明けましておめでとうございます。平成も20年目を迎えました。剣友の皆さんがそれぞれ充実した年を過ごされることを祈念します。
去年まで順調だった国内経済が、原油高を始めとする不安定要因でどういう方向に動くか、国内政治では福田内閣が、衆参両院のねじれ現象の中、どのような政策展開をするか、米国など幾つかの首長選挙の結果国際政治の流れがどう動くか、不透明な材料に事欠かない年になりそうです。
この中改正された教育基本法のもと、教育改革はぜひ進めるべき課題ですが、報じられている中学校の体育の武道を必修課目とする構想は、剣道界としてぜひ実現をして欲しいことです。これは剣道界へ追い風になることですが、同時に剣道界に大きな責任を課するものと受け取って、万全の体制をとって効果を収めなければなりません。そして日本人の精神、肉体の強化を実行して行くための取り組みを進めたいと思います。
さて全剣連としては剣道の振興への方策として、昨年の「年頭の辞」において「指導・教育を通じてレベルの高い剣道を育てること」、「普及を進めると共に愛好者を増やす努力を高めること」、さらに「社会における剣道への理解を深めるための活動を強化すること」を掲げています。
全剣連は本年もその目標達成のための努力を続け、特に現場への浸透を図ることに努力します。昨年3月には「剣道指導の心構え」を策定しました。また6月の役員改選で充実したメンバーを加え、専門委員会も強化して、事業を進めており、幸い柱になる諸事業において成果を挙げつつあると見ています。
先に述べた中学校の体育に武道の必修化を進める案は、中央教育審議会の部会で審議されているものですが、その趣旨に日本の「伝統と文化の尊重」が挙げられていますが、すでに全剣連が標榜してきた「わが国の伝統と文化の所産である剣道」とは方向が一致しています。ところが慣用語になり過ぎたといえる、この言葉の意味を『剣窓』において解明し、ご理解を得たいと思います。
まず歴史から始めます。古代からある刀剣による剣術は、世界各地で行われてきました。日本でも平安朝時代より日本刀が、兵器としてまた武士の地位の象徴として尊重され、剣術各流派が生まれ行われてきました。
下って泰平の世となった18世紀に、おろそかになっていた剣術の修錬を武士の子弟に行わせるために、江戸で竹刀、防具が開発され、それまでの形(かた)中心の修業に代わり、打ち込み稽古、試合ができるようになりました。これが現在の剣道の基となり、幕末の頃にはほぼ現在のものが形成されています。明治になると武士階級も、佩刀も無くなりましたが、刀の操法基本を移した竹刀打ち剣術は生き続けました。教育への効果が認められ、明治の末には中学校の課目として取り入れられ、のちに正課になりました。大正期には呼称も「剣道」とされ、戦中、戦後の荒波を乗り越え、女子、各年代にまで広く普及して今日に至ったのであります。
剣道の優れた点を挙げてみましょう。まずは安全に打ち込み稽古を可能にした竹刀、剣道具の開発があります。またこれを高度の機能、服飾美を併せ可能にした工芸技術、「打突部位」と「有効打突」を具体化し、試合を行い得る競技性の実現、修錬に当たって勝負のみにこだわらず、心の鍛錬、古来からの礼の心を重視する倫理性、奨励のための称号・段位制度と運用方式の存在など、いずれも長年にわたりわが国の伝統と文化によって培われたもので、いわば優れたシステムとして作り出された剣道は、お互い誇り得る高度の文化であると確信します。
このような内容を持つ剣道の深さをお互い理解し、これを広め、さらに高めて後世に伝えていくための努力を高めて行きたいものです。これを新年の言葉とさせて頂きます。
会 長 武安 義光
夏の猛暑の故か、今年の紅葉は例年より遅れているといわれます。九段坂のいちょうも見事に紅葉し、歩道を覆う落葉とともに、晩秋の彩りを見せています。つい先日の11月末には日本武道館で2日間にわたって剣道八段の審査が行われ、激しい立合いが続いたとは思えない落ち着いた付近の風情です。以前は12月を迎えると全剣連は農閑期に入るなどといわれましたが、この頃は12月1日に功労者表彰式、文化講演会があり、社会体育指導員養成講習会(中級・初級更新)、講師要員(試合・審判)研修会、選抜特別訓練講習会、居合道六、七段審査会と盛り沢山の行事に追われる歳末です。皆さんも良き新年をお迎えください。
秋の審査は、剣道六、七、八段が主力になりますが、各道の錬士、教士の称号審査のほか、12月に入っての居合道六、七段審査を加えますと、東京と名古屋を舞台に、4会場で8日間展開され、受審者として8千名に近い剣士が挑戦、延べ260名の審査員が実技審査に当たる他、審査の運営などに延べ450名が当たるという、大型審査の名にふさわしい事業になります。幸い大きなトラブルが無く終えることができ、主催者はホッとしているのが本音です。厳しい審査を経て、剣道八段18名、剣道七段254名、剣道六段347名、また称号では471名の錬士、255名の教士が誕生しました(いずれも再受審者を含む)。それらの方にまずお慶びを申し上げ、今後のご発展と引き続きご精進頂くことを念じます。長時間の仕事をして頂いた審査員のご尽力に謝意を表し、運営に当たられた方のご労苦を多とします。また不成功に終わった方は、納得されたかどうか、結果を踏まえての捲土重来へのご努力をお願いします。
