2006年8月号

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今月のまど

この1月のマスコミにはサッカーの世界選手権大会の報道に明け暮れたというほどの感を受けました。イタリアの優勝で終わったこの大会、映像でトーナメントの実況を見た限り、日本チームの試合ぶりと比較し格段の実力差を実感した人は多かったことでしょう。作り出された人気だけではどうにもならない実力の世界を見せつけられたのは収穫でした。一方力が伯仲した多くの試合で、一本を争う剣道の試合と似た緊迫感があり、テレビに釘付けにするだけの中身がありました。団体試合の魅力と言えましょうか。

そのテレビですがこのところ「真剣に」という言葉がしきりに飛び交います。いうまでも無く剣術に発したこの言葉は、標語として気楽に使って欲しくないのですが、言うからには、本気で公共放送の経営、運営の改善に取り組み、実績を収めて貰いたいものです。

折から長期構想企画会議で取り組んでいる「剣道指導の心構え」では、竹刀、木刀、刀の関連をどう指導するかについて、文字通り真剣に論議が行われました。最後まで残る視点であり、良い纏めができることを期待しています。

さて間もなく明ける梅雨ですが、西日本を中心にかなりの降雨が見られます。そもそも梅雨は、温暖と豊富な降水により、豊かな国土を育んだ、東アジアのモンスーン地帯に位置する日本列島の気象の一部の副作用とも言えるものですが、これに対する備えは無くてはなりません。各地の被害の少なからんことを念じます。

中国で初の講習会と審査会が行われる

表紙の写真で気付かれたでしょうが、これは中国で行われた講習会、審査会の1コマです。中国の各地に剣道グループが育っていることは、以前にも紹介しましたが、組織的な講習、特に段位取得のための審査を実施して貰いたいという希望が強く出されていました。しかし中国には全体を統括する組織がありませんので、段位を付与することができません。これらの要望を鑑み、昨年国際剣連は未加盟国を対象に国際剣連が段位付与のための審査を行いうるよう規則化しました。これにより昨年中国東北部、朝鮮半島に近い延吉で審査を行いました。ここは朝鮮民族の居住者の多い所で、そこの剣道グループに対し、大韓剣道会メンバー主体で実施したものです。

本年に入り中国側剣道グループの希望も集約され、北京、上海で講習、審査を行う構想が纏まり、全剣連が講師を派遣する計画が具体化しました。これに対し日本の外交当局も関心を示し、国際交流基金からの支援が得られることになりました。この計画にさらに中国の隣のモンゴルも加わり、6月に後藤清光範士以下4名が派遣されました。16日に成田出発、北京に入り、ウランバートルに移動、さらに上海に入り、26日に帰国しました。それぞれの地で講習、審査を行いましたが、予期した以上の熱心な参加者を得て、成果を挙げることができました。詳細は20頁からの記事に譲りますが、私は北京での行事に出席できましたので、印象を記します。

北京での講習には8つの剣道クラブから100名が参加、講習ののち、審査を実施、初段38名、二段11名、三段6名が合格しました。 北京市における剣道人口は昨年800名と言われていましたが、ますます増加の趨勢にあるとのことでした。これにつぐ剣道人口の多いのは上海ですが、講習会には北京市より多い120名が参加、審査では初段75名、二段6名、三段3名が合格したとのことで、今後の発展が期待されます。またこれ以外の都市、広州、重慶、成都、大連などでの剣道人口も増加しつつあるとのことでした。

各地の剣道愛好者共通の傾向は、若い年齢層が多く、また基本に則してまじめに取り組んでおり、昨年の訪中のとき受けたのと同じく、使用している剣道具、服装はキチンとしているのが印象的でした。恐らく愛好者は経済的に余裕のある階層の者が多いと推定され、今後の普及の可能性を予測させます。

19日には在北京の日本大使館を訪ね、宮本雄二大使にお会いしてご挨拶、懇談の時間を持ちました。日本剣道の状況や文化交流における役割をご理解頂いており、今後の普及のためのご協力もお願いしました。また井出敬二公使には講習会の開始にあたり、ご来場、激励のご挨拶を頂いております。

