本来剣道は格闘技ですが、竹刀・剣道具を使用するため、身体を接触することが少なく、他のスポーツより外傷の機会は少ないと考えられています。しかし、下記のようなことで傷害が起こると考えられます。
スポーツ競技の中で剣道による外傷の頻度は、1.6%と他のスポーツに比較すれば低いと言えます(国際スポーツ会議における全国大学付属病院と大病院73の整形外科の報告、児玉ら、1964年)。
剣道における外傷、障害で特に多いものは、アキレス腱断裂(10.4%)と腰痛(10.0%)です。
四肢の関節挫傷・捻挫の頻度では、肘(7.9%)、肩(5.8%)、膝(5.8%)、足(5%)、手(4.8%)、指(4.4%)の順になります。
胸部・腹部・背部挫傷はあわせて6%で、頸部捻挫が4.6%、腰部挫傷・捻挫が4.4%です。
骨折の頻度は肋骨・胸骨が4.2%ですが、他の骨折部位は0.2%から0.6%です。部位としては頭部・顔面、足根骨、鎖骨、肩甲骨、手の骨、下腿骨、膝蓋骨、胸椎・腰椎骨などです。
これら以外に頻度は少ないのですが脳、脊髄・末梢神経などの傷害もおこる可能性があり、救急に対応を必要とし治療を要することもあります。転倒や頭部への打突により起こる脳震盪、硬膜下血腫、突きによる頸髄の傷害、反復する動作による尺骨神経麻痺、頸椎や腰椎の変形性脊椎症、腰椎の分離症、滑り症などによる脊髄障害などがあげられます。
環境のことも重要で、夏暑く湿度の高い環境でおきる脱水症、熱中症も注意しなければなりません。
また普段の健康管理をついつい怠ってしまい、あるいは無理をして心不全、脳血管障害を招き、突然死をおこすこともあります。
剣道に特有の外傷、障害や一般のスポーツにおいても起こりうる傷害がいつ道場で稽古中、試合中におきるかもしれません。また生涯剣道と言われる中で関節や筋肉・靭帯が成長期で完成していない小中高生の段階でおこりやすい傷害もあります。これらについては予防・管理できるものも多くあるので、よく知り常に自らあるいはお互いに整備、準備、注意、指導する必要があります。
万が一起こったときには、それにいち早く正しい対応ができるように、平素から心がけるようにすることが本人あるいは指導者に求められることと思われます。
佐々木 健(ささき整形リハビリテーションクリニック院長)
「剣道医学救急ハンドブック(2014/10発行)」より抜粋