懸念された剣道八段の2日制はまずまず順調でしたが、東京武道館での剣道七段の審査は、1,800名の受審者に対し、会場の広さなどで無理が感じられました。対応を考えることが必要です。
平成15年より長期構想企画会議で取り組んできた、標記指針が纏まり、3月の会議を経て決定を見ました。『剣道の理念』の各論というべきもので、今後指導にあたっての柱になりましょう。
平成7年10月に第1回初級講習会を開催し、その後各地で事業を進め、上級指導員にいたるシステムの完結を見たので、3月3日記念式典を開催しました。全剣連が実質的に独自に築き上げ、5千名を越える資格者を生んだ事業の今後の進展への決意を固めました。
剣道の試合時間、原則5分が頑固に守られてきて、一方の3本勝負の原則が軽視されてきた風潮を改めようと、一昨年の全日本東西対抗剣道大会に10分制を取り入れ、その後全日本選抜剣道八段優勝大会。19年から全日本女子剣道選手権大会、全日本剣道選手権大会の、準決勝戦以後の試合時間を10分に改め実施し好結果を得ました。また慣例であった女子の大会の試合時間を5分にしました。経過を見つつなお調整を進めます。
難関を以て知られる剣道八段審査、受審者が増加の傾向が止まらず、1日での実施が困難になり、東西とも2日かけて行うことにしました。審査場の数が減り、審査の運営と質の向上に繋がる好結果を得たと見ています。
通称「骨太剣士」養成と称している標記講習会、第一期の2年の講習を終え、新たに60名の若手剣士を選抜、8月に第1回講習会を開催しスタートしました。試合のための強化を目的にしませんが、秋の全日本剣道選手権大会には、第一期訓練生から7名、第二期訓練生から2名が出場しました。
9月の第46回大会で村山 千夏選手が、36年ぶりの3連覇の偉業を達成しました。33歳での優勝も久方振りの記録です。
初めてのコンテストを実施したところ多数の応募があり、審査の結果、高知県潮江町剣道スポーツ少年団の作品が最優勝賞に選ばれ、その他優秀賞などの表彰が行われました。
GAISF(国際競技団体連合)加盟に際しての約束に基づき、国際剣連としてのアンチ・ドーピング機構(WADA)の規程を批准し、これに基づき全剣連はアンチ・ドーピングに関する規程を、6月に制定しました。世界の流れは、剣道界にも及んできました。
ここ数年初段の取得人員は横ばいを保ってきましたが、18年は前年を3千名下回りましたが、この傾向は続きそうで、剣道界の活力低下とともに、財政面に響いてきます。全剣連の20年度事業計画、予算編成に影響を及ぼしそうです。地方剣連、団体への影響も必至です。
高段審査への高齢者の挑戦は活発です。5月の剣道八段審査において80歳の緒方 仁司氏(熊本県)が見事に難関を突破されました。ほとんど前例を見ない快挙です。また剣道範士に高崎 慶男氏(茨城県、81歳)が合格されました。いずれも生涯剣道の範と言えます。
剣道の発展にご功績のあった以下の方が亡くなられました。剣道界の歴史に名を残される方々でご冥福を祈ります。
末廣 要氏 | 剣道範士 前兵庫県剣連会長 | 12月21日 | 87歳 |
岡 憲次郎氏 | 剣道範士(東京都) 全剣連審議員 元常任理事 元国際武道大学学長(03月号「まど」、追悼文) | 01月22日 | 80歳 |
石丸 俊彦氏 | 全剣連相談役 元副会長 功労賞(05月号「まど」、追悼文) | 04月01日 | 82歳 |
小中沢 辰男氏 | 剣道範士 元神奈川県剣連会長 功労賞 | 03月17日 | 91歳 |
榊原 正氏 | 剣道範士 愛知県剣連相談役 第01回全日本剣道選手権大会優勝者 | 04月09日 | 86歳 |
米野 光太郎氏 | 杖道範士(東京都)(07月号追悼文) | 05月11日 | 83歳 |
近藤 利雄氏 | 剣道範士 愛知県剣連相談役 功労賞(07月号追悼文、08月号遺稿) | 05月14日 | 96歳 |
西川 源内氏 | 剣道範士 元全剣連審議員 奈良県剣連名誉会長(07月号追悼文) | 05月23日 | 90歳 |
川原 大三郎氏 | 剣道範士(東京都) 功労賞 | 11月02日 | 93歳 |
新年巻頭言 | ・現場への浸透に猛進しよう |
01月号 |
・台北での世界大会 ・国際剣連諸会議 ・18年を振り返る |
02月号 |
・元日の新聞論調 ・新年度事業への取り組み |
03月号 |
・改正教育基本法の概要と期待 ・岡 憲次郎氏追悼 |
04月号 |
・19年度事業の構想 ・「剣道指導の心構え」 ・マカオの剣道 |
05月号 |
・新年度事業スタート ・石丸氏逝去を悼む |
06月号 |
・東西対抗大会 ・京都での審査会 ・演武大会など |
07月号 |
・平成18年度の事業を顧みる ・次期に申し送られる事項 |
08月号 |
・新役員の分担 ・業務の進め方 |
09月号 |
・夏の諸行事 ・称号・段位制度の運営の向上 |
10月号 |
・女子村山3連覇 ・上海の剣道 ・松代文武学校剣術所 |
11月号 |
・水戸藩竹刀打ち剣術 ・審査実施の留意事項① |
12月号 |
・剣道選手権大会 ・収入の停滞 ・審査実施の留意事項② |
パリ滞在の好村 兼一氏の作品『侍の翼』が文芸春秋から刊行されました。同氏は剣道八段、フランス剣道界を育てて来られた方です。知る人ぞ知る才能を世に訴えた発表をお慶び申し上げ、剣道人の一読をお勧めします。41頁の紹介記事をご覧ください。(PDF形式)
会 長 武安 義光