新年を迎えた全剣連、一般社会より少し遅れての9日スタートですが、例年どおり早速来年度事業計画と予算作成に取り組みます。各委員会も動きだし、24日には常任理事会を持ち、構想について意見交換、調整も進め、2月の剣道研究会、剣連専務理事・理事長会議、3月に開催の審議会などにも図り、最善の案に仕上げて行きます。しかし本年度事業も残されています。
社会体育指導者養成講習会(初級)が1月26日から勝浦で、2月には男子女子合同の強化訓練、さらに3月には審判講師要員の第2回講習会(勝浦)、社会体育指導員(中級、初級更新)講習会が大阪で組まれ、何年か前なら農閑期といえたこの時期に、関係役員・事務局、講師など矢継ぎ早に業務に当たります。これらの講習事業は、業務量の増加になっていますが、終了後に講習を受けた方々の「参加して良かった」という言葉を励みに、講師以下が努力しており、剣道界の発展に繋がるものと評価しております。
来年度の計画に間に合わせたい新しい仕事として、初級者用剣道基本形の作成があります。現在小委員会で仕上げを急いでいます。同じ普及関係では、懸案の指導法の指導方針と教科内容の問題があります。これまで全剣連の定める講習要領で、基本事項の習得、強化などに重点が置かれ、初級者の指導の方法、励みの与え方など、効果をあげていくための視点が、十分でなかった憾があります。これらへの対応を、剣道研究会で論議して貰いたいと思っています。諸問題の検討を十分に行うため、出席者は、討議を効果的に行えるるよう、適任の方を中心に人数を絞るなどの配慮を加えています。一方例年の新年度4月草々からはじまる講習会、5月の演武大会や審査会の要項、審査員選定の準備にも早急に取り組んでいます。
西暦2000年への台代わりにおける、昨年の社会的関心に比べ、今回の世紀切り替わりは静かに経過した印象です。去年の騒ぎは1000年紀への感懐より、コンピューターの誤作動の問題など、生活への影響が心配されたことで加速されたのでしょう。昨年中止になった地元の市での越年稽古も、世紀を跨ぐ行事として今年無事に行われ何よりでした。
さて100年という年代は、現実に振り返り得る年代で、剣道の場合も京都の武徳殿ができた頃、演武大会もはじまった時期で、現代に繋がり得る時間です。予測し難いのはこれからの100年で、将来に思いを致すため、正月年頭に各新聞が掲げた社説や主張の論調を振り返り一覧します。
まず新しい世紀に当たり、過ぎ去った世紀を振り返り、その土台に立つ主張があります。
「前世紀の記憶を語り継ごう」(読売)は、前世紀の後半日本が成し遂げた繁栄から、日常生活において利便と繁栄を手に入れた反面、社会、文化面での衰退、家庭生活の荒廃など、人間の心にあるべきものが見失われている現状を憂い、これを正して、凛とした姿勢で新世紀に進むべきことを説きます。
「産経」は千年紀というさらに長期の視点で振り返り、人類の繁栄を支えた背骨が、欧州でのキリスト教の精神に対し、日本の千年を支えた背骨が、新渡戸稲造のいう武士道の精神であったとします。そこで挙げられた7つの徳目、義・勇・仁・礼・誠・名誉・忠義が今後とも貴い価値を持つものであると強調します。そして外には先進国と途上国の格差の是正に努め、内では「欲望社会」から、崇高な精神の復活を通じて「名誉国家」への方途を探るべきと述べます。さて現実の沈滞した日本の経済、社会の状況からの脱却を目指す進み方を説く展開もあります。
「向かい風を生かそう」(東京),体力、知力をもって上手に逆境を克服すること、また「悲観主義から決別せよ」(日経)、人材の能力を延ばして、フロンティアへの挑戦を主張します。
また今後の発展を可能にする発想を生み、運営を改善するため、(毎日)は「縦の秩序から横の秩序へ」の変革を説きます。
(朝 日)は深まる世界の相互依存の時代になった、これからの「グローバリゼーション」(全球化)の社会の生き方を説きますが、日本の一部に見られる社会の偏狭な伝統回帰の考えは危ういと警鐘を鳴らし、さらに適応力に乏しい日本の政治の奮起を促しています。
