全国の剣友の各位には、良き新年を迎えられ松の内も終え、日常の活動に戻り仕事も軌道に乗られたこととお察しします。一方寒気をものともせず、寒稽古に励んでる方も居られましょう。進学の受験生を抱え、気を遣われる家庭も多いことと思います。
内外ともに不透明な条件の多い今年で、新年早々米国経済の先行き不安から、株価の暴落、円高の急進があり、多難な経済界のスタートになりました。
本格的な冬の到来はこれからですが、「春遠からじ」で、新年度への準備も始まります。全剣連も事業計画の検討のため、各種の会議を例年の手順により進めます。
まず長い目で見て、世界と共に具体的対応を要するのは地球温暖化の問題です。燃料使用によって排出される大気中の二酸化炭素の増加による、大気の温度上昇が、世界の環境に大きな影響を及ぼすことへの対応を、世界各国が協力して行うべきことが、総論的には一致しています。京都議定書での削減目標への行動が、やっと各論として実行を要請される段階にきています。
日経はこの新聞の性格を反映し、「低炭素社会への道」を掲げて元日から社説を連載しました。「国益と地球益を満たす制度設計を」と説いています。欧州が制度設計で先行しているのに対し、日本は遅れていることを衝いています。この面では政府が産業界と協調してこの分野で施策の促進を図らねばなりません。
朝日も3日の社説で「技術の底力で変身しよう」とし、「エネルギーの地産地消や分散型の都市をつくる『企業の競争』により、地域と産業を脱温暖化に衣替えする」ことを説いています。この方向に努力することは結構なことですが、これらの方策だけで目的が達成されるかについては甚だ疑問です。論説では賛成でない原子力発電の増強による、石油・石炭火力発電の抑制を進めることは避けて通れない急務であることを私見として強調しておきます。あわせて付け加えますが、二酸化炭素排出の現状、抑制のための仕組みなどの情報を国民に周知し、対応策について理解を得ることが大事で、このための努力強化が今後重要です。
さて中期的に目を転じますと、複雑・不透明に変動しつつある国際情勢の中、日本がどのように生きていくかが問題です。世界唯一の超大国であった「米国の揺らぎ」があり、近い将来に、ロシア・中国・インドなどが経済大国として登場し、世界のパワーバランスが変わって行くことが予想されます。この中で日本としては日米同盟を機軸として堅持しつつ、世界戦略を立て外交努力を進めるべきと強調するのは読売です。そして外交に発言力を持つためには国内政治の安定が必要であり、さらに社会保障費の増大をも抱えて危機状態にある財政の解決への見通しも持つ必要があるとし、現内閣がなすべきことは内外に強い政治意思を示すことと主張します。
産経も日本の安全保障については読売とほぼ同様の姿勢ですが、国の安全保障の根幹を首相が示すことを要求します。日本の国際的指導力が試される洞爺湖サミットにおける首相の奮起を促します。また民主党は国家安全保障を政争の具とすることを止め、現実的姿勢への転換をすべきとします。
さて現在の政治における衆参のねじれ現象での国政の停滞に対し、朝日、毎日は元日の社説で、選挙で民意を問うべきと主張しますが、読売は選挙に依らず、国内政治の安定に努力すべきとします。
新年に当たり日常追われている身の回りの問題を離れ、長い目で国としてあるいは社会として取るべき方向を考えて見たい、そのための題材を得ようと、年頭の新聞論調を毎年取り上げてきました。その内容に学ぶというより、生き方の参考にすることで見て頂きたいと存じます。
中学校の体育において武道を必修科目に取り上げる方針は、決定に向かって前進しつつあります。国の教育課程の基準の見直しを検討している、中央教育審議会の中等教育分科会教育課程部会では、現在原案について関係者の意見を求めている段階で、1月中旬に中央教育審議会答申がまとめられ、文部科学大臣に答申されます。これを受けて文部科学省は決定する予定です。
