9月を迎えても猛暑が続き、その間台風のお見舞いも受けて、今年は時候の挨拶が何時までも続く年となりました。一方世界経済の影響も受けて、円高の波が押し寄せ、予断できない国内の経済情勢です。この時期に政界では、民主党の党首を選ぶ選挙が展開されました。内外の厳しい情勢を離れた空疎な政争の動きを感じさせられましたが、菅 直人首相の続投ということで決着しました。早く国運の立て直しのできる体制を築いてもらいたいものです。
剣道界は例年の夏の行事を終え、秋の大会と錬成の時期に進んでいますが、今年はかねてお知らせしていますSport Accord(GAISFが改名)が主催するCombat Gamesの大会が計画され、北京市で開催されたので、国際剣道連盟として参加し、9月3、4日に行われた剣道大会に、各国から合計120名の参加者とともに、訪中する行事をこなしました。初めてのこの行事は、3年ごとの世界剣道選手権大会と異なり、剣道の奥深さを一般に理解してもらえるよう実施しましたが、ほぼその目的は達成できたと見ており、以下ご報告します。
さて秋本番のこれからは、剣道の最高レベルを具現する全日本東西対抗大会、女子・男子の全日本選手権大会、国民体育大会、居合道・杖道の全日本大会などの大会が続くほか、研修・講習・審査が続きます。剣道界は実りの秋の効果を収めたいものです。
この大会の名称はCombat Gamesということで、格闘技大会ということになります。13の種目の中にはわれわれが武道と認識するもののほかに、レスリング、ボクシングなども入っており、国際剣連の立場としては、違和感のある大会でしたが、競技内容は、それぞれの団体の判断で実行できるということで、参加することになりました。
剣道としては、競技のみに集中するのでなく、他の競技と異なるプログラムを組んで、その真価を示すことを目指し案を練り、加盟国の賛同を得て実行しました。
大会は8月28日から8日間の会期で行われ、各種目の日程が割り当てられ、剣道は9月3日の午後から夜にかけてと、翌4日の午後までの1日半の時間を割り当てられました。演武、試合の構成は、実行委員の苦心の上作成されましたが、別稿の各記事でご承知下さい。会場は北京科学技術大学体育館で、観客収容力は2千名余りと見ましたが、満員に近い観客を集めていました。
第1日は開会式のあと演武に入りました。挨拶などのあと佐藤 成明、浅野 修両範士による日本剣道形で口火をきり、続いて若手剣士による基本技稽古の実演を披露し、剣道の技の理解を助けました。
男子五・六・七段の全世界から選抜された24名の剣士による、トーナメントはこの大会のハイライトとなるものです。日本からは世界大会でも実績のある内村 良一、若生 大輔、寺本 将司の3剣士が出場、韓国の3名のKim代表との間で優勝が争われると予想され、これにアメリカのYang、などその他の国の剣士がどの程度食い下がるかに興味が持たれました。
試合は世界選手権大会個人戦にひけを取らない熱戦が展開されました。とくに3回戦で内村が対戦したW.Kimとは一本ずつ取っての予断を許さぬ接戦となりましたが、Kimが不幸にも足を痛めて中断した後、内村が抜き胴で難敵を制した試合はこのトーナメントでの白眉といえるものでした。決勝戦は昨年の全日本選手権者内村と、昨年の世界大会個人優勝の寺本との対戦という順当な進行になり、内村が胴をとって優勝の栄冠を勝ち取りました。
三・四・五段の女子選抜個人戦は、16名の選手により実施、日本からは小津野(旧姓坪田)祐佳と鷹見 由紀子の2名が出場、鷹見が調子が出ずに、準決勝で、韓国Jeon選手に敗れました。一方小津野は好調に試合を進め、4名の対戦相手に一本も許す事なく、いずれも二本勝ちで、栄冠を手にしました。
女子六・七段選手の試合となると、各国も人材が少なく、8名の選手の中で、日本の村山 千夏、庄島 幸恵の2名は群を抜いた存在に見えました。決勝は両名の対戦となり、村山が二本勝ちして優勝しました。
2日目は土曜日でもあり、観客は前日を上回る多数でした。日本の範士による剣道形、居合道、杖道の形を行いましたが、朝鮮勢法という形が特別に披露されました。
個人試合に出場する選手から27名、中国選手3名を加えた30名の選手による、東西対抗試合が実施されました。東西の分け方は、欧州、台湾、中国に韓国を加えた東軍、米大陸、豪州・ニュージーランドに日本が加わった西軍として行いました。
これは勝負を争うというより、多彩な内容の親善試合を行うことが出来ました。
各国から選ばれた八段の剣士による優勝戦は、この大会ならではの試合で、今次大会の最大のイベントとして、期待されていましたが、それに相応しい試合が展開されました。
普通のスポーツでは見られない年配での、熟達した剣技と風格のある試合は、観客も昨日見た選抜戦と異なるレベルの剣道の奥深さ初めて見た事でしょう。試合は日本の船津 晋治、古川 和男の両選手を中心に進められた印象ですが、韓国の強豪H.Parkと船津の準決勝における対戦は満場を引きつけるレベルの高い試合でした。
試合は予想通り、船津・古川の日本選手の対戦となり、古川の優勝で決着しました。剣道の特性を遺憾なく発揮した出場選手の健闘に敬意を表するものです。
予定の試合を終え、表彰と閉会式が行われましたが、このあと剣道の特色を示す行事が続きました。生涯剣道の実を示す、幼少年者の高齢者への打ち込み稽古、若手剣士の高段者への掛り稽古、範士クラスの模範立ち会い、初心者体験教室のあと、最後に参加者による合同稽古という、他の種目では考えられないプログラムをこなして大会を終えました。
剣道自体のもつ、礼法、剣士の挙動などに見られる特性、さらに生涯剣道の展開など、剣道の特色を織り込んだ演武を通じ、主催者としても良い経験を持ち、さらに現地の人々の理解、評価を得ることができたものと感じています。終りに計画、運営に当たった方、出場して立派な演武をし、また審判などに当たられた方々など、ご努力頂いた方々に深甚の謝意を表させて頂きます。
大会の記事で後回しになりましたが、審査規則で重要な改正が進められます。初段受審資格はこれまで中学2年からでしたが、生年月日の差による不均衡を正すこと、小学生の剣道が盛んになっている現状への対応などの観点で、来年度より13歳より受審できるよう改定する方向で手続きを進めます。
秋の恒例行事である第14回写真コンテストで別記のように入賞者が決まりました。これらの作品は来年のカレンダーを飾ることでしょう。審査員のお話では質の向上が感じられるとのことでした。杖道・居合道の演武、示現流形などの題材の作品も入選しました。
写真コンテスト審査風景 筆者写す
9月11、12日に恒例の標記講習会が、京都市武道センターで開催されました。各都道府県を代表して集まる者102名。この講習会の特色は高段者の多いことで、半数の52名が八段(うち範士11名)で、女性も6名おられます。文字通り各剣連での指導の中心として活動されることでしょう。
居合道中央講習会 筆者写す
下の写真をご覧ください。北京での大会で、生涯剣道の実践の部分に引っ張り出されて、少年の打ち込みを受けました。この場面が案外好評で、現地の新聞に載り(10頁参照)、テレビでも放映され、大会公式ホームページにも登場しました。お役に立てて結構でした。
中国少年剣士と演武する筆者
会 長 武安 義光