さて剣道界としては、これらの主張は承っていてよいのですが、一言付け加えます。まずいくつかの新聞に共通する、この不透明の時代に対して積極的な姿勢で立ち向かうこと、とくに物より心の充実を唱えているのは、まさに全剣連が指向して居るところです。
この中で「産経」が、特に踏み込んで、武士道の徳目を掲げているのは、智、仁、勇を三色で象った剣道人バッジを制定している、全剣連として共感を覚える所です。「朝日」の「偏狭な伝統への回帰」を戒めている点は、この新聞らしい意見ですが、そこでの対象とは若干異なりますが剣道も戦時中一部での意識過剰、行き過ぎた武道優越の意識支配の歴史を持っており参考とすべき点があります。
つまり戦後の剣道は占領政策による弾圧の旗頭となったことは事実ですが、一方国民からの支持も失っていたのではないか。その結果が撓競技などに代表され、剣道は純粋スポーツであると唱えて、やっと再発足できた苦い歴史を想起すべきです。その後遺症の是正を要する点もありますが、世の中のこのような意見も念頭に置いておくべきです。
また「縦の秩序から横の秩序へ」を説く「毎日」の提言は、上意下達、先例尊重、年功序列優先などの気風が強い剣道界としては留意すべきで、過去を上回る発展、若い世代の人々の参加と吸引を図るためにも重要なことです。
さて幸い剣道を取り巻く環境は、現下の経済事情ほどの逆風の中にあるとは言えないでしょう。しかし先月年頭の言葉で取り上げた航空機の離陸は、逆風に向かいさらにこれを上回るパワーを用意して行います。今後剣道界の充実を図るとともに、人々の心を鍛え、気力を養って、難局に立つ日本の経済と社会の健全化、立ち直りを、剣道の活動を通じて果たすのが、お互いの責任と感じます。
先にお知らせしたように、全剣連の行う六段以上の審査における学科試験の扱いの、結論を急いでおり、すでに委員会では煮詰まっております。問題点と、改定に対する視点は、1年前の昨年2月号の「まど」に私の見解として記載しており、これに尽きるので改めて繰り返しません。剣技の力量を表す段位所持者に、ある程度の知的素養を期待するのは当然であり、それを検証する学科試験の必要性を全く否定しませんが、全剣連の行う審査の現実は、受審者に苦痛を与えるだけで、実効が上がっていないと見ています。また改善のための有効な手段を取ることは、どう見ても困難という現実を直視します。一方11月にはじめて行った教士のきちんとした学科試験の実績を見ると、知識についての検証は、称号の審査に譲り、名目的となっている六、七段の学科審査は省くのが適当であろうと考えています。この方針で提案を行い、所定の審議を経て、規則も改め来年度から実施に移したいと考えています。
なお加盟団体に委託している五段以下の学科試験は、教育的観点から、引き続き実施することにし、各剣連の創意による効果を期待すべく考えております。なおこのための基準は検討します。
称号・段位審査規則には、称号・段位の保有者がこれを辱めるような非行があった場合に、会長がその返上を命じ、あるいは剥奪するようその手続きが、第20条に定められております。しかしそれ以外の場合、とくに自発的に返納したいという申し出への対応は、規則化されておりません。改定審議に際して議論も出ましたが、その事実が出た時に処理すればよいとしました。その後の検討で、申し出に応じ特別の事情のない場合は受理し、全剣連は当該称号・段位の抹殺の手続きを取り、本人に証書を返還し、その旨を「剣窓」に発表することにしました。この処理は遅れていましたが、有力者の申し出による返納を受理し、全剣連として処理した方を今月号に発表しました。
去る11月の称号審査の学科試験問題を発表、本号に掲載しました。剣道形などの俗称穴空き式の問題については、出題箇所のみの公表にします。
毎年成人の日に行われる武道協議会表彰に当たり、全剣連からの推薦に基づき個人功労者に相談役西 善延氏、功労団体として日光東照宮が表彰をされました。