急に意識がおかしくなった、どうしよう

意識障害とは?

 剣道では後方転倒による頭部外傷後の脳震盪(頭を強く打った、脳しんとう? 頸髄は?を参照)などで生じますが、その他の内因性の原因でも生じます。突然の意識障害の原因は多岐に渡るので救急医でもとっさの判断に役立つよう「AIUEO Tips あいうえおヒント」などとまとめています(表1)。

表1 突然の意識障害をきたす病態 "AIUEOTIPS(アイウエオチップス)"

Alcohol アルコール 急性アルコール中毒、
アルコール依存症など
Insulin インスリン 糖尿病性昏睡(DKA、低血糖など)
Uremia 尿毒症 代謝性疾患(尿毒症、肝性脳症など)
Electrocardiography,
Endocrinology,
Encephalopathy
心電図
内分泌学的異常
脳症
Adams-Stokes発作など
アジソン病、甲状腺クリーゼなど
高血圧性脳症など
Oxygen,
Opiate
酵素
麻酔
低酸素症、CO2ナルコーシスなど
麻薬中毒など
Trauma 外傷 頭部外傷など
Infection 感染症 脳炎、髄膜炎など
Psychiatry,
Poisoning
精神疾患
中毒
せん妄、心因反応など
各種中毒
Shock,
Sepsis
ショック
敗血症
各種ショック
敗血症

(日本医大救命センター横田裕行教授ら)

 意識を保つには脳の血流が必要で、その脳の血流を保つには心臓のポンプ力が不可欠なので、大まかには脳に問題か、心臓に問題か、その他の問題かと分けて考えます。いずれの場合でも、障害の程度の把握には、呼びかけや痛み刺激による反応の程度を確かめることは共通です。

 手当の順序としては、まず

  1. 周囲の安全の確保(試合や稽古の中止、路上では周辺の交通状況や危険物などを回避)
  2. 頭部顔面や他の部位、稽古着や袴など隠れている部位からの出血の有無などをすばやく確認(あれば直ちに清潔なハンカチやタオルによる圧迫止血をしないと出血性ショックに陥り命を落とします。)
  3. 呼びかけや肩、前胸部をたたくなどの刺激による反応をみる、

という流れになります。

Ⅰ 外傷もなく、耳元での呼びかけ(最低3回)や肩、胸などをたたいた後でも何の応答もなく、普通の呼吸をしていないとき → ただちに一次救命処置(AEDを含む一次救命処置(小児、成人対象)を参照)を開始します。
 周囲の人と協力して救急車要請、AED準備、胸骨圧迫の体制を作りあげます。特にAEDは心電図検査も兼ねていて、間違って高圧電流が流れることは決してありませんので十分に活用してください。胸骨圧迫は 速く、強く、絶え間なくが原則です。

Ⅱ うめき声をあげたり、苦しさを訴えるようなことばがでるとき、呼吸の状態がほぼ普段通りと確認できれば胸骨圧迫のような救命処置は必要ありません。このような場合の多くは脳循環に問題をひきおこす脳卒中(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)が疑われます。脳の血管が閉塞しつつあるときには、頭痛は目立たず、手に力が入りづらい、大きないびきをかく、言葉がもつれる、手足の感覚が右と左で異なる(左右逆)、などの普段とは明らかに異なる症状の出現が決め手になります。また、今までに経験したことのないような激しい頭痛があり、嘔吐するような場合では、脳内出血、くも膜下出血が疑われます。いずれの場合も専門的集中治療、場合によっては緊急手術(開頭術、血管内カテーテル塞栓術)が必要となりますので躊躇せずに救急車を要請してください。比較的意識のしっかりして応答もできるようなときには、吐物が気道をふさぐことがないよう、やや頭を高めに保ったセミファーラー体位(図1)をとります。呼びかけをやめれば眠りこんでしまうような重度な意識障害では、救急車が到着するまでにやっておくことは、頭を大きく動かさずに寝かせ、着衣をゆるめて呼吸をしやすい状態にすること、入れ歯やめがねは外して保管、吐いたものが気道をふさぐことないよう顔を横向けにした楽な体位をとらせ(昏睡体位 図2)、その後の診療が円滑に進められるよう人定項目(住所、氏名、生年月日、既往症、日頃の内服薬など)情報を集めるか、その患者さんをよく知る友人や家族が病院まで付き添っていただくことが大切です。また、体温が下がらぬよう、コートか大きめのバスタオルをかけてあげる、人目を遮断してあげるという心配りも患者さんにしてみればありがたいものでしょう。現在、脳梗塞では、脳CTで判然としない脳梗塞をいち早く脳MRI(核磁気共鳴像)検査で鋭敏に描出することができ(図3)、詰まりかけている血管を溶かす薬剤を用いることにより社会復帰率が高まっています。

セミファーラー体位(介護レンタコムから)

昏睡体位(日本財団図書館より)

脳CTとMRI

朝日 茂樹 (日本体育大学保健医療学部救急医療学科長教授)

参 考
1)国立循環器病研究センターHP
2)循環器病情報サービスから 脳について
  http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/brain

剣道医学救急ハンドブック(2014/10発行)」より抜粋

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