さて今次の改訂で、これまでと変るところはつぎのとおりです。現行では中学校1年で武道またはダンスのいずれかを選択、2・3年で、球技・武道・ダンスの中から2領域選択ということになっています。今次案では1・2年においては武道が必修科目になり、3年では、球技と武道のいずれかを選択することになります。つまり現行では武道を履修しないで卒業する生徒がいましたが、改定案では、すべての生徒が必ず武道を学ぶようになるということです。陸上競技・水泳などに並んで武道が、必修になるということですから、武道が特別扱いで重視されたというより、やっと他の競技並みになったというべきです。しかし大きな前進であり、剣道界はチャンスを生かすべきです。
12月1日に行われた「剣道文化講演会」は多数の聴衆を集め、かつてない盛況でしたが、トラブルがありました。それは雑誌『剣道時代』が暮れに発行した2月号に、森島健男講師の講演を録音し速記を、全剣連の許諾を受けずに全文掲載したことです。
講演内容の掲載は、講演会を主催した著作権者の全剣連の承認を要し、著作権法に違反することになり極めて遺憾なことです。特に全剣連は『剣窓』2月号に例年のように、講演内容の掲載を予定していただけに影響大です。事務的に電話連絡が事前にあったとのことですが、了解が全く食い違っていたようです。出版社側も非を認め詫び状を提出し、雑誌にも掲載することになりましたが、剣道界の雑誌も著作権をめぐる問題では、今後模範になる対応をされることを希望します。全剣連もこの点に的確な処理が行われるよう、事業遂行に当たって注意を要することを痛感します。
平成19年の剣道初段取得者数が概略まとまりました。居合道・杖道を併せ合計41,524名で、前年を約1,000名下回っています。ただ若干の報告漏れもあり得るため、多分ほぼ前年並みの微減にとどまる見通しです。
今回は学科の審査を取り上げます。
学科審査は筆記試験によって行われて来ました。段位は剣道の技術的力量を基準にして審査を行いますが、単に腕だけ良ければ良いということでなく、ある程度の剣道に対する知識を持つことが必要ということで、筆記試験が取り入れられています。
現行の規則制定に際しては称号を重視する体系をとりました。称号では、剣道の技術的力量に加えて「指導力、識見などを備えた剣道人の完成度を示すもの」としています。ここでは当然審査に当たって、筆記試験による知識の判定が要請されます。そこで新制度では、錬士においては小論文の提出を求め、教士では半日かけての筆記試験を行うことにしました。
段位審査においても高段にいたるまで実技審査の合格者に対し筆記試験を課してきました。しかし内容が形式に流れていたこと、特に実施面で実技審査のあと審査員が居並ぶ前、道場で腹這いに近い状態で答案を書かせるなど受審者に極めて非礼な方式で行われていたのでそれらの実状を踏まえ、全剣連直営の六段以上の審査では廃止に踏み切りました。
一方各剣連に委任している五段以下については、剣道人としての修業段階であるとの見方から、腕前だけで一人歩きしないことを期待し従来に引き続いて、学科試験を課しています。その内容の改善を図るため、全剣連は全国的調査を行い、結果の一般的留意事項を各剣連に通知し、また例題集を作成するなどして全国的改善、適正化の進展を期待しています。
以下実施における一般的留意すべき点をいくつか記します。
筆記試験の実施、出題にあたりまず留意すべきことは、何を試験で見るかについてはっきりさせ、事に当たることです。審査する段に応じ、剣道人として知って置くべき最低限の知識を見るということですから、これを逸脱しない事です。
つぎに出題者が楽な出題をして、受審者側が苦労するのは良い審査と言えません。学校での試験のように、教育した内容の理解度を調べるテストとは違う事、また中には日頃筆を取る事の少ない方、思い出して表現するのに時間のかかる受審者のいることも念頭において、難易度、受審者の負担を考慮する事が必要です。
前記に関連しますが、出題側はできるだけ、短答式・穴明け式、できれば多肢選択式といった方式を取り入れ、数多くの出題で広く知識を検定するような試験を行う事が望まれます。
なお実施に当たっては、前記のような全剣連の行っていた試験場の在り方は避けたいものです。
会 長 武安 義光