9月に入って、新しい顔触れによる称号・段位委員会を発足、また12月からお願いした、審議員を含めた作業部会の締めくくりの会合を開催、作業経過を報告すると共に、助言を戴きました。予定通り9月25日の審議会、相談役会にも報告、理事会に付議して執行部案を固める方向で作業を進めています。
さて今回の作業は、審査の基準と、称号審査の手続きの具体化を中心として細則、実施要領を定め、来年4月からの規則施行を支障無く進めることが眼目ですが、手付かずの部分も残されています。
まず居合道、杖道については、骨格は新規則によることになりますが、その特殊性に応じた内容を盛り込んだ、細則、実施要領を策定し、来年4月に間に合わせる必要があります。
次に剣道形の審査の実態を見ると、審査会場、審査員の間の評価のバラツキがしばしば起こっています。その対応には審査に際しての打ち合わせ、審査員講習で解決する問題かもしれませんが、今後踏み込んで審議を要する問題と感じます。
全く手をつけられなかったのが学科審査です。そもそも何のために行うのか、何を見ようとするのかなどの議論はこれまで行われず、ひたすら慣例で行われてきました。厳しく言うならば、現行審査の弱点でもあり、許すべからざる点と言えます。次の段階での対応が必要です。
以上のほかの実務面では、錬士、教士の受審に、それぞれ六段、七段を取得してから1年、2年の期間を置くことになるのに伴い、来年5月の錬士、教士の審査は見送って、秋からの実施にする案が有力です。
開催地を名古屋に移して5年目、皇后盃を戴いて3年目、女子剣道充実の趨勢も反映して、9月12日に開催された第38回全日本女子剣道選手権大会は、新鋭の台頭も見え、なかなか見応えのある内容の大会でした。
前2年連続優勝の大塚選手が、新鋭坪田選手に、開会直後の一回戦で敗退するなど、波乱はありましたが、実績ある選手が勝ち残り、接戦の末、東京・朝比奈選手が長身を生かして面の威力を発揮、見事初優勝を飾り、栄えある皇后盃を獲得しました。朝比奈選手の群を抜いた長身振りを写真でご覧下さい。
秋は大会シーズン、特に各種の会社、企業の大会が次々と行われます。全剣連が後援する全国規模のものでも全日本実業団の大会のほか、全国郵政大会、陸・海・空運親善大会、NTTグループ全国大会など目白押しです。
このうち9月19日の東京武道館でのNTT大会を拝見することができました。7月の再編成を経た関係会社の支社などからの、25の組織の代表が参加、男女の団体戦、段位別の個人戦を行い、活発で立派な対戦が展開されました。
社会人の多くを占める企業の剣道が盛んになることは、最も望ましいことですが、一般には仕事と剣道の両立が難しく実力の維持、向上が思うに任せない実態があります。しかし剣道は短時間の活用で練習が出来ること、高年齢まで実力を高められるなど一般のスポーツに勝る利点があります。剣道の修行は、体力、気力の充実のほか、徳操を高め企業内での人間関係の改善に資するなど、剣道の長所を剣道人が企業内で実証する努力をし、実績をもとに企業内の剣道の発展に努めていただきたいと思います。
社会人の剣道は強くなってほしいのですが、剣道修業の成果が、個人の充実を通じて、企業に還元できる状態での発展でなければなりません。この意味での制約があるのは止むを得ません。
大会においては、近年目立つ勝負に拘泥しすぎる傾向は見直さなければなりません。そして若いときだけの剣道でなく、一生できる剣道を奨励したいものです。NTT大会では取り入れられていますが、他の大会にもできるだけ年齢の高い者の出番をもっと作り、年配者剣道の普及を図ることも望まれます。
平成7年10月に東京・調布市のNTT研修センターで第1回の講習会を実施、108名が初級の認定を受けた剣道社会体育指導員養成講習会から、早いもので4年が経ちました。その間各地で通算22回の講習を実施、資格の認定を得た人は2千人を超えました。
この制度では資格の有効期間は4年で、講習を受けての資格の更新が必要です。初めての更新講習会は、9月12日に東京、西葛西の江戸川区スポーツセンターで開催されました。4年前の第1回講習会に参加、資格を得られた方45名の他、以前の日体協での資格を持った方も加わって70名の参加でした。
厳しい残暑の中、冷房のない体育館で剣道形、審判実技の他、講話、締めくくりの稽古にと、充実した日程を終えました。今回参加の方は、制度が始まって率先、資格を取られたパイオニアであり、この制度の滑り出しに貢献された方々でもあります。皆さんのご健勝と、今後とも役割を果たして戴くことを望んでいます。
更新講習会は、年明けの2月、大阪市でも開催しますが、今後年2回程度実施していく予定です。
さて講習会用のテキストもようやく完成しており、一級上の中級取得の講習会も来年度から始まります。講習事業も第二段階に進みます。
一方初級を対象とした第24回講習会は、9月17日から3日間、新潟市から南西約30キロ、原発立地で話題を呼んでいる巻町の県立青少年研修センターで開催、都会地を離れた地域としては大盛会の137人が参加されました。大部分が地元新潟県からの参加で、県剣連のご努力が窺われました。人跡稀といってもよい丘の上の、恵まれた環境の中で、充実した日程を終えることができました。
月1日付で前警察庁長官國松孝次さんが、スイス大使に就任され、10月上旬に赴任されます。退官後体調も回復され、全剣連審議員として称号・段位制度の審議に参画して戴き、亡くなられた土田審議員とともに、称号重視の新体系造りに役割を果たして戴きました。
新しい任地は、外交の花形ポストとは言えないのかも知れませんが、外交官以外からの任用が例外である現在、ご就任にまずはお慶び申し上げます。ご自愛の上、職責を果され、日本の外交に新風を吹き込むことをお願い致します。
任地が海外であり、審議員を続けて戴くのは難しいかと思いますが、新たな経験を積まれ、帰国される何年かあと、剣道の発展のため再びご尽力戴ける日が来ることを期待しております。
ここ何ヶ月か続いた訃報は、残念ながら終わりを告げません。去る8月20日には佐伯太郎範士が、9月16日には佐藤毅範士が逝去されました。お2人とも戦前に郷里の中学校から京都の武道専門学校に進まれ、卒業後教職に就かれましたが、若手剣士として戦前活躍しておられます。
剣道の存続が危ぶまれた戦後の混乱期を経て、地域は異なってもお2人は剣士として、また指導者として剣道の伝統の維持と発展に尽くされた方です。全剣連においては共に審議員、相談役として剣道界の発展にご尽力戴きました。
佐伯さんは福岡県剣連の理事長として、運営にも当たられましたが、全国的規模になった玉竜旗大会の運営に長年にわたり関与され、その発展に貢献されました。
佐藤さんは戦後郷里の新潟県新発田市において教職に従事されましたが、地元を中心として剣道指導者として、多くの人を育てられましたし、地元で慕われた存在でした。両範士のご冥福を祈ります。