今後の中国での剣道にどう関わって行くのか

今中国の剣道は確かに芽吹いています。そしてこれは各地で愛好者が同好会として進めている現状にあります。そして国一本の組織を作り、国際剣連に加盟するという段階になるとすれば、政府の関与が必要になりましょうが、これにはなお時日を要すると見ます。しかし現実の剣道人口では、すでに国際剣連加盟国47の中で、中位から抜け出すレベルにあります。この事実が重要と思われます。

ここで私はかつて10数年前のソ連時代に、モスクワ大学を中核として剣道連盟が発足したことを思い出します。予想できなかった点では、剣道の国際普及での奇跡的出来事と思われました。ただここには日本で育ち剣道を学んだヤヌシェフスキーという方の努力がありました。これに対して中国で剣道が育っている現状は異なった展開をしており、第2の奇跡といえるほどの出来事と思われますが、今後どのように関わって行くべきでしょうか。

願わくば、勝負だけにこだわるスポーツとしての剣術でなく、人間形成を目指す剣道に育って貰いたいものです。そのために技術的には基本を重視し、生涯にわたって修錬が続けられる剣道であって欲しいと思います。また剣道団体はそれぞれ協調して、よき運営のもとに剣道の奨励に活動することを期待します。訪中の際、各団体との懇談の機会を持ちましたが、この際局地的でもよいから連携、協調しながら活動し、剣道を盛んにすることを要望しました。

このような期待の中、全剣連は必要な指導などの援助を拡大していくことが必要です。ただ広い中国に手を広げることはなかなか難しいので、あるいはボランティアの力も借りたいし、現在の北京の日本人会のように、駐在の方々のお骨折りを期待したいと思います。また姉妹関係を結んでいる日本側の都市にもご努力を願いたいものです。これらのことは文化交流を通じて日中関係の改善、緊密化に役立ち、日本の国益に合うことは勿論、両国の利益に繋がるものであることと確信します。

全日本学生剣道選手権大会を一瞥して

7月3日の日本武道館で、全日本学生剣道選手権大会を短時間視察することが出ました。全国各地区の大会の上位剣士による男子、女子の個人優勝を争う大会です。2年前にこの大会を訪れ、たまたま決勝戦を見たところ、試合を有利にするためか、意図的と見られる転倒を繰り返した試合ぶりを見て驚きました。この際の審判の処理にも問題があり、甚だ失望した記憶があります。

その後運営側の指導も行われたと聞いていました。男子の個人戦決勝は関西の剣士によって争われ、まじめな試合ぶりで、審判も適切に行われている状況に接し、一安心しました。

あと選抜剣士による東西対抗戦もありましたが、総じて小粒な試合ぶりとの印象を受けました。大学剣道の代表剣士には、もっと堂々たる試合ぶりを期待したのですが、無理でしょうか。

剣道人元宰相 全剣連顧問 橋本龍太郎氏の逝去を悼む

元総理大臣で剣道愛好者として知られ、常に稽古にも励んでおられた橋本さんが、7月1日に急逝されました。政務の傍ら学生連盟、道場連盟の会長も務められた他、広く剣道界全体にも目を向けて頂いた方だけに、剣道界として謹んで弔意を表するものであります。

橋本さんは総理大臣の激務の中も、京都での世界選手権大会に激励に駆け付けて頂きましたし、国会議員の稽古会の中心となって推進を図られました。道場連盟主催の少年大会の際には、自ら掛り稽古の元立ちを務められるのが常でした。また海外への外交活動の傍ら、剣道普及にも努力され、特にロシア剣連には優勝杯を寄贈され、その大会が続けられています。

最近の思い出は、昨秋の剣道六段審査に挑戦されたことです。五段受有の有力国会議員の方々の六段受審希望に応え、11月の六段審査会当日、別の審査会場で正規の手順による審査を受けて頂きました。さすがに大学時代剣道部で鍛えられた方々であり、立派な演武をされ合格されました。この中率先審査に挑戦されたことには剣道人橋本さんの面目躍如たるものがありました。

この件について一部雑音が発生しましたが、すべて規則に基づく正規の審査で合格されたことを橋本さんの名誉のために証言しておきます。

ここに改めて剣道人宰相・橋本さんのご功績を偲び、ご逝去を悼み、謹んでご冥福を祈るものです。

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