去る11月2、3日に亙って行われた、50周年行事のハイライトというべき、記念剣道大会が盛況、充実した内容で展開、多くの人に興味と感銘を与えて終えることができ、一安心しました。
この記念大会計画の狙ったところは以下のようになります。まず選手権大会は、全剣連発足以来、若手剣道人に栄冠を目指す精進の目標を提供し励みを与えること、また愛好者に見て貰う行事として定着し、毎年実効を挙げてきました。しかし生涯修業を掲げる剣道には、さらに質の高い剣道の勝負があるはずで、それを選抜剣道八段優勝大会で具現することにし、全剣連主催としては30年ぶりに取り上げました。
2つの大会に加えて、さらに幅広い各層の剣道人による立ち会い、剣道の原点というべき形、さらに居合道、杖道を加えた演武をおこなうことにより、苦難の時期から50年を経て到達した剣道の現状を両日にわたって披露し、一般の剣道への認識と理解を深めたいと、記念大会として計画しました。
選手権大会の内容は例年とおりですが、一、二回戦を初日に行い、残った16人が2日目に覇を競いました。
選抜剣道八段優勝大会は、選考委員会において50才から60才の剣士24名が選ばれ、3人1組の予選リーグの勝者8人で2日目に決戦を行うことにしました。この試合は優勝大会とはいっても、単に優勝者を決めるだけでなく、そこにいたる経過が大事ですから、予選リーグを取り入れ、大会にも2日を使い、体力勝負に陥らぬことを期待しました。2日がかりにした点は、選手権大会も同様で、その効果は試合内容に反映したと感じています。
さて剣道選手権大会は安藤戒牛選手(愛知)が、見事初優勝を果たしました。宮崎正裕に続く2人目の連覇の直前まで進んだ岩佐英範選手(東京)の試合ぶりは、健闘と評されて然るべきものでした。初出場者がこれまで最多の25名、四、五段の者が3分の2を占めることなどは、時代の流れを感じさせます。この中、これまで出場回数を重ねてきた、古豪の剣士の活躍も目立ち、しばしば行われる新鋭との激突は見応えがありました。これまで宮崎正裕選手を頂点として展開されてきたこの大会が、どのように繰り広げられていくか、期待と興味を抱かせられた2日間でした。
苦言を一つ。試合前の竹刀検査で、先の太さ、重量などで基準に満たないものが相当数ありました。日本を代表する選手らしくないの一語に尽きます。
選抜八段大会の各試合は、おおむね期待されたものを出しきった高度の内容が展開されました。選手の中にはかつて全日本選手権大会を制した者が何人もおりましたが、その中の1人、22年前に天皇杯を受けた末野栄二八段(鹿児島県)が優勝、今次大会に全剣連が用意した優勝刀を授与されました。
試合以外では、劈頭を飾る日本剣道形の他、小野派一刀流、杖道、居合道のレベルの高い演武が披露されました。
さらに初公開の少年剣道指導の実演として、木更津市百錬館道場の小学生、中学生、高校生による、「木刀による剣道基本技稽古法」は注目を集めました。これは全剣連専門委員会が、初級者指導用として数年にわたり研究し、開発したきたいわば新製品です。今後各方面に普及することを願っています。
また別に行われた、外国人を含むいろいろの階層の方の試合は、剣道の深み、広がりを訴えるものでした。その中で観客にとって特に印象深かったのは、初めの高校生の立ち合いと、公開演武最後の模範稽古だったと思います。80才の谷口安則範士に掛かった、3人の実力剣士による稽古は、剣道の厳しさと、奥の深さを見る者全員に知らしめたものでした。
さてこの大会、終って見て良かったと思うのは、試合者、演武者、それに大勢の見る人々を含めた会場に一体感が感じられたことです。これは出場の剣士各位のご努力、大会の準備や運営に当たられた方々のご尽力、また例年を上回った観客の整然たるマナーでの観戦態度などのお陰と思います。
NHKのテレビ視聴率も高かったとのこと、ホームページへのアクセスも当日、直後の数日を通じて10万件の多数に及ぶなど、多数に関心を持って貰ったことは、記念行事として、社会に対する剣道界のしかるべき発信は達成できたものと自画自賛しています。
