日本列島は青葉の季節を迎えています。しかし3月11日(金)の東北地方の太平洋沖の大地震、これに伴って起きた大津波は近世稀に見る大きな被害を与えました。福島原子力発電所の事故は、歴史の新しい原子力発電における世界的な大災害として、直接の犠牲者こそ出ていないものの、排出された放射能によって、近隣地区の住民に不安と深刻な影響を及ぼしました。とくに2カ月を経た今日、発電所が安定状態になっていないこと、修復の見通しが明確になっていないという状態は、原子力事故の深刻さを示した文明の悲劇を現出したものと言うべきでしょう。
直接回復の衝に当たっている方々は不眠不休の努力をしておられることと思います。沈静化の早からんことを祈念します。一方地震・津波の被害を受けた地域の復興、社会機能の回復が進むよう、政治・行政が正常に機能する方向に進展することが切望されます。
さて剣道界として義援金の拠出、取次の方針を決めました。そして交通機関のある程度の回復を見た、4月下旬に岡本淳常任理事が、岩手・宮城・福島の3剣連をお見舞いし、被害状況を伺うとともに、全剣連の見舞い金を贈呈しました。
一方新年度を迎えた剣道界は、災害に萎縮することなく計画に沿って事業を進めています。年度初頭の東・西剣道中央講習会に続いて、全日本選抜剣道八段優勝大会を行い、ゴールデンウィークを中心とする、一連の大会・審査会を正常、活発に開催することを目指しました。
大阪市での男子の全日本都道府県対抗剣道優勝大会に、東北3県は選手を送れませんでしたが、大会は活発な試合が展開されました。5月初頭の京都武徳殿を中心とする、全日本剣道演武大会、一連の審査会は、天候にも恵まれた新緑の古都で、充実した内容で行うことができました。これは剣道界としての喜びでもあります。新年度事業は良いスタートを切ることができました。
大阪市中央体育館で開催された、新年度初頭の歴史あるこの大会は、高校生・大学生を加え、男子だけの大会となって3年目、今年は残念ながら東北の3県の姿を見ることができませんでしたが、44都道府県で優勝を争う熱戦が展開されました。
この大会の過去58回の優勝を振り返ります。関西で始まり長らく開催地となっている大阪府が強く、これまで15回の優勝を飾り、東京都が10回と、両者で半数に迫っています。続くのは九州勢で福岡県5回、鹿児島県・熊本県4回と、いずれも剣道人が多い地域であり、さらに人口の少ない県でありながら、第31回大会から3連覇を果たした宮崎県の記録も光ります。
3回組ではこのほか北海道・埼玉県・岡山県、2回優勝は兵庫・愛知・大分の3県、新潟・栃木の2県が1回と続きます。以上総括すれば優勝経験があるのは大阪府・東京都のほか、12道県であり、層の厚い九州5県の18優勝は頷ける成績です。
この中、本年大会で優勝候補をつぎつぎと倒し、6試合を勝ち抜いて昭和51年以来の優勝を飾った大分県の奮戦は、大会史に光彩を放ったものでした。第1回戦秋田県を制した後、有力チームである難敵京都府と対戦しました。先鋒が勝ち、次鋒学生の三雲が敗れたあと引き分けが続いて、同点のまま大将同士の決戦になりましたが、大将笠谷が石川を制して3回戦に進み、前年優勝で今回も最有力と見られていた東京都と対戦しました。この試合先鋒から大将までの7試合が全部引き分けるという珍しい経過で、大将同志の代表戦になりましたが、ここで大分笠谷が、東京の林をメンで下し、大きな1勝を上げました。
その後大分県チームは、千葉県・大阪府を前陣から押しまくって、決勝戦に進み福岡県と対戦、先鋒・次鋒が勝った勢いで、三将で優勝を決めました。
この大会、年齢・職業を組み合わせた選手構成で行いますが、第46回大会から前陣に女子2名を加え、また前々回大会より、女子の代わりに、高校生・大学生を加えた男子大会に改めています。この構成の変化に対応して総合力が微妙に変化します。今回の大分県チームは充実した前陣の活躍が力になったことは否めません。人口の少ない県も優勝のチャンスが出てくることになります。
