新年おめでとうございます。
世界的不況の中、日本経済も一部に回復の兆しが見えてきたものの、相変わらぬ国債発行に頼る財政運用が続けられ、本年の国債発行額が50兆円と、気の遠くなるような過去最高となるようです。不況による税収の落ち込み、政権交替で前政権の予算を引き継いだ事情も分かりますが、やすやすと借金財政に走る政策は不安です。
当面の人気取りに走らず、国民にとって耐える必要があることでも、堂々と施策を主張できる政府であって欲しいものです。
当面の各界の努力と政策の後押しで、経済もプラスに進むことは期待できましょうが、後の時期に必ず押し寄せて来る借金苦に、次の世代は対応を迫られるに違いありません。
先行きの暗い話しになりましたが、これを克服するのに必要なのは、日本人の〝潜在的活力〟であり、広い意味の〝人間力〟です。お互い剣道人は、その強化・培養の一翼を担える立場にあります。昨年の年頭に掲げた「剣道人は国勢を支える人材として努力しよう」の言葉は本筋の目標として不変ですが、今年は具体論に戻り、剣道界全体を通じて「指導力の充実を図ること」を努力目標として掲げます。
現在世相一般が沈滞気味であり、日本の先行きも明るいといえません。しかしこの状況の中、剣道界は活気を持って動いているといえましょう。今月の「まど」で1年間の動きを記していますが、いくつかの大会を見ても、内容的に充実し上昇の空気が感じられます。昨年秋の大型段位審査には、年配剣士を含め8千名もの方が挑戦され、勢いと活力を感じました。全剣連の財政も、節約と相俟って収支もまあまあの見通しです。
平成24年からの、中学体育に武道が必修化されることは、その準備を進めることを含め、都道府県剣連段階、さらにその先の剣道連盟の事業に刺激と活力を与えていることが感じられます。
この中、全剣連は事業の重点として、指導力の増強を掲げています。これが大事なことは分かっており、もっと早く取り上げなかったのかという見方も出来ますが、全剣連としては他の優先分野から順を追ってここに至ったわけで、その経過を以下に触れておきます。
事業としてまず適切に行う事が期待されるのは大会であり、試合です。そのための審判技術の向上が大事です。大会については、その在り方、運営は長年の積み上げで、体系と運用が整備されました。本年度は全日本都道府県対抗優勝大会を男子・女子に組み替え、高校生・大学生の出番を設けることで、体系整備は一段落したと見ます。
試合の運営を適切にし、内容向上のために審判技術の向上が必須であり、このための規則の整備、また講習には力を入れてきました。とくに講師要員の研修を行い、基幹となる上級講師の質を高め、これが各段階の講習に及んで行くことを期待しました。
一方講習会の体系を改め、全剣連中心から、地方の剣連に重心を移し、全剣連は地方団体を講師派遣などで助成する体制を進め、概ね定着しました。その際、地方の講習種目で、審判法の講師派遣が多かったのですが、指導法の要請が増加してきました。
さて次の重要事業は称号・段位審査ですが、現行の規則体系ができてから審査員の選考の適切化、研修の実施、審査結果の分析など質の向上に努力し、またITの活用などによる実施の効率化と相俟って、審査自体の向上が進み、ようやく目途を得ています。
以上のような推移で、ようやく事業の本命というべき、指導の充実に力を注げる段階に参りました。そしてここに至るまでに努力と準備を重ねてきました、講習の在り方の研究、指導に役立つ資料の整備も進みました。指導法の講師要員の研修事業にも取り組んでいます。また別の柱となる社会体育指導員養成事業もすでに10年を超える実績を重ね、全国的の指導層の充実も基盤として見逃せません。
これらの基盤と実績の上に、ようやく指導力の充実に、本格的に取組む段階にきました。今後各層での努力と相俟って効果を収めることができましょう。その他の分野は力を抜くということでなく前進軌道に乗って今後も努力していきます。
全剣連は指導力の充実を重点として事業を進め、剣道の普及と発展に、剣道界として成果を挙げる年になることを確信しております。
会 長 武安 義光
今年の気候のせいか九段坂を初め、都内の銀杏の晩秋の彩りが見事です。経済不況からの脱却に各界必死の努力で、ある程度の立ち直りの兆しは見られますが、デフレの進行、失業率の悪化、学卒の就職難など先行きの暗い話題にこと欠きません。
この中交替した政権での次年度に向かっての予算編成が進んでいますが、選挙時のマニフェストに縛られてか迷走ぎみです。これまでの選挙対策に捕らわれず、最適の施策に邁進することが必要です。とくに外交・防衛・科学技術・教育について、この際国の長期的進路を確認して、着実に前進するよう要請します。
剣道界は11月の大型審査、表彰などの一連の行事を終えて例年なら一段落ですが、今年は強化訓練が本格化しているほか、幹部研修会なども続き、関係役員以下汗を流して頑張っています。
法人制度改革への長期構想企画会議の検討も本格化しており、息の抜けない年の暮れを迎えています。
「まど」は例年の構成で平成21年を終えますが、読者の皆さんのご健勝と良き年を迎えられることを念願します。
全剣連の実施する審査会で最も受審者の多い、秋の一連の愛知・東京での八段から六段審査が無事終了しました。
剣道六段は受審者合計3,211名、合格率は名古屋14.7%、東京13.2%で合格者は合計443名(除再受審)でした。
