緑の季節から早くも梅雨に入りました。京都での大会・大型の審査会も終り、剣道界はそれぞれ修錬の時期に入っています。学校関係では、夏の大会を目指して猛練習が進められていましょう。剣連・団体では前年度の事業報告・収支決算を固め、人事の異動が行われる時期を迎えておられましょう。
国内情勢に目を移しましょう。安倍晋三内閣は長年の不況から脱して、成長路線を志向しています。特に参議院選挙を控えての新政策の立案・発表に躍起となっていますが、株式や為替相場の激しい動きが起り、予断を許さぬ世界経済の動きに翻弄される状況です。総合的に積極策を打ち出すのは、近年見られなかったことですが、世界経済の状況・国際政治のバランスなど、多くの条件に左右される他、巨額の借金を抱えた国の財政事情があります。
積極策がそのまま実行できるとは、俄かに期待し難いことは誰でも感じているのでしょうが、沈滞から上昇へ進もうとする政府の方針が、民間の活力を蘇らす作用とともに、国民の意識を高める方向に進むことを期待します。剣道界も、全剣連事業計画の基本方針にある人造りの役割を、着実に果していかねばなりません。
24年度事業の締め括りを行う理事会は、5月30日(木)にホテルグランドパレスで開催されました。事業報告の内容を振り返ります。
まず大会では主催9大会・学校関係など共催8大会・さらに主管の国民体育大会・青年大会を含め、全国規模の大会を実行し、いずれも盛会裡に終えることができました。主要大会については全剣連設立60年の冠大会として実施、賞品などについて配慮しました。また職能別・組織別などの80の後援大会に対し、支援しました。
普及活動では、まず年度始めに、関連剣連の派遣者を対象にして、東西で中央講習会を開催。八段合格者に対する研修会・諸問題を総合的に研究する剣道研究会などを行いました。
次に各剣連主催の剣道講習会49回を後援し、講師派遣など援助を行い実施しました。また毎月日本武道館で実施する合同稽古会の他、各ブロックでの合同稽古会37回を支援しました。
学校教育関連では、中学校武道必修化に伴って展開している剣道指導者講習会を「剣道を専門としない体育の教員」を中心に、5ブロックで実施しました。
事業の重点としている指導法・講習法の内容を高めるための研究、また普及のための研究を行っていますが、『剣道授業の展開』のDVDを作製・配布した他、研究成果の発表などを行いました。また「指導法講師要員」の研修を行っています。
広義の普及に入りますが、強い剣士の養成には意を用いています。世界剣道選手権大会で、恥ずかしからぬ成績を収めるための強化活動は男女若手選手の訓練を行いましたが、この他に中核となる剣士を養うため、50歳以下の剣道七段の剣士を対象とした、50回目を数える中堅剣士講習会、また18歳から25歳の若手剣士を2年間ずつ指導強化する、選抜特別訓練講習会(通称・骨太剣士養成講習)では56名の第4期の講習を終えました。
平成7年から続けている「社会体育指導員養成事業」は内容の改善を図りつつ進められ、初級認定者は累計7千名に及びました。
さて全剣連事業の大きな柱である、称号・段位認定事業は順調に進められました。全剣連が実施に当る六段以上の審査では、総受審者数は1万9千6百名で、前年比1千名の増加でした。
一方全剣連の委任により地方剣連が実施している五段以下については、合格者総数は88,000名余で、前年比微増でした。
ただ剣道人口動向の指標となる初段取得者数は、前年比5千名減って4万1千名となっていますが、これは既にお知らせしているように、初段受審資格を満13歳と切下げた影響で、一時的に昇段者が増加したことの反動で減少したものです。
国際関係では、まず第15回世界剣道選手権大会をイタリア・ノヴァラ市で開催し、国際剣連事務局として運営に当ったこと、大会では苦戦した面もありましたが、4種別すべてに優勝しました。また3年後の第16回大会の東京開催も決まりました。