次回は全都道府県参加のもと、第60回大会を持ちたいものです。
明治28年の大日本武徳会発足とともに仮設会場で始められた大演武会、戦中・戦後の中断期を経て、昭和28年に京都大会の名のもとに復活、平成4年より現在の名称に改められました。
回数も明治以来の大会を通算し、本年は第107回大会となりました。明治32年に竣工した武徳殿を会場として続けられているこの大会は、ただ剣道だけのものでなく、古都京都にふさわしい国の文化事業の一つと確信します。
5月3日に行われた開始式には毎年、京都府知事・京都市長からの祝辞を頂きますが、今年は門川大作市長自らご来場、祝辞を頂くことができました。また例年通り京都府剣連伊吹文明会長は力強い歓迎の言葉を述べられました。
この大会は全国の剣道人が集う、お祭りの要素も持っています。参加資格を10年前から、六段以上・称号受有者と制限していますが、幸い参加者は3千名を越え、年々増加の傾向にあるのは何よりのことです。今年は好天気に恵まれて日程を終えることできたこと、ご同慶の至りで、運営に当たられた京都府剣連の方々のご尽力にもお礼申し上げます。剣道の文化的側面を併せて示す剣道人の行事として、今後も発展して行くことを念願します。
開会式で祝辞を述べる門川大作京都市長 右は伊吹文明京都府剣連会長
演武大会に併せて行われる、剣道・居合道・杖道の八段審査、剣道七・六段審査は、次週の名古屋での剣道七・六段審査と併せて、例年どおり合計6,308名の剣士が、高段を目指して、それぞれの審査会場で修錬の成果をぶつけ合いました。
結果は別掲の記事でご承知頂きますが、八段審査は、5月1日(日)・2日(月)両日行われた剣道審査会で合計1,532名の受審者の中から17名、5月3日(祝)の居合道八段は157名の受審者から7名、杖道は35名中のから3名の方が栄冠を勝ち取られました。
剣道七・六段審査は4月29日(祝)・30日(土)の両日、西京極の京都市立体育館において、また5月14日(土)・15日(日)に名古屋市枇杷島スポーツセンターで行われました。合計して剣道七段は2,155名の受審者から296名、(合格率13.7%)剣道六段は2,429名から398名、(合格率16.3%)の方が合格されました。
合格された方にお慶び申し上げると共に、不成功に終わられた方々には修錬を重ねられて再挑戦されることをお願いします。
段位・称号を通じて剣道界の最高位とされている、範士審査は年1回京都で行われます。その結果は別記事で御覧頂きますが、まず5月3日に行われた居合道・杖道の審査で、それぞれ2名・1名の新範士が生まれました。
剣道範士の審査は大会終了の翌日6日(金)に行われました。各剣連から87名という多数の候補者の推薦がありましたが、審査員による予備調査を経て、本審査で5名の方が合格されました。
現行規則による範士は最高位にふさわしい方として、以前のような年功によらず、特に優れた方を選任しています。各剣連の推薦にあたってはこの点を熟慮していただきたいものです。
さて教士・錬士の選考も行われ、それぞれ合格者を決定しましたが、今回は剣道教士の筆記試験の成績が良く、全員合格の結果になりました。結構なことと存じています。
この結果はすでにお知らせしていますが、今回優勝された東八段は、前身の明治村大会時代から、初めての愛知県選手の優勝であるとのこと。まずは開催地として喜ばしいことでした。
このたびの災害に対し、李虎岩氏から多額の見舞い金を頂きました。李氏は日本の剣道界でも著名な韓国剣道界の長老ですが、ご厚志に深甚の謝意を表します。
先日の六段審査の際、受審の方の携帯品の中から、貴重品を盗もうとした犯人を、張り込んでいた京都府警の私服の刑事さんが、現行犯で逮捕されました。剣道着に着替える関係上、携帯品の管理には隙が出来、これまでもしばしば被害を受けています。警察のご努力に感謝し、お互いさらに気をつけなければなりません。
会 長 武安 義光