第7回になる剣道有功賞については、各剣連、団体の推薦を受け、10月18日に選考委員会を開催し、110名の受賞者を選び、理事会の決定を経て、11月3日付けで贈呈の運びになりました。今年は設立50周年の年で、これまでに功績のあった方を例年より多く表彰する方針で選考が行われました。年齢的には原則として75才以上の方が選ばれ、各剣連のバランスも考慮されました。
最年長受賞者は石川県の太田眞一さんの96才です。この方は金沢の旧制第四高校在学中、昭和4年の第1回天覧試合に石川県代表として出場、奮戦された剣歴の持ち主てす。続く95才の池田浩三さん(東京都)は検察畑のご出身、近年にいたるまで稽古を続けられ、官界の終身剣道の模範とされる方です。
その他、何年も推薦のない長野県の小平初郎範士が、道場連盟の推薦で受賞、ハワイ剣連の名誉会長赤城氏(74才),ハワイの剣道発展に尽くされました。福岡県行橋市の増田 博氏(79才)は、私費を投じて財団を設立、剣道の奨励のための講習会などの事業を続けてこられました。
受賞者への証書、メダルは11月中に推薦団体に送られ、伝達して戴きます。これで有功章受賞者の累計は479名になりました。
10月の選考委員会で審議を終えられなかった、剣道功労賞受賞者は、11月3日に再度委員会を開催、4名の受賞者を選出しました。理事会に付議の上、12月2日の50周年記念式典の席で贈呈されます。内定された方々はつぎのとおりです。
剣道範士川原大三郎氏(88才)は長年の学生剣道の発展、また剣道指導の功績に対し、居合道範士福田一男氏(82才)は長年の居合道発展への貢献に対し、また剣道範士湯浅恒俊氏(87才)は長年の熊本県、九州地区の剣道の発展への貢献に対し贈られます。また海外のF・デットウイラー氏(81才)はスイス剣道の育成、欧州剣道の発展への功績が評価され推薦されたものです。
かねてお願いしていた記念事業に対する寄付は、このところ急に増加し、この不況期で企業、団体関係が伸び悩んでいるのに対し、個人からの募金が急増していることは誠に有り難いことです。11月7日現在で、個人959件、1,440万円、これに企業・団体が36社、330万円、合計金額1,765万円に達しています。後世に残す事業への投入を予定しており、具体化を促進します。
熊本県の南部、人吉市に近い錦町主催の七段戦、今年で13回を数え、10月20日に開催されました。全国から参加の32名の七段剣士が参加、充実した試合を展開、准准決勝戦で前年優勝の宮崎正裕選手を大接戦の末破った江藤善久選手(大阪府)が、決勝で佐賀 豊選手(北海道)を下して初優勝しました。
町おこしと、青少年に夢を与えるイベントとして錦町主催で実施してきたこの大会も、選手は皆民宿泊まりなどに見られる簡素な運営の中、豪華な顔触れの大会として続けられること何よりです。
剣道団体でない小さな自治体主催のこの大会、充実したよい大会になってきました。今後の発展を祈念します。
このたびの大会優勝の末野八段に贈られた優勝賞品は、山形市上林恒平作の現代刀で、全長76センチの名刀です。上林さんは、日本美術刀剣保存協会の名刀展で無鑑査の資格を持たれる日本有数の刀工です。
記念大会を終えて、11月は審査の月です。剣道六、七、八段審査が名古屋、東京で行われ、さらに錬士、教士の称号審査が加わります。受審者の総数は7千人に昇る大掛かりのものです。全剣連は公正、妥当な審査の実施のため、全力を尽くして当たります。受審者各位も実力を出しきってのご成功をお祈りします。
写真コンテストの作品を掲げた平成15年度のカレンダーが、例年どおり完成、発売されました。今年は13枚ものですが、値段は据え置きの千円です。例年どおり入賞作品をフルに使っており、なかなか立派で好評です。各剣連にも取次をお願いしていますが。ご利用をお勧めします。