春も間近の3月11日(金)の午後、東京・九段南の全剣連の役員室で私は2、3名の役員と雑談をしていたとき、大きな揺れが始まりました。ゆったりとした揺れはなかなか止まらず、遠距離で起こった大きな地震であることが直感されました。すぐに隣室のテレビで今回の東日本大震災の第一報を知りましたが、津波によるこれ程の大災害に連なるものとまでは想像できませんでした。
その後報道される情報から、この地震は東北の太平洋岸に、近世起こったことのない大きな被害をもたらしたことが分かってきました。外部への電話は通じないし、都内の電車はことごとく停止し、交通渋滞で自動車も役に立たず、職員も帰宅できない者が過半数となったので、一同籠城覚悟で事態の推移を見ることにしました。幸いビルには被害がなく、電気も水も止まらなかったので、被災地のことを思えば申し訳ないような状態で、一夜を明かしたというのが我々の大震災の日の行動でした。
その後に報ぜられた被害の状況は、想像を絶するものであることはご承知の通りで、犠牲になられた方に、お悔やみを申し上げると共に、多くの被害を受け、生活の基盤を失った方々、身内に犠牲者を出された方々のご心痛にはお見舞いを申し上げたいと思います。恐らくその中には剣道愛好者の方もおられる事と存じますが、心からご同情致す次第です。
さてこの度の災害は、歴史を振り返っても例を見ない国難というべき程のものであり、これへの対応、復興は全国民が共に努力すべきことでありましょう。そしてその原動力となるのは、これまで幾度も遭遇した難事を切り抜けてきた日本人の底力というべきものです。その人間力を養うのが、剣道の目指す所でもあります。お互いこのことに想いを新たにして、剣道人としての努力を重ねるべきと思いますし、全剣連も事業を進めます。
全剣連としては、全国各地から参集願う年度末の評議員会・理事会を、3月15日(火)に予定しておりましたが、交通事情等を考慮して延期することにしました。しかし急を要する議案があり、3月30日(水)に開催することにしました。この会議において後に述べるように、大震災の被害を受けた剣連に対して支援のための義援金の拠出、負担の軽減、行事に参加できなくなった方への返納、義援金取次等の対応策を決定しました。
春休みに予定されていた、高校・少年を対象とした、いくつかの共催・後援の大会が主催者の判断で中止されたのはやむを得ないことだったでしょう。また新年度の剣道界の事業としての、東北・北海道対抗剣道大会、原子力剣道大会、全国税関剣道大会等の後援大会、4月に予定されていた各剣連での後援講習会等の中止が相次ぎました。
全剣連としては、災害地の事情は考慮しますが、新年度事業計画に予定されている剣道の行事はできるだけ前向きに取組み、萎縮しないで実行に移し、剣道人の活力を振興し、社会に広げていく心構えで努力をしていく方針です。
新年度の劈頭に行われる、東西の中央講習会に始まる行事は、予定通り開催致しました。続く女子の強化訓練講習会・女子審判講習会、全日本選抜剣道八段優勝大会、4月末から京都・大阪を中心に展開される行事も予定通り進めることにしております。
3月15日に開催を予定していた会議は大震災の影響で、繰り下げて30日に開催しました。しかも予定していた九段会館が被害を受け、犠牲者も出たということで休業、そこで会場を近くのベルサール九段に変更しました。
評議員会には東北4県の代表が欠席されたほかは、不便な交通事情の中に参集頂いて開催することができました。初めに今回の災害の犠牲になった方に一同黙祷を捧げ、23年度事業計画、収支予算等の議案審議を進めました。
事業計画には、災害を被った各剣連に見舞い及び義援金を拠出する等、支援措置を講ずる事項を前文に加えました。
収支予算については、経済・社会情勢の変化が読めない現状のもと、比較的好調であった22年度に準じた予算を計上しました。以上2件はそれぞれ評議員会・理事会の議を経て決定され、ギリギリながらの年度内決定で、新年度に向かい発足することになります。概要については別掲記事、先月号の「まど」にも掲げておりますのでご参照下さい。
この度の災害に対して、全剣連として見舞いの措置をとることにし、3月30日の会議に提案決定されました。細部は別掲の記事で御覧頂きますが、義援金として岩手・宮城・福島の3県の剣連に各250万円、その他65万円を計上し、3剣連の23年度分担金計185万円を免除することにし、合計1千万円の支援を行うこととしました。またすでに申し込んでいた大会・審査会に、災害のため出席できない方には、審査料・参加料をお返しすることも行います。
支援のための金額は世の中で報道されている援助に比べ、少ないと感じられるかと思いますが、全剣連の収入は、大部分が剣道愛好者の浄財の積み上げであり、この中からの拠出であることから、資金の性格の相違があることをご理解願いたく存じます。
さて全剣連としてはこの他に有志の方の浄財をお取り次ぎすることにしています。この額は4月13日(水)現在、52口・352万円余になっています。この中で全日本学生剣連から220万円の義援金を、鳥居 泰彦会長がご持参頂き寄託されたことを特にお知らせしておきます。
昨年11月に提案しましたが、趣旨の説明不十分の点もあり、取り下げて再提案した標記の改定案を改めて3月30日の評議員会・理事会に再提案、異義なく承認され決定し、新年度の審査から実施されます。
従来の中学2年という資格を、満年齢に改め、13歳から受審できることになります。中学1年の内に受審でき、若干の引き下げになります。その趣旨については3月号のこの欄で述べておりますのでご参照下さい。またこの変更は国際剣連の規定に連動されることを予定しております。
新年度事業のトップバッターは東西に分かれ4月2日(土)・3日(日)に同時で行われる剣道中央講習会です。各連盟の指導の中心になる方々の参集を求め、新年度の講習、指導の在り方を再確認し、指導力を高めるための講習で、全剣連が最も重視する講習会です。
東日本の場合、当初予定した東京の会場が使えなくなりましたが、他の事業が中止され使用可能になった、勝浦の日本武道館研修センターを利用しての予定期日での実施でした。傍聴で加わった方を含め、60名の代表の高段者が参加されました。
災害地の剣連からも代表の方の参加があり、この時期であっても充実した講習会となりました。
第46回の歴史を持つこの講習会、当初の中央からの伝達を中心とした講習会でしたが、現在は受講者の指導力を磨き、各剣連での指導のレベルを高めて行くための講習であると位置付け、その趣旨を要望しております。JR外房線は特急列車が運休で、交通不便の中で行われ成果を収めた講習会でした。
神戸市立中央体育館での西日本中央講習会、田口榮治講師の東西掛け持ちの指導もあり、同じく成功であったと承知しております。
東日本大震災により会場を変更して実施された第46回東日本中央講習会
この度の震災にあたり、海外の剣道関係者から多数のお見舞い、激励の文書を全剣連幹部、また事務局に対し頂戴しました。厚くお礼申し上げます。詳細は国際コラムを御覧下さい。
例年5月号は九段の桜で始まるのですが、今年は最後に登場です。九段・千鳥ヶ淵の桜は例年より2週間くらい遅れた代わりというべきか、ことのほか見事でした。
毎年行われる夜間照明のある桜祭り等の行事は全部中止されましたが、自然の中で花を楽しむ人にはかえって良かったかも知れません。恒例の靖国神社の中での全剣連夜の花見は見送りました。
会 長 武安 義光