2月はじめには東京も珍しく雪に見舞われましたが、全国いずこも寒稽古の日程を終え、厳しい冬の襲来の中、学年末・事業年度末の仕事に取り組んでおられましょう。全剣連もその中、新年度の事業、予算編成を目指した作業を進めています。
ところで相撲部屋での傷害致死事件の報道が世を賑わせています。広い意味での武道の仲間とは言え、独特の歴史と領域を形作っている相撲界での出来事ですが、以前に似た事件の発生を経験している剣道界は、これを無縁のものとせず指導のあり方について考えて見るチャンスとしたいものです。
去る6日には恒例の全国剣連の事業運営の責めを負う専務理事・理事長会議を開催、本年度事業の経過、当面の構想などについて、全剣連側から説明、また関連しての意見交換を行いました。
剣道界の仕事は連続していますが、行事や予算は公益法人として4月からの年度で区切って進める事になります。仕事の進め方の大綱は変わる事はありませんが、指導・普及・強化を例にとれば、施策を具体的に現場に浸透させ成果を挙げて行くことが課題です。特に「学習指導要領」の改定に伴い、中学校1、2学年の体育課程で武道が必修科目になることへの対応は本年度から取り組みます。
審査については現行の規則体系の目指すところを定着させ、浸透させることを重点として進め、愛好者の期待に応える質の高い審査を実行するよう全力を挙げます。
大会・審査会・講習会など行事は本年度を踏襲し、持ち回り開催などによる開催地の変更はありますが、枠組みの変更はありません。後援事業としての各剣連主催の講習会は、ますます充実を進めたいと思います。また指導法講習会のための講師要員の研修を行うべきとの意見に応え、講師要員の研修を行っている審判法研修に、指導法の研修を併せ行うことを考えています。
全剣連主催の審査会のうち、2日にわたって行うことにした剣道八段審査会は、同様の方法で継続します。
国際関係では、ブラジルでの世界大会を来年に控え、準備に努力しますが、関連しての選手の強化訓練に力が入ります。
後援大会では熊本県錦町で行われていた「剣豪『丸目蔵人』顕彰全日本選抜剣道七段選手権大会」が、地元の都合で昨年から中止になりました。実績を挙げていた大会であり、中止は残念ですが、代わって開催する構想は目下出ていません。
予算案の編成作業を進めていますが、登録人員が弱含みの見通しにあり、収入減が見込まれますので窮屈な予算を組まざるを得ません。しかし必要な事業は不自由なく実行すべく工夫していきます。そこで節約を進める他、出版物販売などによる増収策を講じていく必要があります。それでも近年の蓄積を投じて、本年に引き続く若干の赤字予算を組むことになりましょう。
中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会での審議が進み、1月17日に中教審の答申が行われ、「学習指導要領」に中学校1・2年の体育に「武道とダンス」ということで必修科目に入る事が固まりました。もっとも今回の改定では武道が必修科目入りしましたが、これまで必修であった「体つくり運動」「器械体操」「陸上競技」「水泳」「球技」に並んで、遅ればせながら仲間入りしたということです。つまりやっと他のスポーツ並みになったわけで、武道アレルギーのある向きから目くじらを立てられる程のことではありません。しかし今回のことは、教育基本法の改正に続く教育改革の波の中、武道協議会など多くの方の努力が報われたわけで、大朗報というべきです。
今後の進み方は、3月中に文部科学省から公示され、1年の周知徹底の期間を置き、以下準備段階を経て、中学校においては平成24年度から完全実施されることになります。
今回の改善の基本方針は、「それぞれの運動が有する特性や魅力に応じて、基本的な身体能力や知識を身に付け、生涯にわたって運動に親しむことができるように、指導内容を整理し体系化を図る」とされています。
そして中学校の必修科目に加えた武道については、「その学習を通じてわが国固有の伝統と文化に、より一層触れることができるように指導の在り方を改善する」としています。
また中学校においては、第1・2学年においては多くの領域の学習を十分させた上で、その学習体験をもとに自らがさらに探求したい運動を、第3学年において選択して履修することになっています。
従ってすべての生徒が、第1・2学年で武道を、他の運動科目とならんで履修することは大きな前進ですが、第3学年では離れる可能性があることになります。まずは現場に任されることになる武道の中での種目の選択として剣道が取り上げられること、さらに実施に移った後、短い授業時間で剣道に魅力を感じさせる教育ができるかどうか、指導の質を高めることが必須のことになります。
以上のような枠組みで武道の取り扱いが決められたわけですが、全剣連としては、全国1万を超す中学校で剣道の魅力的な教育が行われることを目指しますが、用具や指導者の問題など、簡単に解決が難しい多くの問題に直面します。全剣連として新年度を待たずに対応策に取り組んでいきます。
今回は全剣連の、称号・段位委員会が中心となり、各剣連に委任している剣道五段以下の審査の現地に赴いて実態調査を行った結果に基づき、平成18年6月15日付で「剣道初段ないし五段審査の運用にかかわる基本方針」として各剣連会長宛てに行った通達を改めて紹介します。これは各剣連が現行の「剣道段位審査規則」「同細則」に則り、各剣連でのこれまでの実績を踏襲しつつ、おおむね整った方法で実施されていることを認識した上で、審査会運営の基本的な部分について、全国的に整合性ある運用を行うことを求めた要望事項が内容になっています。
まず審査員の選考を、現行規則に基づき「審査員選考委員会」を設けて適正に行うことを要望しました。
つぎに実技審査については、1名の受審者が「2回以上の実技を実施する」「原則として1組ずつ実施する」ことを記しています。これは「複数回の機会を与えることにより、絶対性と客観性に基づいて、綿密かつ適正に観察して判定している」ことについて、受審者に理解、納得させるためにも必要という認識です。
形審査は「規則どおり、多くとも三組程度で同時に実施することが望ましい」とします。
学科審査は「問題は各段位に相応させて、数問を事前に提示する。ことを原則として期待しますが、この欄で先月号に取り上げたことを参照して頂きます。
最後に「審査結果と受審者への対応」を重視して述べています。まず結果発表は、合格者の受審番号で発表することとしていますが、形・学科審査に限っては、不合格者の受審番号を発表する方法をとることも差し支えないこととしています。
さらに現行の審査規則の立案にあたり策定した「見直し方策の大綱」に掲げているところを強調します。その中の③審査と教育の連動を図る、④受審者の立場への配慮を深める、の説明にある「受審者をふるいにかけるための審査にせず、審査を実力向上のための手段として効果あらしめるものとする。このため審査に関する情報の開示、受審者への伝達、指導などを進める」などの文章の趣旨に則り受審者に配慮することを要望しています。もっともこのことは、五段以下に限られた問題でないことは当然です。
さて以上紹介した五段以下の審査の改善策は、すでに二年前の実態に基づくもので、その後それぞれの剣連で対応が進み、改善が進められていることが多いと承知していますが、実行された施策の実施例として今回紹介しました。
会 長 武安 義光