⑥人工呼吸(呼気吹き込み)実施

・技術を持っており、実施の意思があれば人工呼吸を行う
a.図Fの形に気道確保
b.口口呼吸実施(他の方法ができればそれでもよい)
 ・額に置いている手の親指人差し指で傷病者の鼻孔をつまみ、額を後ろに回転するようにしながら、もう一方の手(指先)で顎先を軽く持ち上げるようにする
 ・救助者の口で傷病者の口を完全にふさぎ、
 ・軽く傷病者の胸がふくらむ程度に息を約1秒間吹き込む(図G)
 ・2回実施後すぐに胸骨圧迫に戻る
註 この実技に自信がない、心理的に実施がためらわれる場合には人口呼吸を省略してもかまわない。強く絶え間なく胸骨圧迫することと次に述べるAED使用が市民が行う一次救命処置において重要。
註 小児においては人工呼吸は重要な場合が多く可能な限り実施を試みてほしい

図E 頭部後屈+顎先挙上(気道確保) - 図G 口〜口呼吸法を2回

  ↓

胸骨圧迫再開

a.人工呼吸2回実施後すぐに胸骨圧迫を再開する
b.その後は胸骨圧迫30回:人工呼吸2回の比率で継続する(図H)
c.この比率は救助者が1名でも、2名以上でも同じ
d.胸骨圧迫のみを継続し、人工呼吸を省略しても構わない
 胸骨圧迫継続が重要
e.救急隊が到着するか、
 傷病者が目的にある動きをはじめるか、
 呼吸を始めるまで継続

図H 胸骨圧迫Aと人工呼吸B

⑦AED実施

・AED使用は便宜上この部分に記載するが、実際の場面ではすべてに優先してAEDを使用
・AEDが到着し、準備できたらすぐに使用。パッドを貼るなどの時間帯は胸骨圧迫を継続、AEDは電源を入れれば器械が操作を指示するタイプがほとんど。安全に使用できる
 AED使用に際し必要な物品:AED本体、パッド+ケーブル あった方がいいもの:タオル(濡れているところ拭く)、はさみやかみそり(衣服切断や密着した胸毛をとる)

1)言葉の説明

AED=automated external defibrillator、自動体外式除細動器
自動:電源を入れれば、音声ガイドと本体点滅ランプで指示します。
 除細動が必要な場合は充電も器械が自動で行います。電流設定不要です。
体外式:体の外にパッド(電極)を(救助者が)装着、電流が体の外から放電されることを意味しています。
除細動器:電気を心臓に流し、有害な脈の不整を止め、正常のリズムに戻す器械を意味します。

2)使用手順

a.AED到着
b.カバー(ふた)をあけると自動的に電源が入る。音声ガイドに従って行動
 ・電源は緑ボタンで示されている
 ・操作をする者が電源を入れるタイプもある
c.AEDが「パッドを貼り付け、ケーブルを差し込んでください」と指示
d.パッド装着、装着部分はパッドに図示されている(図I、J)
 ・小児には小児用を使用
 ・小児用がなければ成人用を使用してもよい
 ・小児に大人用を使用する際パッドが大きすぎて、パッド同士がくっつきそうな場合は、右上胸部に貼るパッドを右上背部に装着してもよい。小児用を大人に使用してはいけない
 ・体に密着するようにしっかりと押しつける
 ・体の表面がぬれていれば乾いたタオルなどで拭く
 ・体に磁気テープや金属などがついている場合は取り外す
 ・胸毛が密生している場合は取り除く
  (パッドが密着するようであれば問題となることは少ない)
 ・パッド付随のケーブル端子をAEDの点滅している差し込み場所に挿入する(図K)

図I、図J、図K

e.AEDが「心電図を解析します。傷病者から離れてください」と指示
 ・みなさん(傷病者から)離れてくださいと指示(図L)
 ・胸骨圧迫も中断

図L

f.除細動が必要な場合
 ・「除細動が必要です、充電中です」「充電が終了しました、ショックボタンを押してください」とAEDから指示がある
 ・傷病者から皆離れていることを再度確認。あなた安全、私も安全、みんな安全(安全確認)
 ・ランプが点滅しているボタンをおす(図M)
 ・通電、除細動、傷病者の体が一瞬硬直する
 ・すぐに胸骨圧迫を再開する
 ・AEDパッドは装着したまま
 ・電気ショックを実施2分後にAEDが再度心電図解析を開始し、前回同様に指示するのでそれに従う

図M

g.除細動が必要ない場合
 ・「除細動は不要です(必要ありません)」「呼吸、循環を確認して必要ならば心肺蘇生をおこなってください」と指示がある
 ・動き出しているか、普段どおりの呼吸をしていなれけばただちに胸骨圧迫を再開する

⑧AEDを含め心肺蘇生は傷病者が動き出すか、普段どおりの呼吸を開始するまで、もしくは救急隊や医師、看護師が到着して交代するまで継続する。特に胸骨圧迫は強く、早く、絶え間なく、これのみでもよいので継続する。

註:一次救命処置は人を守るために絶対必要な手技です。ためらわず実施しましょう。そのためにぜひ講習会に参加してください。講習会についてはお近くの消防署に問い合わせてください。

野見山 すすむ(独立行政法人 国立病院機構静岡医療センター名誉院長)

剣道医学救急ハンドブック第三版(2014/10発行)の当項目を最新の情報に修正をしました。
 冊子は次刷にて修正・掲載予定です。

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