剣道七段は受審者合計2,879名、合格率は名古屋9.0%、東京10.6%で合格者は合計287名(除再受審)でした。
春・夏の審査よりいずれも合格率が向上していますが、修錬の度合いによる実勢を反映したものとの感を受けました。
2日間にわたり行われ、1千5百名余が挑戦した最難関の剣道八段審査は、一次合格が両日とも7%弱、二次合格も同じく1.4%の結果となり21名が合格しました。
それぞれ難関を突破された方々にお慶びを申し上げますが、今後一層の修錬を期待します。
八段審査の内容、どうも良くなかったという長老の所見は厳しく受け止める必要がありましょう。
8月にサンパウロ近郊で開かれた世界剣道選手権大会は38カ国・地域参加の下、盛大に開催されました。日本は前回苦杯を喫した男子団体戦でも勝って面目を回復しました。監督以下選手全員の努力が報いられたものと思います。
組み替えを行っての4月、7月の両大会、生れ変わった内容の大会として行うことができました。高校生・大学生に出番を与えたことも大会を盛り上げる上で効果的でした。
剣道界全般にわたる指導力の充実、向上を進めるため、6月の役員改選の機会に、指導担当、学校教育担当の役員を指名し、専門委員会に指導委員会を、普及委員会に学校教育部会を設け、指導・教育の推進と、専門的事項の調査を加速させることにしました。
平成24年からの中学校体育授業における武道必修化への移行に備え、剣道授業の手引書の編集を急いで進めてきましたが、4月に出版して以後普及が進み、好評です。これを活用しての講習会が各地で行われています。
第57回標記大会で内村 良一(東京都)が高橋 秀人(東京都)との警視庁同士の決戦を制して2度目の優勝を飾りました。若手が活躍した充実した大会でした。一般の関心も高く、日本武道館には満員の観客を集め、剣道大会ならではの整然、静粛の雰囲気で試合が展開さたことも、他の武道、スポーツに比較して誇って良いことと思います。またNHK放送も従来を上回る高い視聴率を記録しました。
9月に開催の標記大会で、村山 千夏(埼玉県)が前人未踏の4回目の優勝を飾りました。全般的に女子剣道の充実ぶりを示す大会でした。
秋の表彰で、森島 健男氏に特別功労賞を贈賞、12月5日に贈呈しました。平成4年に剣道界最高の賞として制度が作られてから7人目の受賞です。また同日剣道功労賞が5名の方に贈呈されましたが、この1人英国剣連の会長を務め、欧州剣道の振興に努力されたJ・ハウエル氏が受賞されました。
段位の下の級位審査規程は各剣連に運用を任されており、整合性を欠く恨みがありましたので、今回30年ぶりに改定しました。地方剣連に運用を任せる点は変わりません。今回の改定では級位審査規則に基づく級位は一級から三級までとし、審査基準を示しており「木刀による剣道基本技稽古法」による審査を取り入れています。
国の公益法人に関する制度の改革により、現在の公益法人は昨年末から5年以内に、新制度への移行を行う必要がありますが、全剣連としては新制度に基づく法人としての在り方を、長期構想企画会議において行うこととしました。加賀谷 誠一議長の下、秋から熱心な討議を進めています、来年上期には結論を得ることを目途としています。
当初慶応大学の庇を借りてスタートした剣道ホームページを全剣連が自前で行うようになり10年を経ました。選手権大会の動画サイトを設けるなど、内容は充実してきており、アクセス数も本年は600万件に達する勢いです。
谷口安則氏 | 剣道範士 全剣連相談役 元福岡県剣連会長 | 05月19日 | 88歳 |
石川政勝氏 | 剣道範士 北海道在住 全国最高齢の範士 | 05月29日 | 103歳 |
砂田卓士氏 | 剣道教士 元全剣連常任理事 法学博士 元専修大学法学部長 | 07月07日 | 86歳 |
武藤嘉文氏 | 岐阜県剣連会長 国会議員として外務大臣などの閣僚を歴任され、更に昭和48年4月以来実に35年8カ月の長きにわたって剣連会長を務めて頂きました。 | 11月02日 | 82歳 |
新年巻頭言 | ・「剣道人は国勢を支える人材として努力しよう」 |
01月号 |
・秋の審査会終わる ・平成20年の剣道界をふりかえる |
02月号 |
・年頭の新聞論調 ・級位審査規則の見直し |
03月号 |
・21年度事業への構想 ・水戸東武館の寒稽古NHKに登場 |
04月号 |
・21年度事業計画決定 ・全剣連ホームページ立ち上げて10年 |
05月号 | ・「剣道授業の展開」の内容と特色 |
06月号 |
・男子だけの全日本都道府県対抗剣道優勝大会 ・選抜剣道八段優勝大会 ・GAISF武術大会開催決まる |
07月号 |
・前年度事業を振り返る ・前年度収支概ね順調 ・役員改選 |
08月号 |
・新しい役員の担当決まる ・指導業務充実に向けて体制整備 ・全剣連マークの由来 |
09月号 | ・第1回都道府県対抗女子剣道優勝大会 新潟県優勝 |
10月号 | ・世界剣道選手権大会 男子個人苦戦 女子堅陣揺るがず 男子団体前回の雪辱果たす |
11月号 |
・秋の三大会の結果 ・専門委員会始動 |
12月号 |
・全日本剣道選手権大会総評 ・剣道高段者審査会 |
剣道功労賞を受けるため、英国から来日されたハウエルさん。「剣道は私の人生そのものであり、楽しみと価値ある人間教育を与えてくれた」と心境を述べられました。
また有志での歓迎会で、グラスゴーの世界選手権大会の際、エリザベス女王の来場を実現した苦心を淡々と語られました。
会 長 武安 義光