2007年3月号

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今月のまど

立春も過ぎたこの頃、東京西郊の庭でも春に先駆ける梅花が綻びをみせてくれました。

入試、学年末、卒業期を迎えて多忙な日々を送って居られる方が多いでしょうが、年度末を控え各界とも気忙しい時期です。

暖冬のお陰でインフルエンザが下火なのは何よりですが、お互い健康に留意して元気に春を迎えましょう。

教育革新の波を剣道界への追い風にしたい

教育改革が政府の重要な方針として取り上げられ、総理の施政方針演説でも強調されています。長年実現を見なかった改正教育基本法が昨年末に成立し、その第一歩を踏み出しました。

これに続いて教育振興基本計画の立案が進められ、実行面のいくつかの法律も提案されましょう。内閣に設けられた教育再生会議での審議が進められ、今次の通常国会では教育革新を一つの柱として展開されると見られます。国の教育の在り方は、剣道の振興に影響することが期待されますが、これを検証します。

旧基本法が作られた時代を振り返る

これまでの教育基本法が作られたのは、戦後占領期の昭和22年3月です。読者の中で60年前のこの時代を体験された方は少数派でしょう。総力を挙げ戦っての敗戦で国民は虚脱状態、飢餓からの脱却が現実の課題であった時代であり、戦中の異常な状態からあらゆる分野で切替えようという時代でした。

この時期に占領軍の意向を柱に作られたのが、現行憲法であり、教育基本法でした。改憲が論議されつつある憲法はさておき、教育基本法は日本を軍事国家として立ち上がることがないよう洗脳することを念頭に、学校制度の切替えの実行などの改革の基本として、総司令部の強い指導、指示のもとに作られた法律でした。

すでに戦力の基になるということで、学校における剣道が禁止されている時代です。この年4月占領政策の基本を定める極東委員会の「教育制度刷新のための指令」が出されています。基本法はその内容と軌を一にする思想のもとに作られていますが、上記指令の中で剣道に関し次のように述べています。

「剣道のように精神教育を助長する昔ながらの運動もすべて廃止せねばならぬ」「体育はもはや精神教育に結びつけられてはならない」。戦中の在り方は別としてわれわれが受け入れられない狭い考えだと感じます。もっとも占領政策による施策には結構新鮮な内容があったことも事実ですが、現実と歴史を踏まえて日本政府の準備したものが織り込まれたものも多かったのも当然です。

見直しの経過

その後の日本の経済的、社会的発展に、戦後の教育改革による教育の普及、全体で見た教育水準の向上などが貢献した部分が大きいことは認められます。しかし足りない部分が痛感され、社会の変化などにも対応するため、その見直しを行おうという動きが繰り返されました。

そして児童の学力低下、ゆとり教育の見直し、いじめ問題の多発などが今回の改正を後押して実現に向かって歩み出しました。

まず平成12年3月に設置された教育改革国民会議が、教育基本法の見直しと教育振興基本計画の策定などの提言を行い、これを受けて、同年末に中央教育審議会に政府が諮問し、平成15年3月「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」を答申しました。

この後与党における検討を経て政府案が作成され、平成18年4月法案となり国会に提出、昨年12月の臨時国会で成立しました

改正教育基本法の概要

世の中に換骨奪胎という大外科手術を思わせる語があります。新しい基本法は改正を冠していますがまさにこれに当てはまる内容です。形式は前法を踏襲しており、憲法の趣旨も入っていますが、現在の社会情勢に対応する条文に、占領時に織り込み得なかった内容を加え、教育行政の基本になる体系を整えています。条文も前法が11条だったのに対し18条であり、必要として加えた部分が多く形も整えられています。

まず前文では「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成」と個人中心の記述に対し、「公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成」「伝統を継承し新しい文化の創造を目指す教育を推進する」としています。

第2条は教育の方針を目標とし、この5号には議論が多かった愛国心について、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」とします。また1号には「幅広い知識と教養を身に付け」「豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養う」としています。

第3条に生涯学習の理念を新設、第4条の教育の機会均等の2号に、障害者への支援を追加、旧法の5条男女共学は削除、学校教育については、7条大学、8条私立学校を新設、9条として教員を独立、さらに第10条家庭教育、11条幼児教育を新設しています。

12条の社会教育の内容は踏襲し、国、地方自治体がその振興に努めるべきことを定めています。13条には学校、家庭、地域住民等の相互の連携協力の項を新設し、そして16条の教育行政を充実させ、国、自治体の役割を規定、最後に17条で政府が教育振興基本計画を作成すべきことを義務づけています。

以上駆け足で紹介しましたが、政府はまず教育振興基本計画の立案を進める他、教育内容の具体的推進を図るためいくつかの法律改正を行う予定で、具体的に施策として効果を挙げるには、なおいくつかの段階を経る必要があります。

教育改革の風の中で剣道の発展を図ろう

さて基本法は現時点で取るべき方向を総合的に指摘し、大事な視点を示していますが、それらの多くは剣道界の目指す所と軌を一にしていると見ることができます。

行政の施策は、一般の期待の大きい義務教育を中心とする学校教育の刷新、またそのため必要となる行政体制の強化、特に教育委員会の見直しにまず向けられるましょう。この意味で基本法の成立が、ただちに剣道界への追い風になるとは言えませんが、わが国の未来を切り開く教育の基本を定めるために見直された基本法が成立したことは、人造りを掲げ、社会の健全な発展を目指す、剣道界と同じ方向であり、これに共感を覚えわれわれを勇気づける所であります。

動きだす教育革新に剣道界として注目するとともに、所要の働きかけを行い剣道の正しい発展を図らねばなりません。

新しい強化訓練始まる

昨年暮れの世界大会団体戦の苦杯を踏まえ、新しいメンバーを加え再編成しての男子強化訓練をスタートさせ、去る2月1日より勝浦市の日本武道館研修センターにおいて4日間の訓練を行いました。今後進め方を検討しつつ、充実した内容で新年度より取り組みます。

杖道の講習盛会・普及への期待高まる

機会が多くない杖道の講習会が1月20、21の両日、東京・江戸川区スポーツセンターで開催されました。待ち兼ねた愛好者が地元のみならず、各地から参集。その数317名の多数でした。熱心な受講態度は今後の杖道の発展を予測させるものがありました。

岡 憲次郎氏の逝去を悼む

剣道の普及発展に長年にわたり尽力してこられた、審議員岡さんが1月22日に亡くなられました。

岡さんは東京高師ご卒業後、教育界に入られ、長年高校剣道界をリードして指導に当たられました。その後警察大学校教授を経て、国際武道大学教授に転じられ、最後は同大学学長を務められました。全剣連では審査担当の常任理事として、称号・段位審査規則の改定を手掛けられました。次段位受審までの修業年限を調整され、それまでの促成昇段を見直された平成元年の規則改正は、この部分については平成12年の大改正にほぼそのまま引き継がれて現在も適用されています。

その後審議員として現行の講習会資料の編纂の総指揮を取られるなど、多くの貢献を頂きました。教員としては数少ない明治村八段戦の優勝も果たしておられます。謹んでご冥福を祈ります。

断   片

社会体育指導員養成事業が平成7年に第1回初級講習会を行ってから10年を経て、上級資格者の講習を行うまでになりました。

全剣連の新しく始めたこの事業の成功を祝い、これまでの貢献者に謝意を表するための記念式典を3月3日午後、内輪の会として九段会館で開催します。

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