さて居合道・杖道においても、事業が順調に進み、内容も向上しました。
その他、広報・資料・事務管理関係でそれぞれ、仕事が進んでおり、特に情報関係では、インターネットの利用が進みました。
政府の公益法人改革の方針に基づいた改革を進め、昨年4月より一般財団法人としてスタートしたことも報告されました。
以上要点を述べてご報告としますが、事業展開は順調で、内容的にも向上が感じられ、日本の剣道界は充実の方向に進んでいると申し上げます。これは執行部だけでなく、各地の剣道関係者のご努力が実っていることを感じ、感謝申し上げる次第です。
前年度の収支の決算を見ますと、60周年記念事業・世界剣道選手権大会などの臨時ともいえる事業が目白押しでしたが、収支面で見ると、黒字決算で過去の蓄積を取り崩す必要が無かった好決算を行うことができました。この原因の大きな物は主な収入である登録料・審査料の増加で、支出の増加をカバーできたことによります。
この方面の収入の増加は、剣道愛好者の上級への挑戦の増加、つまりは剣道界の活況を反映したものであり、健全な収入増加によるものと評価しています。内容は別掲の記事でご承知ください。
2年ごとの役員の任期を終え、新しい理事・監事候補者が、6月17日(月)の定時評議員会で選任されました。既に30名の理事候補者と3名の監事候補者名が理事会で決まり、評議員会に提案・承認され決定されました。これは新しい定款に定められた手続きによるもので、一般会社の役員決定が株主総会による場合と同様です。選任された理事は、7月2日(火)に開かれる新理事会において会長以下の役職が互選され決定しますが、これは従来の手続きと変わりありません。
理事の候補者は新しい定款においても従来の方法を踏襲し、30名のうち半数は地方剣連の推薦、その他に4名が職域団体の推薦という慣例になっており、残りが会長・副会長以下の前執行部の枠になります。地方推薦の理事の配分は内規によって決まっており、人選はブロック内剣連の言わば盥(たらい)回しで、1期毎に入れ替ります。
さて執行部枠の中では、今回は若返りが行われます。これまでの会長の私と、加賀谷誠一副会長の名が消えていることに気付かれることでしょう。顧みると平成9年以来、8期の長きにわたって、会長を務めてきましたが、漸く肩の荷を下ろさせて頂きます。
定時評議員会での加賀谷副会長(右)と筆者
前年度事業の記事を終え、新年度に移ります。5月中旬で主な大会・審査会は一段落し、この緑の時期は、各剣連とも教育・訓練を中心に進められていましょう。全剣連も5月22日(水)より、奈良市中央武道場に全国から50歳までの幹部になるべき七段剣士の集合を求め、5日間の強化訓練を行いました。6月に入って6日(木)より新八段研修会、13日(木)より勝浦市武道館研修センターで、本年度第1回の女子強化訓練と続きました。
15日(土)からは東京夢の島ぶんぶでの指導法講師要員研修会に、八段戦などで実績を残した顔触れの多い28名が集いました。今後の各地での講習の効果に確信を持たせる、熱心な受講振りでした。
ジャワ島バンドンの航空部隊で終戦を迎えた私は、1年足らずの捕虜扱いの時期を経て、昭和21年5月末に、ジャカルタの外港タンジョンプリオークで、米国から貸与された復員船に詰め込まれ、帰国の途に付きました。平和になった海を行く穏やかな航海でした。夜になると甲板に出て、星空を眺めました。南の中空に見えた南十字星が低くなり、姿を現した北斗七星が夜毎に高く光るのを見て、故国が近付くのを実感しました。
部隊の仲間での別れの寄せ書きに書いた字句、「祖国再建は我ら成し遂げん」には20歳台半ばの気概が残されて、懐かしく60年余り前が思い出される毎年です。
6月12日、和歌山県田辺港に上陸、4年半の軍務を終えました。私の第2の人生の出発の日でした。私事に触れたことご容赦ください。